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【犬の避妊・去勢手術はどうすべきか vol.5】信頼できるかかりつけ獣医さんとの相談

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犬の犬の避妊・去勢手術についてお伝えするコラム。メリットと言われていることが本当にそうなのか? 逆にリスクはないのか、取材で分かったことを5回にわたってご紹介します。

本当に我が子が幸せな「犬生」を過ごすために

乳腺腫瘍の予防を目的とした避妊手術に関しては、個人的に疑問を感じています。文献やウェブ上の論文などから、極早期の避妊手術が乳癌のリスクを下げる効果はあるようです。

これまでご紹介したリサーチによれば、未避妊の場合の乳がん罹患率は約4%とされています。(別の調査では7%という数字もありました。)

この数字を人間のデータと比較してみました。過去には厳密な統計が取れていなかったようですが、日本乳癌学会が現在公開しているデータによると、日本における乳癌の罹患率は1985~2002年が3.8%、2002~2010年は5.9%とのこと。

犬の場合も精密なデータは無いのですが、上記のように4%~7%のレンジであれば、犬も人間も乳がんのリスクはあまり変わらないと考えることもできます。

また、2012年と古いものですが、ロンドン大学・王立獣医学大学が犬の乳癌と避妊手術の相関関係について、世界中で発表されている全ての英語論文を検証した報告があります。

結論としては「避妊手術で乳癌のリスクが低減される」という説にある程度の意義は認めながらも、バイアス(偏りや先入観の意)やエビデンス(科学的根拠)不足により、確定的なことは言えないとしています。また、その論文の中で、最も数値的な検証を行ったと判断されたリサーチは、1969年に発表されたもの*1であることも付け加えておきます。

まとめ:できるだけ勉強し、信頼できる獣医さんと相談

これまで避妊・去勢手術によって低減できるリスクと、逆に上げてしまう「可能性のある」リスクについて紹介してきました。

ただ、どんな病気にいつなるのか、まったくかからないのかは、避妊・去勢手術だけでなく、犬種、年齢、遺伝的要素や生活習慣など様々なことが関連しています。当然ですが、結局のところ100%の正解を事前に見つけ出すことは現実的に不可能です。

とは言え、かけがえのない「家族」である愛犬たちの幸せは、全て私たち飼い主の判断にかかっていると言っても過言ではありません。大切なのは、「このコ」ができるだけ幸せな「犬生」を過ごすために一番良い選択をすること。

そのためには、まず飼い主さんができるだけ最新で正確な情報を集めることが必要です。その上で、かかりつけの獣医さんと充分に話し合うことが大切だと思います。

病気の時も、元気な時も、精神的にも、肉体的にも、「生活の質」を保つには信頼できるプロのサポートは絶対に必要です。10数年という生涯を通して、それぞれのご家庭と「うちのコ」にとっては何がベストなのか、かかりつけの先生のアドバイスを仰ぐのが良いでしょう。

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この「信頼できるプロフェッショナル」との出会いが意外に難しいのですが、幸運にも当家の愛犬たちは、全面的に信頼できる先生のお世話になっています。場合によっては、「このコに一番いいことを考えてください!」と、率直な議論をして頂けます。

一般的には、近くの動物病院を受診することが多いと思いますが、犬の飼い主仲間から情報を得たり、セカンドオピニオンを受けるという選択肢も検討してみてください。

手術をするとしたら、タイミングは?

複数の専門家が、避妊・去勢手術によってこうした病気にかかるか否かは犬種、特にサイズによってかなりの幅があり得ると同時に、タイミング(年齢)によっても大きな違いが出ることを認めています。

したがって、全犬種にあてはまるシンプルな結論はなく、獣医師と相談のうえでケースバイケースでの判断が望ましいと結論付けています。アメリカ獣医師会の現在の公式見解は、「全犬種にあてはまるシンプルな結論はなく、獣医師と相談のうえでケースバイケースでの判断が望ましい」というものです。

身体の成長が止まってから、というのが聞かれます。6か月齢という説や、「早い方が良い」という意見も多く、生後数か月という話も聞いたことがあります。一番納得できるのは、最低でも「4本ある犬歯が全て永久歯に生え変わるまで待つ」という考えではないかと思います。

骨格などの成長について以前ご紹介しましたが、子犬の骨の成長が終わるのがこのタイミングだそうです。(その後、筋肉や骨の中身などは3歳ごろまで成長を続けるそうです。)また、近頃のアメリカでは、1歳半もしくは2歳まで待つべきだとするプロのブリーダーも増えているそうです。

