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イギリスとアメリカの愛犬事情 …フレブル人気沸騰でケンネルクラブが懸念を表明

アメリカとイギリスでフレンチブルドッグの人気が沸騰
  • アメリカとイギリスでフレンチブルドッグの人気が沸騰
  • アメリカとイギリスでフレンチブルドッグの人気が沸騰
  • どこでも人気No. 1のラブラドール・レトリーバー
  • ゴールデン・レトリーバーも世界中で人気
  • 原産国イギリスではコッカースパニエルも人気
  • キャバリエ・キングチャールズ・スパニエルも常にイギリスでは人気上位
  • 愛らしい姿と陽気な性格で、アメリカでは人気の高いビーグル
  • フレンチブルドッグの急激な人気でイギリス畜犬連盟は警鐘を鳴らす

どこでも人気者のラブラドール

以前、アメリカで最も人気のある犬種として、ラブラドール・レトリーバーが29年連続で1位を獲得したことを紹介した(参考記事)。同様の人気犬種ランキングは、イギリスでも毎年発表されている。世界最古の畜犬団体と言われる「ザ・ケンネル・クラブ(TKC)」によると、ラブラドールはこの国でもトップの座を堅守している。

1990年代に人気だったヨークシャーテリアを抜くと、「(正式な)記録が始まって以来」不動の一番人気とのことである。ゴールデン・レトリーバーとジャーマン・シェパードが常に上位にランクされるのも、アメリカとイギリスで共通している。

イギリス独特の好み

もちろん、国ごとの特徴も見られる。原産国であるイギリスでは複数の「スパニエル」系がランクインしている。2019年は3位のコッカー・スパニエルや、5位のイングリッシュ・スプリンガー・スパニエルはトップ5の常連となっている。キャバリエ・キングチャールズ・スパニエルも加え、3種類のスパニエルがイギリス人には大いに愛されている。

アメリカ人のビーグル好き

一方で、イギリスでは20位までにも入らないことが多いビーグルが、アメリカでは常に5位前後にランクしている。「アメリカン・ケンネル・クラブ(AKC)」によれば、愛らしい姿と素直で陽気な性格に加え、(アメリカ的なイメージでは)小柄なサイズにもかかわらずがっちりとした体つきなどが好まれる理由だそうだ。

愛らしい姿と陽気な性格で、アメリカでは人気の高いビーグル愛らしい姿と陽気な性格で、アメリカでは人気の高いビーグル

共通点と同時に好みの違いもあるこの2ヵ国で、近年みられる顕著なトレンドがある。フレンチブルドッグ(フレブル)の急激な(登録)頭数増加である。過去10年、TKCに正式登録された犬種別頭数のデータを見てみた。

フレブルの「天文学的」な人気沸騰

イギリスでは、2011年までフレブルは上位20位までにも入っていなかった。2012年に12位に顔を出すと翌2013年には7位、2014年はラブラドール、コッカー・スパニエル、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルに次ぐ4位に急浮上する。2015年と2016年には3位、2017年には2位に上がると、2018年にはついに259頭差でラブラドールを抜き、トップに立った。

アメリカでも似た傾向が見られる。2013年に11位にランクインすると、翌年には一気にラブラドール、シェパード、ゴールデンに次ぐ4番人気の犬種となった。その後も安定した人気を得て、最新のランキング(2019年版)でも4位のポジションを守っている。

TKCは、この急激な人気上昇の背景には、セレブリティの影響があるとしている。デビッド・ベッカム、レディガガ、ヒュー・ジャックマン、レオナルド・ディカプリオやラッパーのスヌープ・ドッグなど、世界的な有名人にフレブル愛好家が多く、インスタグラムなどSNSに写真が投稿されている。TKCはこのトレンドに危機感を覚え、2018年に警告のステートメントを発表している。

フレンチブルドッグの急激な人気でイギリス畜犬連盟は警鐘を鳴らすフレンチブルドッグの急激な人気でイギリス畜犬連盟は警鐘を鳴らす

イギリスのケンネルクラブが懸念を表明

「当ケンネルクラブは、フレブル頭数の急激な増加を懸念している。多くの飼い主は、自身のライフスタイルに合った犬種を選ぶのではなくセレブリティや宣伝の影響から、その見た目と『ファッショナブルなチョイス』だから、という考えでブレブルを選んでいる」としている。

「登録頭数は過去10年で天文学的な2964%増を記録している。(中略)東ヨーロッパから違法に持ち込まれるケースや、国内のパピーファーム(=子犬農場;アメリカではパピーミルと呼ぶ)で生まれた子犬も多く、健康状態に深刻な問題がある場合がある」としている。特に短頭犬種は、その他の犬種と比較した場合に呼吸器系を中心に疾患を抱えるケースがとても多い。

昨今の急激な頭数の増加によって、病気で苦しむフレブルが頭数以上の割合で増加するリスクも充分に考えられる。実際、オランダではフレブルだけでなくパグやブルドッグなどに関しては、極端にマズルの短い個体を繁殖に使うことを禁止する法律が成立した。

セレブに影響されて気まぐれで迎えたものの、飼いきれずに飼育放棄するケースも予想され、TKCはフレブルにとっての「ウェルフェア・クライシス(福祉/幸福の危機)」の懸念を表明している。最新の2019年TKCランキングではラブラドールがトップに返り咲き、フレブルは2位となった。しかし、2020年第1四半期の登録頭数では8684頭と、8081頭のラブラドールをリードしている。

日本ではトイプードルの人気が不動

日本でも、不動の1位であるトイプードルがトップ10に顔を出したのは2002年の8位が初めてである。「ジャパンケネルクラブ(JKC)」によると、翌年の2003年にダックスフント、チワワに次ぐ3位に浮上した。諸説あるが、これは東京のあるトリマーが「テディベアカット」を始めたタイミングと一致する。

その後、フィギュアスケートの浅田真央さんが2005年から飼い始め、メディアなどにもたびたび登場した「エアロ」も、トイプードルの人気向上に一役買っただろう。2008年からは、登録頭数トップをトイプードルが維持している。

ペットビジネスと動物の福祉・幸福

日本や小型犬に限定されない病気だが、最近、特に日本のトイプードルには膝蓋骨脱臼(いわゆるパテラ)が多発し、補償対象に含めないペット保険会社も複数あるほどである。これも、レッドのトイプードルなど、流行りの犬種を急激に多く作り出したことによる弊害ではないだろうか。さらに日本の場合、愛玩犬は小型の個体が好まれるため、骨格系の形成不全のリスクは上がる可能性がある。

フレブルとトイプードルといった犬種に違いはあるが、アメリカやイギリスと日本の間には共通した課題があるように感じる。需要の急増による無理な供給拡大によって、フレブルは呼吸器系を中心に、トイプードルは膝関節を中心に疾患を抱え、犬の福祉/幸福が犠牲になるケースが増加しているのではないだろうか。

REANIMALでは、今後も海外事例などを含め、こうした話題を紹介していきたい。

《石川徹》

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