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イギリスの動物愛護事情 vol.4…健全な繁殖と健康な子犬のための取り組み

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劣悪な環境で繁殖を繰り返す「パピー・ファーム(子犬農場)*」撲滅に向け、官民一体となって製作されたイギリスの「子犬契約書(パピー・コントラクト)」を前回ご紹介した。

一般の飼い主には、子犬を迎える上で注意すべきポイントを詳細に説明している。愛犬家が優良ブリーダーを見極めるサポートをすることで、違法業者をなくしていこうとする取り組みである。同時にブリーダーに対しては、責任あるケアを行うための指針を示す役割を果たしている。(* アメリカでは「パピーミル(=子犬工場)」が一般的)

日本の愛犬家にも役立つ情報

17ページにわたる子犬契約書は、情報パック、手引書と販売購入契約書から構成されている。手引書は犬の繁殖や遺伝、子犬の社会化などに関する基礎知識が学べる教科書とも言える。そこで今回は、手引書に記載された情報の中から、日本でも参考になりそうな情報をまとめた。

親犬について:ブリーダーに確認すべきこと

1.出産回数:妊娠・出産・子育ては非常に負担がかかる。母犬の健康と安全な出産および子犬の健全な発育を考慮すると、出産後は1回以上発情期(ヒート)を見送るのが望ましい。出産回数は、ブリーダーが犬の健康を考えた繁殖を行っているかを見分けるポイントにもなる。

2.初産の年齢:同様に、最初の発情期および1歳未満での繁殖は避けるべきである。(ただし、出産に適した状態まで成長する早さは犬種によって異なるため、獣医師への確認が望ましい。)これも優良ブリーダーの見極めに役立つ。

3.手術歴:親犬に遺伝的疾患の治療歴があるかどうかの確認も重要である。純血種は人間が求める特徴を強調するようつくられたため、生活の質を低下させる個性をもって生まれるケースがある。

例えば極端な短頭種の場合、狭い気道によって呼吸に問題を抱える傾向があり、手術や生涯にわたる服薬が必要となることもある。こうした個性は遺伝する可能性があり、鼻腔トラブルや逆さまつげなど手術後に痕跡が確認できない疾患もあるため、遺伝のリスクについてはブリーダーに確認する必要がある。

4.帝王切開の回数:特定の純血種では、ほとんどが帝王切開となる犬種もあり一概には言えないが、自然分娩できない犬は繁殖に使うべきではないとの意見がある。特定犬種以外では遺伝的な個体差があるため、愛犬に子犬を産ませる予定の飼い主は母犬の帝王切開回数を確認しておくのが安心とされている。なおイングランドでは、3回以上の帝王切開は禁じられている。

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子犬について確認すること

1.病歴:生まれてから飼い主に迎えられるまで、通常は獣医師の診察が必要な病気は発症しない。健康診断やワクチン接種以外での受診歴を確認するのをお勧めする。

2.トイレ・トレーニング:子犬は非常に早い段階でトイレの場所を学習する。トレーニングはブリーダーが早期に始めていることが望ましい。

3.生活環境:生まれて間もない頃の環境がその後の社会性に強く影響する。順応性を養うためには家の中、特にキッチンやリビングなど、ある程度生活音や人の行き来のある場所での生活が望ましい。犬舎で過ごしている場合、人間の日常にどの程度触れているかを聞いておくとともに、ブリーダーを訪問した際は子犬の反応を観察することをお勧めする。

4.人間との接触経験:生後3週から14週が新しいものへの対応を学習する最も重要な期間である。女性、男性、大人、子供を問わず、できるだけ多くの人間に接することで、人への不安感や恐怖感をもたない犬に成長する。この点をブリーダーに確認するとともに、できれば家族全員で訪問し、子犬の反応を観察することも大切である。

5.動物との接触経験:この時期は他の動物との社会化にも大切である。母犬以外の成犬と早期に触れ合うことで、犬同士のコミュニケーション・スキルを学習できる。また、猫など他の動物と同居する予定がある場合は、この時期の経験が有効になる。可能であれば、他の犬や動物と触れ合う様子の観察をお勧めする。

親犬との触れ合い

ブリーダー訪問時には、母犬とも触れ合うことをお勧めする。親犬の反応から、子犬の将来の性格をある程度予想することができる。唸る、吠えるなどの攻撃的反応はないか、怯える様子は見せないかなどに注意する。また、親犬やきょうだい達の健康状態やブリーダーでの生活環境の確認もあわせて行う。

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日本が学ぶことと、イギリスが改善すべきこと

今回紹介した内容は日本でも参考になると思われる点だけを要約したものだが、子犬契約書にはさらに幅広く詳細な情報が記載されている。こういったツールを官民一体で作成できるところは、やはり動物福祉の先進国と言えるだろう。

ちなみに、イギリス独特の課題もある。違法業者は、母犬と偽って別の成犬を見せる場合があるそうだ。「ルーシー法」の施行により、生まれた場所で母犬と一緒に子犬を見せることが義務化されたため、パピー・ファームなどから仕入れた子犬を販売するための偽装工作である。

子犬契約書では、子犬たちとのやり取りや、乳房の様子など出産の痕跡をチェックし、違法行為を行う悪質な繁殖業者を見極めることの重要性にも触れている。

《石川徹》

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