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【働く犬たち】盲導犬、介助犬、聴導犬に関する「身体障害者補助犬法」とは?

介助犬のケープ
  • 介助犬のケープ
  • 補助犬受け入れ施設であることの表示ステッカー
  • 厚労省作成の啓発ポスター

縄文時代の遺跡からも骨が見つかる犬。世界に目を向けると、農耕が始まった約1万年以上前には人間と犬が一緒に生活していた痕跡が見つかったという説もある。現代ではペットとして暮らすケースが多い犬たちも、もともとは人間の生活をサポートするパートナーとしての役割が大きかっただろう。

警察犬や麻薬犬、先日REANIMALでも紹介した猟犬(関連記事)など、現代でも「働く犬」たちは様々な所で活躍している。最近では、災害救助犬やセラピードッグなども注目を浴びている。今回はそんな働く犬の中で、ハンディキャップを持っている方々の日常をサポートする犬たちに関連する法律を紹介する。

「補助犬法」って何?

「身体障害者補助犬法(以下、補助犬法)」は、身体にハンディキャップのある方々の「自立及び社会参加の促進に寄与することを目的(補助犬法)」に2002年10月1日から施行された。

この法律により、様々な施設に補助犬の同伴が認められるようになった。国が管理する公共施設や住宅、事業所などはもちろん、交通機関、デパート、ホテル、飲食店など不特定多数が利用する民間施設も、やむを得ない理由がある場合を除き補助犬の同伴を拒否できないことになっている。

盲導犬に関してはそれ以前から「道路交通法」による定めが存在したが、補助犬法の成立によって聴導犬と介助犬に盲導犬を合わせた3種類が「身体障害者補助犬(以下、補助犬)」と決められた。同法は、補助犬を使用できる環境を保障するとともに、使用者と訓練事業者が負うべき義務についても取り決めている。

補助犬使用者の義務…愛情について法律が言及

一般的なケアはペットと同様に、シャンプーやブラッシングで犬の体を清潔に保つなど衛生面に注意するとともに、定期的な予防接種や健康健診を受けて健康管理に努めなければならない。

ただし、補助犬法第21条には「犬の保健衛生に関し獣医師の行う指導を受けるとともに、犬を苦しめることなく愛情をもって接すること等により、これを適正に取り扱わなければならない」とある。努力義務とはいえ、国の定める法律が犬の取り扱いにも配慮しているのは評価できるのではないだろうか。

外出時は、周囲が補助犬であることを認識できるような表示を着けなければならない。盲導犬の場合、胴輪(ハーネス)が、介助犬と聴導犬はそれぞれ「介助犬」、「聴導犬」と書かれたケープを装着している。当然ではあるが、使用者は外出時、他人に迷惑をかけないよう犬の行動管理に責任を持つ義務を負う。

また補助犬法には、「公衆衛生上の危害を生じさせるおそれがない旨を明らかにするため必要な(中略)書類を所持し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない」とある。病院などの施設では、「身体障害者補助犬健康管理手帳」や「身体障害者補助犬認定証」の提示を求められる場合もあるようだ。

訓練施設の義務

令和2年4月現在、全国で盲導犬が909頭、聴導犬が69頭、介助犬が62頭登録されている(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部)。それら補助犬の訓練・研究を行う団体(一般社団法人・一般財団法人・社会福祉法人)も、介助犬で25、聴導犬で20の事業者が厚生労働省(厚労省)の認定を受けている(一部団体は介助犬・聴導犬両方の育成を実施)。

これらの団体は、良質な補助犬(盲導犬・聴導犬・介助犬)を育成する義務を負っている。補助犬としての適性をもった犬を選び、獣医師との連携を確保しながら使用者のニーズを適確に把握した上で訓練を行うこと、と定められている。また使用者に補助犬を渡した後も使用状況の調査を行い、必要な場合は再訓練を行うことも必要とされている。

訓練・研究を行う事業者には罰則規定もある。厚労省による調査や質問を受けた際、虚偽の報告をしたり立入調査を拒んだりした場合には、違反行為を行った指定法人の役員または職員に20万円以下の罰金が科される。

社会の義務

前述のように、国や公共交通事業者は、その施設に補助犬を同伴することを拒んではならないとされている。これは、従業員にも適用される。また、「障害者の雇用の促進等に関する法律」で定められた「障害者雇用事業主」の場合、民間企業であっても雇用する障害者が補助犬を同伴することを拒んではならないとされている。

一方、障害者雇用事業主にあたらない企業や民間の住宅管理業者に対しては、努力義務にとどめている。賃貸住宅を念頭に置いたと思われる条文には、以下の記述がある:「その管理する住宅に居住する身体障害者が当該住宅において身体障害者補助犬を使用することを拒まないよう努めなければならない」。

なお、第23条には「国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて、身体障害者の自立及び社会参加の促進のために身体障害者補助犬が果たす役割の重要性について国民の理解を深めるよう努めなければならない」と国と都道府県の義務が明記されている。厚労省のウェブサイトからは、一般向けおよび医療機関向けのパンフレットをダウンロードすることができる(一般向け医療機関向け)。

社会の権利

「国民は、身体障害者補助犬を使用する身体障害者に対し、必要な協力をするよう努めなければならない」と、私たち一人ひとりの義務についても定めがあるが、これは言うまでもないことだろう。一方、あまり発生しない事例とは思うが介助犬の使用により「…著しい損害を受けるおそれがある場合その他のやむを得ない理由がある場合」は、自治体に対して同伴または使用に関する苦情の申出をすることもできる。

癒しだけでなく様々な仕事を通して私たちを支えてくれている犬たち。REANIMALでは、今後もこうした「働く犬」を紹介していく。

《石川徹》

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