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命を生み出す行為「ブリーディング」を考える vol.3 …犬たちの健康と幸せのために

「ダップル」画像はイメージであり、本記事との関係性はありません)
  • 「ダップル」画像はイメージであり、本記事との関係性はありません)
  • 「ブルーマール」画像はイメージであり、本記事との関係性はありません)
  • 肩と首に遺伝的疾患を抱える筆者の愛犬
  • 多くのペット保険ではパテラを保険金支払いから除外
  • TVCMで一世を風靡した白いチワワ画像はイメージであり、本記事との関係性はありません)
  • 愛犬たちの健康と幸せのために

これまで2回にわたり、人間による繁殖が原因で犬が苦しむケースを紹介した。日本の「無秩序な繁殖」やイギリスのドッグショーにおける「極端なブリーディング」などである。また、純血種を定義する「犬種標準」についても触れた。

その中で、「標準」に当てはまらなければ殺処分されることもあると言われる「ローデシアン・リッジバック」を紹介したが、今回は遺伝的疾患のリスクが分かっていながらも標準と認められるケースについて触れる。その上で、我々日本に暮らす一般の飼い主がどうすべきかについて、考えたい。

被毛や皮膚の色だけでなく目や耳の発達にも関与する遺伝子

グレーもしくはレッドに大理石模様に似た濃淡がある毛色を、「マール」または「ダップル」(ダックスフントの場合)と呼ぶ。これは、皮膚や毛の色素合成に影響を与える遺伝子の変異によるものだが、この遺伝子は目や内耳の発達にも深く関わっている。したがって、マールの場合は先天的に視覚や聴覚に障害を抱える可能性が高い。マール同士を掛け合わせた場合(「ダブルマール」)には、そのリスクはさらに高まると言われている*。

「ダップル」

遺伝性疾患のリスクを抱えたマールも「標準」と認定

ダブルマールの犬が全て病気を発症するわけではく、マールの場合はさらに病気のリスクは低いと言われてはいる。しかしながら、先天性疾患の可能性が判明している毛色を標準とすることには違和感をぬぐえない。イギリスの畜犬団体「ザ・ケネルクラブ(The Kennel Club)」の「Breed standards(犬種標準)」を読むと、「ダブルダップル」は明確に除外されている一方で、「ダップル」は正式に認められている。また、シェットランド・シープドッグ(シェルティ)の「ブルーマール」(黒にグレーの模様がある色)も標準色として記載されている。

「ブルーマール」

「犬種標準」の意義とは?

現在、世界的に純血種とされているものは350犬種を超え、これらについて全てを調べたわけではない。しかし、少なくともローデシアン・リッジバックやマール色の扱いに関する例だけを見ても疑問が生じる。犬種標準が犬の特性を活かしたり健康を担保したりするため(だけ)でなく、特定の人間の嗜好によって定義されている部分が少なくないのではないかと感じる。

日本の課題は「無秩序な繁殖」

さて、日本の状況はどうだろうか。イギリスのようにドッグショーがテレビの地上波で放送されたり、会場に16万人を超える観客が訪れたりすることは無いだろう。また、プロのブリーダーからは「ショードッグと家庭犬は同犬種でも明確に違う」とのコメントも聞かれる。したがって、犬種標準への過剰なこだわりやドッグショーで勝つための極端なブリーディングについては、日本の一般的な飼い主が心配する状況には無いかも知れない。

一方、このシリーズのvol.1で触れたように、「無秩序な繁殖」によって「日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」であるのが現実である。

肩と首に遺伝的疾患を抱える筆者の愛犬

流行りの犬種が「大量生産」されることによる遺伝的疾患の犠牲者

犬種の好みに限らず、日本では「流行りに乗る」傾向が諸外国と比べて強いことは心当たりがあるだろう。REANIMALで繰り返し触れているように、人気の小型犬種、例えばトイプードルやチワワなどでは膝蓋骨脱臼(いわゆるパテラと呼ばれる、膝の「お皿」がずれる疾患)が当たり前のようになっている。多くのペット保険会社が、免責項目にこの病気を入れていることからも発症例の多さが想像できる。

多くのペット保険ではパテラを保険金支払いから除外

これは、「テディベアカット」のトイプードルやテレビCMで話題になったチワワなどの人気に乗じて、多くの個体が短期間に乱繁殖されたことが大きな原因の1つだろう。さらに「愛犬からの贈り物 vol.3」で紹介したように、日本の繁殖業界では極小サイズの「ティーカップ」を簡単に創るため極端な近親交配によって未熟児を生ませるケースも稀ではないという(参考記事)。当然、発育不全や身体的な障害の可能性が高まる。

TVCMで一世を風靡した白いチワワ(画像はイメージ)

日本の繁殖業界の意識

ブリーダーの中には豊富な経験に加え、遺伝学や解剖学などの知識に基づいて犬種標準を守りながら身体的・精神的に健全な繁殖を行っている真に「プロフェッショナル」と呼べる人々も少なからずいると聞く。一方で、これまでの経験や市場ニーズ(つまり犬種の人気)だけに基づいて繁殖を行っているケースが多いようにも感じる。

「遺伝病の撲滅に向けた犬・猫の遺伝子検査 vol.1」で紹介したように、株式会社AHBが全国で繁殖業者向けのセミナーを実施している理由も、「これまで経験則で行なわれてきたブリーディングに、『科学』的な勉強も促すことで業界全体の意識を向上させたい」とのことだった(参考記事)。

私たち飼い主ができること

そうした状況の中、いわゆる犬種標準をどこまで追求し健康面とのバランスをどう考えるのか。イギリスでは、特に「ショードッグ」の健康と極端な身体的特徴の追求が長年の議論となっているようだ。日本では、人気犬種を中心に「無秩序な繁殖」によって遺伝的疾患に苦しむ犬が多い。

そこで愛犬家として何をすべきか? まずは、できるだけ多くの情報に触れることだろう。インターネットの普及により、情報検索や本の取り寄せが簡単にできる。AI(人工知能)によって自動翻訳ソフトの性能も向上し、海外の情報もある程度気軽に入手することができる。

ただしSNSなどで目にした情報をそのまま取り入れるのではなく、信頼できるものを選び正しい知識を身につけることが必要だろう。新たに子犬・子猫を家族として迎える場合にもできるだけ情報を集め、「どんな子を、どの様な所の、誰から」迎えるのかを慎重に検討したい。飼い主一人ひとりのそうした意識と努力が繁殖業界の姿勢も変え、将来的には遺伝的疾患で苦しむ動物たちを減らすことになるだろう。

愛犬たちの健康と幸せのために

すべてのビジネスにおいて需要の無い供給者や市場は淘汰される。ペット業界にとっての顧客である私たち一般の飼い主が、「プロフェッショナル」なブリーダーと営利最優先の繁殖屋やペットショップを見分ける目を持つようになることが、動物たちの幸せに繋がるのではないだろうか。「この子たち」の一生は、全て私たちにかかっていることを肝に銘じたい。

*『よくわかる犬の遺伝学』(2014)尾形聡子、誠文堂新光社

《石川徹》

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