定期的な病院通いに投薬や点滴、強制給餌などを経て、「けまり」は回復とまではいかないものの、少し病状が安定していきます。そしてなんとなく、落ち着いた生活を送れるようになっていき、私は「このまま、良くなってくれないかな」と願いながら、看病を続けました。
特定の物しか食べてくれなくなったら、フリマアプリを要チェック
私は1日3回の強制給餌を続けながらも、何とかけまりが自力で食べ物を食べてくれるようになることを願い、近所のスーパーや八百屋さんで、様々な葉野菜を購入しては与えてみる生活を続けていました。
しかし、小松菜、水菜、大根の葉っぱ、キャベツなど、ありとあらゆる野菜の葉を与えてみるも、手ごたえはなし。そんなある日、地域農家の人が農産物を持ち寄って販売する野菜マルシェで、葉っぱ付きニンジンを発見します。
「これなら、食べてくれるかな」。私は早速、その葉っぱ付きニンジンを購入し、けまりに与えてみると、なんと美味しそうに食べてくれたのです。自力では、ほとんど食べ物を口にしてくれなかったけまりが、ニンジンの葉っぱだけはたくさん食べてくれたのが嬉しくて、嬉しくて。それから私は毎日、その野菜マルシェに行って、葉っぱ付きニンジンを買い占めるようになりました。
ニンジンの葉っぱを自分から食べるようになると、けまりの食欲は少し回復し、大葉やブロッコリーの茎なども食べてくれるようになります。
しかし、ここで大きな問題が発生。野菜マルシェ的な八百屋さんは季節ごとに旬の野菜が並ぶことが魅力です。そのため、ほとんどの野菜が期間限定。1年を通して販売されることはなく、葉っぱ付きニンジンも例外ではありませんでした。日に日に店頭に並べられる量が減っていき、ついには入荷されなくなってしまったのです。
「どうしよう。けまりの今の主食なのに」。少しずつ食べるものの種類が増えてきたとはいえ、まだまだニンジンの葉っぱがメイン。ニンジンの葉っぱが手に入らないとなれば、死活問題です。私は思いつく限りのスーパーや八百屋を周り、ニンジンの葉っぱを探し続けました。しかしニンジンの葉っぱは意外に珍しく、見つかるわけもありません。もちろんインターネットでも探してみましたが、乾燥させた物は売っていても、生の葉っぱは見当たりませんでした。
困り果てていたその時、ふとフリマアプリの存在を思いついたのです。そして、検索してみると、大量に出品されているニンジンの葉っぱを発見。それ以外にも、欲しい農産物はすべてここで見つけられるのではないかと思うほど、豊富なラインナップが揃っています。
そうして今回も「けまり」の危機は、ニンジンの葉っぱとフリマアプリに助けられました。見つけた時は、「こんな物まで売っているの？」とかなり驚きでしたが、愛ウサギの食欲不振により、食べてくれるものが中々見つからない場合は、フリマアプリをチェックしてみるのもおススメです。
皮肉にも「けまり」との時間を増やしてくれたコロナ禍の生活
私は「けまり」との闘病生活において、一つだけ感謝していることがあります。
それは、新型コロナウイルス感染拡大の時期に、体調を崩してくれたこと。少し言い方に語弊があるかもしれませんが、コロナ禍以前の私は仕事で家をあけることが多く、世界中が自粛を余儀なくされたこの時期でなければ、ここまで「けまり」に寄り添うことはできませんでした。そう考えるのは、少し不謹慎かもしれませんが、コロナ禍の新たな生活は、私に、「けまり」を延命させるための、できる限りの治療を受けさせてあげる時間をくれたのです。そして傍にいられる時間が大幅に増えたことで、お別れに向けた心の整理が、少しずつ付いていったように思います。
少しずつ、少しずつ別れの覚悟を決めると同時に、私は「けまり」が居なくなったら、もうペットは飼わないでおこうと考えていました。一人暮らしの私がペットを飼うことは、家族で飼うのとは違い、1日のほとんどの時間、ペットを1匹で部屋に放置することになります。また、出張で家をあける際はペットホテルに預ける回数も増え、慣れない環境に体調を崩して帰ってくることもしばしばでした。
私は責任をもって、「けまり」の面倒を見たと自信を持って言えますが、でも寂しい思いをたくさんさせたことは確かです。けまりに少しでも長生きして欲しいと願いながらも、緩やかに衰弱していく姿を目の前にして、私はそんなことを考えていました。
先川知香：モータージャーナリストとして全国各地を駆け回る、乗り物が大好きな干物系女子。ウサギの「けだま」と出会ったことをきっかけにウサギの魅力に夢中になり、現在は3代目愛ウサギの「ゴジラ」と同居中。
