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日本盲導犬協会、盲導犬ユーザー受け入れ拒否の実態を報告

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  • グラフ1[拒否の起きた場所]
  • グラフ2[盲導犬受け入れへの懸念点]
  • グラフ3[受け入れ拒否の原因]
  • グラフ4[盲導犬受け入れ拒否にあった人の割合
  • グラフ5[コロナ禍 外出時の困りごと]
  • 医療機関のルールづくりをサポートする様子1

日本盲導犬協会は、2021年度に盲導犬ユーザーから相談が寄せられた盲導犬同伴による受け入れ拒否への対応事例を公開した。

同協会は、盲導犬同伴で受け入れ拒否にあい、ユーザー自身の説明では理解が得られなかった場合、要請に応じて協会が問題解決へむけ対応する「アドボカシー活動」を2005年2月から展開している。2021年度は、37件の対応依頼が協会に寄せられた。

その37件のうち、受け入れ拒否が起きた場所は、医療機関が13件(35%)で最多、次に飲食店の9件(24%)、宿泊施設の6件(16%)という回答だった。医療機関が最多となるのは、2005年以降初めてのこと。医療現場での拒否が増えた理由としては、犬がウイルスを運ぶなど誤った理解があったこと、敏感になっている他患者への影響を懸念しているなどが推測される。

つづいて受け入れ拒否対応・事例について紹介する。

青森県内の新型コロナウイルスワクチンの集団接種会場にて、ユーザーがワクチン接種の予約時に「犬は入口か通路で待たせて」と言われたという。初めて行く場所で犬を待機させることに不安を感じ、ワクチン接種対策室を事前に訪問し、盲導犬の受け入れに関する資料を持参し説明。接種室の担当者からは「当日の担当医にも説明しておきます」と返事があり安心していたが、会場へ行くと、事前に説明していた内容は周知されておらず、犬を入口で待たせるよう言われた。ユーザーは「犬を離れた場所で待機をさせるのは心配だ」と伝えるも、担当医より「衛生上、診察室に盲導犬が入るのは好ましくない」との指示があり、診察室前で盲導犬を待機させることになった。協会が対応することで、2度目の接種では正しく周知され、盲導犬を待機させることなく同伴することができた。

ユーザーが受診の問合せをしたところ、「ルールや設備が整っていない。すでに受け入れている病院で受診してほしい」と断られた事例もある。受け入れ方の説明もしたが、聞き入れられなかったため予約を諦めることになった。後日、協会から法律や具体的な受け入れ方を助言しルールを作成。結果的にユーザーは予約することができ、当日も問題なく受診ができた。

また、ユーザーが予約の上で歯科を訪れたところ「犬は玄関に置いておくように」と言われ、やむを得ず同伴していたヘルパーに盲導犬を預けて受診した事例もある。「犬は土足だからコロナを持ち込むリスクが高い」という理由や、そのほかにも「診察室は手術室と同等の清潔区域のため犬は入れられない」、「他の方の迷惑になるから午前最後の時間でなければ予約は受けられない」など多くの制限を課せられた。後日、他の歯科の受け入れ事例を交えて説明することで法律への理解が得られた。

飲食店を訪問したところ、「犬アレルギーの人がいるかもしれない。責任者不在のため判断できない」と店員に断られ、食事を諦めたユーザーもいる。改めて店舗責任者に問い合わせると「盲導犬が入ったら他のお客さんの迷惑になる。飲食店は今とても厳しい。他のお客さんから苦情が入ったら責任をとれるのか」と強い口調で拒まれたという。後日、行政窓口が店舗へ説明し、理解を得た。

一方、受け入れる医療機関側からは「診察室には衛生的に犬を入れられない」「コロナへの不安感がある中、犬の存在は苦情に繋がるかもしれない」など犬の衛生面での懸念の声があった。こうした不安を解消するために協会は、身体障害者補助犬法に基づく盲導犬の衛生管理を説明するほか、どこまで犬と同伴できるか、犬の待機場所の検討など、病院内のルールづくりのサポートも実施した。

また、受け入れ拒否の原因を聞き取ると、大きく3つの回答があった。受け入れ側の事業者が「法律を知らなかった」が15件(41%)、 事業者が法律をよく理解しておらず「受け入れ方を誤解していた」も合わせると24件(65%)に及ぶ。他には「従業員への教育不足」が7件(19%)と、いずれも身体障害者補助犬法の周知が進んでいないことが明らかとなった。

身体障害者補助犬法成立から20年。2019年日本補助犬情報センター「就労している成人への身体障害者補助犬法周知と身体障害者補助犬の受け入れに関する調査」 によれば、市民の補助犬法の認知度について「法律の名称も内容も知らない」と回答した人が68.6%と報告されてる。障害のあるなしにかかわらず、誰もが自由に社会参加できる共生社会実現へ向け、事業者への身体障害者補助犬法および障害者差別解消法の周知が急務であると考える。

2021年1月1日~12月31日には、コロナ禍の盲導犬ユーザー外出時や社会参加での「困りごと」聞き取り調査も実施。調査は、日本盲導犬協会所属のユーザー(盲導犬使用者)225人を対象に職員による電話とメールで行われ、215人(男性96人、女性119人)の回答が集まった。

その結果、盲導犬同伴を理由にした「受け入れ拒否」については、75人(35%)が「ある」と回答。これまでは60%前後で推移してきたが、コロナ禍になって前回の41%から今回の35%と大きく減少している。

「ある」と答えた人の多くが複数回の受け入れ拒否を経験している一方で、「ない」という人からは「コロナ禍なのであまり外出しない」「利用経験のある店にしかいかない」とする声が多くあった。これらのデータから受け入れ拒否の減少は、コロナ禍でユーザーの外出頻度が減ったこと、行動範囲が狭まったことが要因と推察される。

「外出時の不安・困りごと」は選択肢7つの複数回答だったが、「ソーシャルディスタンスが分かりづらい」が42%で最多だった。次いで「商品などを触るため周囲の目が気になる」(21%)、「周囲に手引きなどのサポートを頼みづらい」(19%)など、周りに気兼ねしながら外出するユーザーの姿が浮かぶ。 自由回答では「消毒液の置き場所が分からない」「レジ前などの床にあるソーシャルディスタンスの印が分からず並ぶのに困った」といった意見、「スーパーで買い物のサポートを得るためには前日予約が必要になった」「ヘルパーに同行援護をお願いしたら電車や人混みは嫌だからと断られた」という声があった。盲導犬と単身で自由に外出できるはずが、感染対策がバリアになって外出できない。コロナ禍3年目にして、視覚障害者の困りごとは解消されていない現状が浮かび上がってきた。

また、 ここ1年間の「障害に対する人々の理解や考え方の変化」を尋ねたところ、84人(39%)が「良い変化があったと感じる」と回答。この回答を年別に振り返ると、49%(18年)、44%(19年)、39%(今回)と減少傾向にある。その理由として「出かけていないのでわからない」「人との関わりがなく分からない」という内容が多く、外出の機会が少なく変化を実感しづらかったことが考えられる。

一方で、「変化した」と答えた人からは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会や、視覚障害を題材にしたテレビドラマの影響で「声を掛けられる機会が増えた」という意見が多数あり、メディア報道が人々へ与えた影響がうかがえる。

同協会は今回の調査結果を受け、各種セミナーやYouTubeでの情報発信をさらに強化していくとしている。

《山本真美》

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