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ペットを不幸にしないため、飼い主も法律をよく理解することが大切 【アニマルワールドカップ2021】

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「Animal World Cup 2021(アニマルワールドカップ2021)」では、動物に関連する法律についても専門家から話を聞くことができた。環境省の「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」の委員でもあり、ペット関連の訴訟にも多く携わる渋谷寛弁護士をスピーカーに、「ペットの法律相談」と題したセミナーが行われた。

「物」としてのペットと変わりつつある認識

法律上、ペットは「物」として扱われる。これは、現在の日本の法律が、欧米を参考に明治時代に作られたものが基になっているのが主な理由とのことだ。法律において「主体」とされるのは人間だけで、その他はすべて「客体 = 物」とみなされる。動物は物のうち、「動産」の1つと捉えられるという。

昨今、海外ではこの点での法改正が進んでいるそうだ。日本の場合も、動物の愛護及び管理に関する法律(以下、動物愛護法)第2条では「動物は命あるもの」と明記されている。ペットが何らかの被害を受けた際、最近では飼い主の精神的苦痛に対する慰謝料や動物の「時価」相当額以上の損害賠償支払いが命じられるケースもある。賠償額など、扱いは人間同等とはいえないそうだが、物から家族の一員という認識へ少しずつ変化は見られるようだ。

ペット業界の規制を強化する難しさ

REANIMALでもシリーズで紹介しているように、動物愛護法の改正が行われ、繁殖業者やペットショップなどに対する規制が強化されている。動物福祉の観点からは、いまだに規制が緩すぎるとの批判は少なくないが、改正にあたっては法律の構造的な難しさもあるようだ。

事業者には営業の自由が国の基本法である憲法で保障されている。一方、動物の保護に関する規定は憲法上に存在しない。つまり、ビジネスに制限を加える法改正を行うにあたっては、事業者の権利が動物の福祉よりも法的には上位にくる現実があるということだろう。大幅な規制強化は一朝一夕に達成できるものではないが、今後も動物福祉の向上に向けて動物愛護法の前進に期待したい。

飼い主に対する制限の必要性

渋谷弁護士は、民法改正の必要性についても触れた。動物愛護法では現在、劣悪な環境で犬猫を飼育する事業者の規制を中心に改正・議論が行われている。一方で、一般の飼い主による虐待や多頭飼育崩壊などの不適切飼養も多く報道されている。

動物愛護法には虐待禁止に関する条項があり、愛護動物をみだりに殺したり傷つけたりした場合には5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科せられる。一方、民法では「所有者は(中略)自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」とされる。不適切な環境にあると思われる犬や猫も、所有者の同意なしに取り上げることはできない。

渋谷弁護士は、「飼い主だからといって何をしても良いわけではなく、ペットの所有者に対しても、制限を加える必要性を感じる」として、動物を守るためには民法改正の必要性を訴えた。

飼い主の責任…他人に迷惑をかけない義務

動物愛護法は正式名称を「動物の愛護及び管理に関する法律」といい、「愛護」だけでなく「管理」に関しても規定している。「管理、つまり他人に(自分のペットが)悪いことをさせない」ための法律でもあると渋谷弁護士から説明があった。

同法第7条には「(所有する)動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」とある。例えば、ノーリードで犬を散歩させ、その犬が他人を噛んだ場合には科料などの制裁が科せられることがある。さらに刑法上の過失致死傷罪に問われたり、民事上の損害賠償請求の対象になったりすることもある。飼い主には、ペットを適切にコントロールする責任もあることを十分に認識したい。

一生面倒を見る義務

飼い主の義務を定めた第7条には、「動物の所有者は(中略)できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(以下「終生飼養」という。)」とある。渋谷弁護士は、犬猫の寿命が延びていることに触れ、「もし(何らかの事情で)飼えなくなった場合にどうするかを含め、動物を迎える前からきちんと考えることが大切」と語った。また、「鳥には50年から100年近く生きる種類もあり、そうした動物を人間が飼って良いのかどうかも考えるべき」と、終生飼養の大切さを訴えた。

実際の判例…最も多いのは医療ミスに関する訴訟

その他、動物の飼い主に参考になりそうな判例なども聞くことができた。渋谷弁護士の場合、動物関連案件のおよそ半数を占めるのが医療ミスに関する相談だそうだ。人間の場合も同様だと思うが、高度な専門分野であるために獣医師の医療過誤を裁判で立証するのはかなり難しいようだ。

過失を立証するために必要な、第三者の獣医師による意見書や証言などの協力が得られるケースは極めて少ないと言う。裁判という形を取らず、話し合いで謝罪や賠償を求めることもあるそうだが、こちらも医療ミスを認めさせるのは困難を極めるようだ。

飼い主としては、予防措置を講じるのが安心だろう。かかりつけの獣医師を見極める目を養うとともに、必要に応じてセカンドオピニオンを受けるなど、何かが起こる前に適切なアクションが取れるよう日頃から情報収集や勉強に努めたい。

ペットショップでは契約書の確認が大切

購入直後の病気や死亡など、生体販売業者とのトラブルも多いそうだ。ただし、裁判になることは少ないという。売買契約書には病気や死亡などのトラブルを想定した項目があり、業者側の非を認めさせることが難しいためだそうだ。契約内容は業者にとって有利なものである場合が多いため、十分に内容を確認することが重要とのことだ。

そのほか、ペットホテル滞在中の病気や逃げ出し、トリミングサロンでのケガなどがペット関連の相談では多いそうだ。どのような場合でも、大切な家族の一員であるペットの安全と健康は私たち飼い主にかかっている。法律に定められた義務や責任、それから何よりも権利を十分に理解した上で、動物たちに降りかかるリスクを最小限に抑えるよう、日々心掛けたい。

《石川徹》

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