動物のリアルを伝えるWebメディア

「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」…介助犬総合訓練センターレポート vol.4[インタビュー]

介助犬
  • 介助犬
  • 日本介助犬協会の水上言 介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長
  • 日本介助犬協会の水上言 介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長
  • 介助犬総合訓練センター「シンシアの丘」

前回は、介助犬の訓練や希望者とのマッチングについて、日本介助犬協会の水上言(みずかみこと)介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長の話を紹介した。今回は、介助犬が果たしている「心のケア」と同協会の今後について聞いた。

「介助犬がいるからできた」がうれしい

----:介助犬のトレーニングやキャリアに関するお話を聞くと、犬に対する強い愛情が感じられます。介助犬の育成に携わっていて、一番うれしいのはどんな時ですか?

水上:色々ありますが、介助犬と「ここに行ってきました」、「こんな事をしてみました」という報告を使用者さんから受ける時でしょうか。例えば、後ろ向きでしか階段を下りられなかった方が、介助犬と暮らすことで普通に降りられる様になったり、または一人で遠出ができるようになったり。私たちにとっては普通にできることが、障害によって「当たり前」でなくなるんです。介助犬と暮らすことで、それがまたできるようになったことを知ると「よかったな」と感じます。

----:犬の能力はすごいですね!

水上:正直なところ、介助犬は大げさなことをするわけではありません。でも、「この子がいるから出来るんです!」とおっしゃる方がとても多いんです。気持ち的に引きこもってしまっていたのが、犬に勇気をもらって外出できるようになったというケースがたくさんあります。

当然、(人間の)ヘルパーさんが色んなことをしてくれますが、相手が人間だと(障がいを持つ方は)「できない自分」にストレスを感じることもあると思います。犬と一緒だと、良い意味で肩の力が抜けて「がんばってみよう」という気持ちになるのかも知れません。また、家の外では「(犬を)守ってあげなきゃ」という気持ちもあるので、お互いがサポートし合う「パートナー」という意識で付き合えるメリットもあるかも知れません。あと、犬は内緒の話、胸の内を静かに聞いてくれますし(笑)。

今の社会、(インフラ整備など)社会の未熟さや人の理解不足によって、障がい者の方が不必要な我慢をしなくてはならない状況があり、すごく理不尽だと思うんです。そうした状況を介助犬たちが少しでも解消してくれて、「できない」というネガティブな話ではなく、プラスの報告を聞いたり笑顔が見られたりするのがうれしいですね。使用者の皆さんが生き生きとしている様子を感じられると、私たちの方が元気をもらえます。「やっててよかった」と思うのはそんな時ですが、そのたびに「犬ってすごいな」とも思うんです。

将来的には介助犬の活躍が減る世の中になれば良い

----:そのようにやりがいのあるお仕事ですが、日本介助犬協会の今後の計画について教えて下さい。

水上:犬たちにはもっと良い環境を、使用者さんにはさらに充実したサービスを提供したいですね。職員の業務分担なども含め、運営効率を向上させていけば可能だと思います。それから、犬には介助の仕事以外にもたくさんの可能性があると思っています。(編集部注:日本介助犬協会では、介助犬以外にもリハビリテーションや子どもの病気治療の場に犬を派遣する「動物介在活動」や「動物介在療法」などにも取り組んでいる。)

日本でも、やっと「付添犬*」が認められたので、そうした活動も進めていきたいと思います。(* 虐待や性被害にあった子どもが被害状況を証言したり、司法面接で話をする際に、心理的負担を軽減させることを目的に、その面接や法廷に付き添う特別な訓練を受けた犬:日本介助犬協会HPより)

----:水上さん個人としてはいかがですか?

水上:私は子どもの頃から犬が大好きで、「人も犬もHappyになれる方法は無いだろうか」と考えて介助犬に行きつきました。障がい者の方々は、私たちが我慢しなくていい事を我慢して生活している面がたくさんあります。身体が不自由というだけで、こんなに制約があるのは理不尽だと思います。大好きな犬たちを通して、そうした悩みが少しでも減るように今後もサポートしていきたいです。「今より犬もHappy、人もHappy」を目指し、できることは何でもやっていきたいと思います。

将来的には、介助犬たちの活躍が減る世の中になれば良いですね。インフラが整備されたり人がもっと優しい社会になったりすれば、ハンデを持つ方々も暮らしやすい社会になって、介助犬は必要なくなるわけですから。そうしたら、犬たちの「寄り添う」力をほかの分野で貸してもらいたいと思います。私たち人間にとって、犬ってすごく大切で、不可欠な存在じゃないかな、と私は思います。

---

水上センター長からは、最後に「他人に興味を持ってください」というコメントがあった。健康な場合、障がいというものを無縁なものと感じてしまう。そうした無関心が、住みよい社会に進化することを阻む一因となっているだろう。「自分が常識と考えることを当たり前と考えず、ヒトってみんな違うんだよ、ということを意識すれば、社会がもっと優しくなれると思います」とのことだった。この考え方は、個々の性格に応じた犬の訓練や適性の見極めなどにもつながっているように思う。

「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」という日本介助犬協会のモットーは、間違いなく実務の現場にも活かされていることが感じられるインタビューだった。「今、自分が障がい者になったら暮らしにくいなと思いませんか? それから、色んな意味で『マイノリティ』の人たちが暮らしにくい社会だということも聞きます。そこが変わって行かないと、健常者も含めて多くの人が暮らしづらい社会になってしまうんじゃないでしょうか?」という水上センター長の言葉が心に残った。

日本介助犬協会の水上言 介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長日本介助犬協会の水上言 介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長

水上言(みずかみこと):社会福祉法人日本介助犬協会、介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長
高校時代にTVでアメリカの介助犬を知り、犬の持って生まれた特性を自然に活かして育てることに感銘を受ける。「これだ!」と思い、働きながらヘルパーの資格取得を目指していた頃、日本でも介助犬の育成が始まったことを知る。粘り強い交渉を経て、1997年に非常勤無給職員として介助犬協会に採用される。ファーストフード店、介護ヘルパー、犬の散歩代行など多くのアルバイトで生活しながら、介助犬の育成を始める。2017年4月より現職

《石川徹》

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top