海外の事情:アメリカらしい極端な振れ

なお、避妊・去勢手術のメリットとして、マーキング、攻撃性、逃走癖、マウンティング行動などの解消、出血や鳴き声など発情徴候の回避なども挙げる専門家もいます。しかし、これらはリスクのある全身麻酔をし、健康な身体にメスを入れ、健康な臓器を取り出さなくとも解消できることではないでしょうか。

また、アメリカではドッグランに睾丸のついた犬を連れて行くと、「無責任でモラルを欠いた飼い主」と、後ろ指を指される風潮があるそうです。また、ペットホテルなどほとんどの施設では受け入れを拒否されるようです。「責任ある飼い主はとにかく避妊・去勢手術をする」のが当たり前、という感覚が強いそうです。

この背景にあるのは、1970年代に社会問題化した大量な犬の殺処分だそうです。対策として、子犬の卵巣または精巣を切除する行為が「ドグマ」化したと言うジャーナリストもいます。

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ドグマというのは、宗教的ニュアンスが強い言葉で、教会によって定められた信仰・モラル・行動などに関する規範とか、ある集団によって議論の余地なく定められた教義といった意味です。要するに「理屈抜きの決め事」という感じです。

また、ロンドンで開業しているある獣医師によると、避妊・去勢手術の依頼はアメリカ人もしくはカナダ人の飼い主がほとんどだそうです。

いずれにしても、少なくとも今の日本で、例えばトイプードルやチワワをノーリードで外飼いし、「気付いたら妊娠していた/させていた」といったことはほぼ起こりえないと思います。(初回に書きましたが、ここでは愛犬に手術を受けさせるかどうかについて健康面の観点から書いてきました。)

さらにもう一つ、日本人の多くが盲目的に毒されていると感じることのある、「欧米では」の例ですが、ノルウェーなど北欧では、病気治療目的以外での避妊・去勢手術が法律で禁止されています。

最後に:自分の愛犬は?

さて、「うちのコたち」をどうするかと考えると、正直なところ判断は難しいです。

昔はわりと簡単に取ってしまっていた人間の盲腸に、実は大切な役割があることが分かったのは比較的最近のことです。我々はまだ、人間自身の身体についても知らないことがたくさんあります。他の動物に関しては、もっと知らないのではないでしょうか?

生き物の臓器は一つ一つが完全に独立して単一の機能を担うような単純なものではないはずです。我々のまだ知らないことも含め、相互依存・作用しながら複雑な身体を構成・機能させているのだと思います。

結果的に「する」か「しない」かは飼い主さんの判断によることですが、「簡単に決めて良いことではない」のは間違いないと思います。

我が家のトイプードル(平蔵)は、繁殖業者の無知とエゴにより、遺伝的に肩と膝に爆弾を抱え、かつ、首はガラス細工という身体で生まれてきました。子犬の頃はちょっとした高さから飛び降りただけで肩を痛めて叫び声をあげることが何度もありました。

しばらくブレース(装具)を着けて不自由な生活をしましたが、そのおかげもあって、最近では足腰もしっかりしてきたようです。これは、男性ホルモンの影響で骨や筋肉が逞しくなったのも、一つの要因だと思います。

少なくともこれまでは、去勢手術を受けさせなくて本当に良かったと考えています。将来、おじいちゃんになって、肛門周囲腺腫や会陰ヘルニアなどの病気にかかった場合に、手術することになるでしょう。

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女の子の方は、もう少し複雑ですね。まずはヒート後を意識してこれまでの年1回から2回に健康診断を増やしつつ、お世話になっている獣医さんとじっくり相談します。

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いずれにしても、私が納得するかどうかよりも、このコたちにとってのベストチョイスを慎重に考えたいと思います。みなさんは、どうしますか?

なお、これまでご紹介してきた内容は、すべて「こう言う説がある」というものをまとめたものです。現実的に愛犬たちのからだに起こっていることは、本人(犬)たち以外知りません。したがって、やはり知識と経験と、さらにハートのある獣医さんと長く、建設的で率直なお付き合いが、彼女ら、彼らの「犬生」に重要なのではないでしょうか。

出典・参考
1. SCHNEIDER, R., et al. (1969) Factors influencing canine mammary cancer development and postsurgical survival. Journal of the National Cancer Institute

《石川徹》

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