寒さが厳しいシーズンとなりました。こんな季節には、暖かい屋内で家族や大切な仲間たちと一緒に過ごす時間が増えるはず。そこで、今回は皆で楽しめる映像作品を3本ご紹介します。ドキュメンタリーあり、ファンタジーあり、人間ドラマあり。さまざまなテーマを通して、動物の素晴らしさ、自然と共に生きることの大切さを味わってみてください。
『シチリアを征服したクマ王国の物語』
『シチリアを征服したクマ王国の物語』©2019 PRIMA LINEA PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 3 CINÉMA - INDIGO FILM
1作目は、『シチリアを征服したクマ王国の物語』。「クマがシチリアを征服」と聞き、「『猿の惑星』のようなSF？」と思ってしまった私。人間の言葉を話すクマが登場するものの、こちらはサイエンス・フィクションではなく、とても幻想的なファンタジー・アニメーションです。
原作は、20世紀のイタリア文学を代表する作家ディーノ・ブッツァーティによる童話。彼本人が手がけたイラストが美しく、奇想天外ながらも生き物の本質を突いたファンタジックな本作は、児童書の名作として出版以来半世紀以上も愛され続けているのです。
むかしむかし、シチリアの山奥でクマの王レオンスは、仲間たちと幸せに暮らしていました。ある日、少し目を離した隙に、息子のトニオが人間に連れ去られてしまいます。そこで、仲間のクマたちとともに、人里に下りていくのですが…。平和的ながら本気になったら迫力を増すクマたちの豊かな表情、西洋絵画のように陰影の美しい背景画、そして人間と自然の共存についてのテーマが絡み合い、とても味わい深い作品となっています。
さらに特筆すべきは、クマの暮らす牧歌的な山奥ののどかな色合いと、それと対比を成すような人間界にあるコントラストの強い色彩が、物語をドラマティックに彩っていること。クマたちが未知の世界に入っていくに連れ、世界は色を変え、時におどろおどろしく、時にスリリングに、私たちを幻想世界へと誘ってくれます。ずる賢い人間に騙され、仲間との不協和音に耐えながらも、クマの物語はクライマックスへ。そこで語られる、「クマも人間も居るべき場所に」という言葉が、私たちが目指すべき「自然との共存」について考えさせてくれる作品です。
『ウェルカム・トゥ・アース あなたの知らない地球』
『ウェルカム・トゥ・アース あなたの知らない地球』© 2021 National Geographic Partners LCC.2作目は、年末年始用におうちのTVでも楽しめる『ウェルカム・トゥ・アース あなたの知らない地球』。自然を捉えることでは右に出るモノのない世界最高峰の記録映像制作会社ナショナル ジオグラフィックと、俳優のウィル・スミスがタッグを組み、未だ見たことのない地球の姿に迫る圧巻のネイチャー・ドキュメントです。
最新のテクノロジーを駆使した映像美によって私たちが目撃できるのは、静寂の中でさえ地球の生命力を感じさせるオーストラリアの活火山、満点の星空のもとで強く発光する藻が幻想的な風景を見せるプエルトリコのモスキート湾、不思議な紋様を浮かび上がらせるナミビアの砂漠、アイスランドの断崖絶壁など。もちろん、動物を捕らえた映像も盛りだくさんです。
スケールの大きさと、人間が生身ではとても太刀打ちできないダイナミックな地球の素顔には、カメラ越しでも言葉を失うほど。人間の営みなど一切気にせずに展開する現象の数々を観ていると、「私たち人間は、ちょっとお邪魔しています、すみません」という気分になるのです。
そんな場所へと、ベテラン探検家たちと果敢に乗り込むのが、我らがガイド役ウィル・スミス。実は、アクション映画でサバイバル劇を見せる彼は、生粋の都会っ子。山登りも、湖で泳いだこともないという彼が体当たりで、私たちの代わりに世界の果てまで旅してくれています。どんな状況でもユーモアを忘れない彼が、取り繕う余裕すら失い恐怖と不安に飲み込まれそうになったり、圧巻の風景に言葉を失ったりしながらも、過酷な冒険に挑んでいく姿に、観ているこちらまでその場にいるような独特の臨場感と畏怖の念を味わえる本作。彼が世界の果てで、むきだしの自然を前に見せる表情には、自らが地球に生きる仲間の一員であることを実感した者特有の忘我とすがすがしさが見て取れます。
『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』
『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』© 2019 NORDISK FILM PRODUCTION A/S最後にご紹介するのはデンマーク映画『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』です。大好きなパパが、ある日突然女性として生きたいと告白したことに揺れる11歳の少女エマが主人公。これをきっかけにママとパパは離婚。少し上のお姉ちゃんは、すんなり受け入れているようで、エマは何か腑に落ちないのです。パパは大好き、でも大困惑中という整理できない感情が瑞々しく描かれていますが、それもそのはず、この物語は、脚本、監督を担当したマルー・ライマンが実際に11歳で体験したことが元となっているのです。
本作のエピソードでとても気に入ったのが、犬にまつわる話。子犬を飼いたいと、家族4人でブリーダーを訪れ、犬を選び、予防接種の話などをしていると、夫が女性として生きたいことを知る妻が、将来に不安を感じて突然取り乱します。実は、その直前のシーンで、父親はエマに、「本を表紙で判断するべきではない」という本作の核ともなるメッセージを言葉にしているのです。制作者が意図したかどうかは不明ですが、犬好きの私としては、「本を表紙で判断しない」を象徴するような存在こそが犬だと強く感じ、2つのシーンの繋ぎ方に特別な意味を見出してしまいました。
その後、一家が一緒に犬を飼うことはありませんが、女性となったパパは一人暮らしのパートナーとして犬を飼い始めます。社会的にも性別を変えたパパに必要だったのは、先入観なしに寄り添ってくれる存在で、やはり犬はそんな大切な存在の暗喩なのだと思うのです。
日頃はなかなか共に過ごせない家族や友人と、会う機会も増えてきたシーズンだからこそ、皆の心を温めてくれる映像作品で、喜びを分け合ってみてはいかがでしょうか。
■『シチリアを征服したクマ王国の物語』
2021年1月14日(金)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公
提供：トムス・エンタテインメント、ミラクルヴォイス
配給：ミラクルヴォイス
©2019 PRIMA LINEA PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 3 CINÉMA - INDIGO FILM■『ウェルカム・トゥ・アース あなたの知らない地球』
ディズニープラスで独占配信中
© 2021 National Geographic Partners LCC.■『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』
2021年12月24日(金) 新宿シネマカリテ他全国順次公開
配給：エスパース・サロウ
© 2019 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
