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明るさに溢れた空間、犬が楽しみ自発的に行動することを重視したトレーニング…介助犬総合訓練センターレポート vol.2

冷蔵庫を開けて飲み物を持ってくる「オープン冷蔵庫」
  • 冷蔵庫を開けて飲み物を持ってくる「オープン冷蔵庫」
  • まずはおもちゃ遊びから
  • まずはおもちゃ遊びから
  • オープン冷蔵庫
  • オープン冷蔵庫
  • オープン冷蔵庫
  • オープン冷蔵庫
  • ドアの開閉

社会福祉法人日本介助犬協会(本部:神奈川県横浜市)が愛知県長久手市で運営する総合訓練センターについて、前回は介助犬を希望するユーザーと研修生が生活する施設を紹介した。今回は、もう“ひとり”の主役である犬たちのスペースを紹介する。

犬たちが介助作業を学ぶトレーニング室

犬たちに介助作業の訓練を行う「トレーニング室」は、家庭の部屋を想定して冷蔵庫、タンス、扉などを設置し使用者との生活をイメージした空間となっている。まず、引っぱる、くわえる、鼻で押すといった、犬ができる動作を、おもちゃ遊びを通して学習する。それを徐々に作業に変えていき、介助犬の「主要8動作」(参考記事)につなげていくそうだ。

例えば、冷蔵庫を開けて飲み物を持ってくる「オープン冷蔵庫」という動作がある。冷蔵庫のドアにつけられたバンダナを引っ張って開ける、ペットボトルをくわえる、鼻で押して冷蔵庫のドアを閉める、ペットボトルを運ぶという作業を行う。この場合も、引っ張る、くわえる、押すといった一つ一つのアクションを覚えさせた後で、それらを連動させ「オープン冷蔵庫」を学習させていく。

このトレーニング室は、日当たりが良く明るいのがとても印象に残った。「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」をモットーとする日本介助犬協会は、犬が楽しいと思うことを自然に行う様に促すことで介助に必要な動作を教えることを信条としている。この部屋も、家具や内装、おもちゃなども含め、とても楽しい雰囲気に満ちていた。

落ちた物を拾ったり指示した物を持ってくるトレーニングに使用する小物がたくさん落ちた物を拾ったり指示した物を持ってくるトレーニングに使用する小物がたくさん

「ごめんね」でなく「ありがとう」と言える関係

「褒めてもらえて嬉しい」から行う自発的な楽しい動作になるよう、訓練も遊びの延長として行っているとのこと。そうすることで、実際の生活においても使用者が気兼ねなく介助犬にサポートを頼めるようになり、心穏やかに過ごすことができるという。例えば夜中に飲み物を頼んでも、「寝ているのに仕事をさせてごめんね」ではなく、「ありがとう」と自然に言えるような関係づくりが大切だと介助犬協会は考えているそうだ。

訓練のデモンストレーションを見せてもらうことができたが、犬も訓練士も、お互いに楽しんでいる様子が伝わってきた。

犬舎もできるだけ心地よく

この施設には25頭が生活できる「犬舎」がある。トレーニング室と同様、窓から十分な自然光が差し込む明るい造りであると共に、廊下側はガラス張りになっており隣接する職員の執務室から犬たちの様子を確認できる構造になっている。ただし、常に見られている状態ではストレスを感じる犬もいるため、低いロッカーを置き、吠えなど何かあった時には職員が立ち上がって確認できるよう配慮しているそうだ。

25頭分はそれぞれ仕切りが付けられているが、犬の好みと相性によってはその仕切りを外し、大部屋として数頭が一緒に使用する場合もある。また、休む場所の素材も柔らかいベッドが好きな犬もいれば、薄めのマットやクレートを好む場合もあり、それぞれの嗜好合わせて与えるという。さらに、日中に訓練の無い時間は事務所内で職員の近くで過ごすなど、思い思いのスタイルと場所で生活できるようだ。

犬舎(介助犬総合訓練センター)犬舎(介助犬総合訓練センター)

それぞれ個性はあるが社交的な点は共通

ここには近所で保護された猫も3匹同居しており、人間だけでなく他の動物との付き合いも日々の生活から自然に学習できるようだ。「介助犬候補の子たちは、基本的にはみんな社交的で人が大好きです。でも、個性は1頭1頭違うので、トレーニング方法だけでなく生活環境も、できるだけそれぞれに合わせるように心がけています」(同協会)とのこと。

確かに見学中の犬たちの反応はそれぞれだったが、初対面である我々に対してもキラキラした目でアイコンタクトを求める明るくフレンドリーな様子が印象に残った。

キラキラした目でじっと見つめられたキラキラした目でじっと見つめられた

犬舎内にはトイレやグルーミングルーム、医務室なども設けられている。また、犬舎の清掃やイベントなどに協力するボランティアスタッフ用の部屋、テラスやドッグランもあり、充実した施設だ。なお1階には会議室のほか、100名まで入ることができる「シンシアホール」があり、見学会やボランティア交流会など様々なイベントに活用されている。

全体を振り返って…印象的だった「明るさ」

一番強く印象に残ったのは、建物や設備・施設といったハードウェアはもちろん、犬たちやそこで働く職員の方々や建物内の雰囲気までが明るいことだった。

警察犬などの「使役犬」や、補助犬の中でも盲導犬などは「我慢させられてかわいそう」という声を聞くこともある。そうした働く犬たちについては今後の取材で検証していきたいと思うが、少なくとも日本介助犬協会の犬たちは、訓練中も卒業後もパートナーであるスタッフやユーザーと一緒に「仕事を楽しめる」環境で暮らしているのではないかと感じる。

なお、同協会では、介助犬に向かない場合は性格に合った道を慎重に見極めることで全ての犬が幸せな生活を送れるよう配慮している。イベントでのデモンストレーションを行うPR犬やセラピー犬、付添い犬など、犬たちは様々な分野で活躍している。

《石川徹》

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