2022年は寅年、ということで実際のトラに会いに、埼玉県の東武動物公園へ行ってきました。毎日4頭の「ホワイトタイガー」たちのお世話をしている、飼育係の桜井利花さんにお話を聞きました。
白いのは氷河期の名残り
----:ホワイトタイガーはどうして白いのですか?
桜井利花さん(以下、敬称略):「アルビノですか?」と聞かれますが、そうではありません。アルビノは「メラニン」という体の色素がないので、体に色が出ません。眼も赤いのが特徴です。それに対して、ホワイトタイガーは「ベンガルトラの“白変種”」でメラニンをもっています。
「じゃあ何で白いの?」ということになりますが、有力な説では話が氷河期にさかのぼります。周りが雪や氷に囲まれた環境では、(体が)白い方が目立たないですよね。
----:「保護色」ですね。狩りや敵から身を守るために有利だったわけですね。
桜井:はい。トラ以外にもライオンやクジャクなどに白変種がいますが、同じ理由だと考えられています。(その名残で)ベンガルトラは、今も白くなる遺伝子をみんな持っています。それが、たまたま出てきたのがホワイトタイガーです。メラニンがあるので、(縞模様など)黒い部分もあります。目も(アルビノの赤ではなく)「アイスブルー」と呼ばれる特徴的な色をしています。

----:昔のトラはみんな白かったかもしれませんね。
桜井:氷河期にはこういう色のトラもいたということだと思います。それが(今の時代に)出てきたのがホワイトタイガーだと考えられています。かなり昔には野生でも見られたそうです。
----:健康面の問題はないのですか?
桜井:健康です。アルビノの場合は目や耳が悪いことがありますが、ホワイトタイガーではそうしたことも聞きません。
----:何頭くらいいるのですか?
桜井:東武動物公園には4頭います。日本全体では、約40頭飼育されています。
性格はそれぞれ
----:性格面で、普通のトラとの違いはありますか?
桜井:みんな個性がありますが、ホワイトタイガーだから「こう」ということはありません。
----:食べ物も普通のトラと同じですか?
桜井:主に鶏肉をあげています。胸肉、手羽先、モモ肉とガラが多いです。あとは、脂肪分が少ない馬肉です。私は黄色いトラの飼育経験はありませんが、基本的には同じだと思います。
----:鶏肉と馬肉以外にはありますか?
桜井:シカです。東武動物公園として、「屠体(とたい)給餌*」に取り組んでいます。

栄養バランスと好みを考えた食事
----:犬のおやつでも聞きますが、増え過ぎて畑を荒らすなどの問題が出た場合にやむを得ず駆除したシカですね。
桜井:そうです。毛皮ごとあげられるので、便の状態が良くなるなどのメリットがあります。
----:野菜や果物も食べますか?
桜井:お肉だけです。
----:好き嫌いはありますか?
桜井:あります。鶏肉だと、みんな胸肉やモモ肉が好きなようです。ガラは食べない子個体もいます。それから、切り方の好みもあります(笑) 食べにくいのか、切り方が大きいと食べてくれない個体もいます。野生のトラは、(口で獲物の肉を)ちぎって食べるので顎の力に問題はないのですが…。あと、人間と同じで夏に食欲が落ちることがあります。そういう時には、小さく切るとペロリと食べたりします。
----:量はどのくらいですか?
桜井:その個体によって違いますが、1日に4kgから6kgくらいです
基本的には大きなネコ
----:先ほどから桜井さんをジッと見ていますが、トラは人間に懐くのですか?
桜井:育った状況にもよりますが、ここにいる4頭は人に慣れていると思います。もちろん撫でたりはできませんが、このロッキー君は人工哺育だったので(人に慣れていて)近くに行くとガラス越しに体を擦り付けてくれます。ネコがやるのと同じです。あと、「フンフン」と、鼻を鳴らしてご挨拶してくれますよ
----:ネコに似ている部分はあるわけですね?
桜井:と言いますか、基本的には大きいネコです(笑) 猫じゃらしは使いませんが、ボールなどで遊ぶのも好きです。(ネコと)違うトコロを探す方が難しいと思います。あえて言えば、大きさと…トラは自分から水に入るので、そこくらいでしょうか。

----:爪とぎもしますか?
桜井:はい、します。爪が伸びすぎないように丸太を入れてあります
----:可愛いと思うのはどんな時ですか?
桜井:トラの担当になってまだ5ヵ月ですが、だんだん「顔を覚えてくれたな」という反応を見せるようになりました。最初の頃は制服を見て、「お肉をくれる人」くらいの認識だったと思います。最近は近寄ってきたり、表情を変えたり、鼻を鳴らしてくれます。そういう時は、「可愛いな~」と思いますね。

飼育員というお仕事
----:このお仕事をしていて「良かったな」と思うのはどんな時ですか?
桜井:私にしか見せない表情を見せてくれる時があります。ひそかな喜びではありますが、毎日見ている飼育係しか体験できないことです。
----:将来の夢は?
桜井:上手く言えませんが、動物がより幸せだと思えるような環境をつくっていきたいと考えています。どうしたら動物がもっと幸せになるだろう、と常に考えて行動しています。
----:「私にしか見せない表情」も楽しみながら、そんな環境づくりをがんばってください。今日はありがとうございました。
桜井:ありがとうございます。動物の種類だけでなく、個体によって世話の仕方がすごく違うので、まだまだ勉強中です。でも、そんな環境を動物たちに提供できるようにがんばります。

あんなに大きなトラですが、基本的にはネコと同じというのは新しい発見でした。顔をスリスリする時のしぐさはネコそのもの。ガラスに「ドン」という感じで迫力がありましたが。東武動物公園では、ご飯をあげる体験もできるそうですよ(時間などの詳細はHPにて要確認)。
桜井利花:東武動物公園・飼育係
カンガルー、ヤギ、ヒツジ、ヒヨコなどの「触れ合い」動物の担当後、ペンギンとオットセイのショーを経てホワイトタイガーの飼育係へ。現在は、チーターやマレーバクなども担当。仕事では体重150kgを超えるホワイトタイガーの世話をする一方、私生活では小さなリチャードソンジリス(リスの一種)とヒョウモントカゲモドキ(「レオパ」とも呼ばれるヤモリの一種)と暮らす。
* 駆除された野生動物(シカなど)をの命を無駄にしないよう、動物園が肉食動物に毛や骨がついた状態でエサとして給餌する取り組み。