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“所有物”ではなく、飼い主の精神的苦痛も考慮…ペットの盗難防止に向け対策進めるイギリス政府

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イギリスでは、激増しているペットの窃盗に対し、政府が改善に向けた対策の検討を行っている。その経過について、先ごろ公共放送のBBCが報じた。

政府が取り組む動物福祉の向上

イギリスでは、政府が民間団体と協力して動物福祉の向上に取り組んでいる。今年の5月、環境省(正式名称:「Department for Environment, Food & Rural Affair:DEFRA」 = 環境・食糧・農村地域省)が「動物福祉のための行動計画(Action Plan for Animal Welfare)」を発表した。これは、ペットや畜産動物、野生動物を保護するための幅広い取り組みをまとめたものだ。20ページにわたる「行動計画」の柱の1つが、ペットの窃盗の厳罰化である。

社会問題化しているペットの窃盗

新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、イギリスではペットの盗難件数がおよそ70%増えたと言われており社会問題化している。2020年には、報告があっただけでも約2000頭の犬が盗まれている。BBCでは、民家の窓ガラスを割って押し入った強盗に数頭の子犬が連れ去られる監視カメラの映像が紹介されている。ナイフを突きつけられたり、顔を殴られたりして連れていた子犬を奪われる事件も発生しているいう。

5月に発表された行動計画では、犬などの窃盗を取り締まる対策を早急に検討するため、政府直轄のタスクフォースが設けられるとされていた。政府関係者のほか警察、検察、地方自治体と専門家などからなる検討チームが、この問題への対策に取り組んでいる。

人気犬種の価格が約2倍に高騰

コロナ禍の影響によるペットの需要増加は、世界的な傾向のようだ。イングランドで最初のロックダウンが行われた昨年3月から、グーグルで「buy a puppy(子犬を買う)」をキーワードとする検索が大幅に増加したと言われている。BBCによれば、同年8月までの6か月間で検索件数は対前年同期比160%(2.6倍)に上ったそうだ。フレンチブルドッグやラブラドールレトリーバーなどイギリスで人気のある犬種の価格は、最初のロックダウン期間中に2倍近く(89%増)跳ね上がったとも言われている。

法的に「所有物」であるペットは、その金銭価値で量刑が決まる

現在のイギリスの法律では、窃盗の最高刑は7年とされている。しかしながら、刑の重さは主に盗まれた物の経済価値(金額)で判断されるため、飼い主の所有物とみなされるペットの盗難に関しては最高刑が適用されたことはないようだ。BBCによれば「(関連省庁の)大臣たちは、ペットの盗難が(飼い主に)及ぼす精神的苦痛を念頭に置いた新しい法律を求めている」そうだ。

精神的苦痛を念頭に置いた法整備へ

ペットの窃盗に対する最高刑がどの様なものになるかはまだ明らかになっていない。ただ、BBCが報じた内務大臣のコメントからは、確実に前進している様子がうかがえる。

「冷酷な犯罪者が私腹を肥やすために行うペットの窃盗は、家族に多大な精神的苦痛をもたらす重大な犯罪です。ペットの誘拐に関しては、動物たちが単なる所有物を遥かに超える大切な存在だという認識に基づいて対処すべきです」

厳罰化と同時にマイクロチップや警察組織も活用

提案には罰則の強化だけでなく、マイクロチップの有効活用で盗んだ動物の販売を困難にする施策が含まれているという。売買・譲渡に関連する詳細な情報をマイクロチップに紐づけて登録することを義務付け、所有者を明確にすることが検討されている。迷子や盗難に関する情報の登録や検索などが簡単にできる、データベースの整備なども提案されている。また、警察がペットの盗難防止に関する注意喚起を積極的に行う仕組みづくりや、動物の窃盗犯を逮捕しやすくする法整備など、包括的な対策が検討されているようだ。

環境大臣も、ペットの窃盗が急増していることに懸念を表明している。飼い主が「恐怖の中で生活する」状況は改善すべきだとBBCに語ったそうだ。世界最古の動物福祉団体である王立動物虐待防止協会(RSPCA)は、「ペットの窃盗に対し、法廷が重い罰則を科すことにつながるよう期待している」とコメントしている。

動物福祉に取り組むイギリス政府

動物福祉に関しては先進国のイメージが強いイギリスだが、実は窃盗以外にも課題は多い。今年の夏まで、イングランドとウェールズ*では、動物虐待に対する最高刑が6か月の収監に留まっていた。ヨーロッパでは、「遅れている」との批判が多かったという。また、子犬や子猫などの違法な輸入・販売も巧妙化している。

動物福祉に関しても理想郷は存在せず、国ごとに課題を抱えているのが実情だ。イギリスも例外ではない。だが、政府が中心となって改善に取り組む姿勢には、動物との向き合い方に対する真摯さが現れているといえるだろう。

* イギリス:正式名称は「グレートブリテンと北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」。グレートブリテン(島)にはイングランドのほかウェールズとスコットランドがあり、それぞれが独自の議会を持ち法規制なども異なる部分がある。

《石川徹》

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