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【“危険な犬種”は存在するか? vol.2】アメリカの法規制は特定犬種規制から犬種非特定へ

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  • アメリカで「特定犬種規制法」が禁止されている州

前回紹介したように、ネットニュースで「ヤバい犬」のレッテルを貼られたピットブルだが、アメリカには愛好家も多い。

一般には、アメリカン・ピットブル・テリア、アメリカン・スタッフォードシャー・テリア、スタッフォードシャー・ブル・テリアおよびアメリカン・ブリーの4犬種が「ピットブルタイプ」と呼ばれるそうだ。元々は19世紀ごろに家畜のコントロールや番犬などの使役犬として、英国でブルドッグやテリアなどの交配によって作られた。

ピットブルの歴史…闘犬からマスコット的存在へ

その力強い体格から、当時のイギリスでスポーツとして行われていた「bull baiting (ブルベイティング)」にも多く使用されたそうだ。「bull(ブル)」は未去勢で気性の荒い雄牛を意味し、ブルベイティングは俗に「牛いじめ」などと訳される場合がある。牛の閉じ込められた囲い「pit(ピット)」(= 自動車レースなどで聞く「ピット・イン」のピットと同義語)の中でbull (= 雄牛)と闘わされたのがピットブルという名前の由来だそうだ。

その厳つい見た目や一般のイメージとは裏腹に、アメリカのピットブル情報サイト「Pitbullinfo.org」によると20世紀に入るころには「アメリカ(の国)の犬」とも呼ばれて広く愛され、ポスターのマスコットにも採用されたという。現在では家庭犬としてだけでなく、セラピー犬や警察犬、その他の働く犬としても活躍しているそうだ。確かに、YouTubeなどでも赤ちゃんの子守りをするピットブルの姿をみることがある。

アメリカの特定犬種規制法

アメリカには、危険な犬の飼育を規制する法律がある。地域ごとの自治が重要なアメリカでは州ごとに法律が異なるため、各法律の総称として「Breed Specific Legislation(BSL) 」、つまり「特定犬種規制法」(筆者訳)と呼ばれている。州や地域によって、ある犬種の扱いに制限を設けており、場合によっては飼育そのものが違法とされる場合もある。

アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)によると、概してピットブル「クラス」の犬種が指定されているとのことだ。その他、アメリカンブルドッグ、ロットワイラー、マスチフ、ダルメシアン、チャウチャウ、ジャーマンシェパード、ドーベルマンピンシャーやこれらのミックス犬が指定されている地域もある。さらに、「単にこれらの犬種に見た目が似ているだけ」のものが含まれる場合さえあるそうだ。

「特定犬種」から「犬種非特定」への移行

2020年4月現在、アメリカ国内の700を超える街または郡(アメリカにおける行政の最小単位)でこのBSLが施行されてはいるが、主流ではなくなっているという。全米50州のうち21州では、州内全域でBSLを禁止している。犬種で一括りに制限を設けるのではなく、個々の犬ごとに危険な行動履歴や関わった飼い主の責任の度合いで判断するという考え方で、BSLに対して「Breed Neutral Legislation(BNL)」(直訳:犬種中立規制法)と呼ばれている。

全米には合計約3万5000の街と自治体がある。Pitbullinfo.orgによると、BSLが禁止されていない29の州でも、実際に施行されているのは合計でも700の自治体にとどまるとのこと。それ以外、98%を占める3万4300の自治体では犬種で危険性を決める特定犬種規制法BSLではなく犬種非特定のBNLに移行している。

次回は、アメリカでの法規制が特定犬種規制から犬種非特定に移行している背景について紹介する。

《石川徹》

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