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麻布大学と日本盲導犬協会、母犬から十分な養育を受けた犬は成長後ストレスに強くなることを解明

麻布大学と日本盲導犬協会、母イヌから十分な養育を受けたイヌは成長後ストレスに強くなることを解明
  • 麻布大学と日本盲導犬協会、母イヌから十分な養育を受けたイヌは成長後ストレスに強くなることを解明

麻布大学獣医学部動物応用科学科の永澤美保講師、菊水健史教授、茂木一孝教授は、日本盲導犬協会との共同研究で、出生後に母犬から十分に養育を受けると、環境変化に適切なストレス反応を示しながら早く順応し、日常の恐怖反応も少ないことを明らかにした。

麻布大学と日本盲導犬協会は連携協力に関する包括協定を2008年8月に締結し、共同研究や相互交流を行っている。今回の研究もその一環として行われた。

同研究では、盲導犬の育成過程におけるグルココルチコイド分泌の分析から、出生後に母犬から十分に養育を受けると、盲導犬訓練センターへの入所などの環境変化に適切なストレス反応を示しながら早く順応し、日常の恐怖反応も少ないことが明らかになった。

幼少期に母親の十分な世話を受けた仔は、成長後、攻撃性や恐怖反応が低いことが多くの哺乳類で明らかにされているが、犬における内分泌の調査から、母親の養育と成長後のストレス耐性の関連が明らかになったのは初めてだ。

同研究の結果は、生体にとってのストレス応答性についての再考を促すものとなった。グルココルチコイドは一般にストレスホルモンとされ、「低い方がよい」と言われているが、本来は生物が生きていくうえで必要なホルモンである。同研究では、発達の過程で時期特異的にグルココルチコイドが上昇すること、それが生物としてのレジリエンス獲得につながる可能性を見出した。

同研究では、日本盲導犬総合センターにて出生した425頭(63胎)の仔犬を対象とし、そのうちの21胎の母犬について養育行動を記録。盲導犬の候補となる仔犬は通常、8週齢時にパピーウォーカー(盲導犬候補犬を約10ヶ月間育てるボランティア)に委託され、1歳時に盲導犬育成訓練のため、訓練センターに入所する。

母犬については出産後5週目までの授乳行動、仔犬を舐める行動、仔犬との接触などの養育行動を記録し、定期的な採尿を実施。仔犬については5週齢と7週齢時、および、1歳の訓練センター入所後2週間目に採尿を行い、訓練開始後に行われる稟性(ひんせい)評価の結果を個体特性として解析した。また、母犬と仔犬の尿中コルチゾール値を測定し、ストレス反応の指標としている。コルチゾールはグルココルチコイドの一種。

解析の結果、出産経験が多い、コルチゾール値が高い、養育行動を多く示すといった特性を持つ母犬の仔は、5週齢時のコルチゾール基礎値が高いことが判明。また、この5週齢時コルチゾール基礎値が高い仔犬は、訓練センター入所時の環境変化に対してコルチゾール値が高くなるものの、比較的早く低下し、恐怖反応が少ないことも判明した。

以上のことから、母親にしっかり養育されると5週齢時のコルチゾール基礎値が高くなり、5週齢時のコルチゾール基礎値が高いと、成長後のストレスからの回復力が高くなることが示唆された。なお、7週齢時のコルチゾール基礎値は、母犬の養育行動との関連は見られず、成長後の環境変化に対するストレス反応とも関連しなかったという。一般に、母親の養育行動の質が高いと仔のグルココルチコイドの分泌は低下し、成長後の攻撃性や恐怖反応が弱まると言われているが、同研究では逆の結果となった。

グルココルチコイドは、過剰な分泌は心身に悪影響を与えるが、生物が生きていくうえで必要なホルモンである。そのため、同研究における成長後の環境変化時のコルチゾール値の上昇は、不測の事態における適切な反応であり、直ちにネガティブな状態を示すものではないと考えられるという。

犬の発達過程はヒトに類似しており、ヒトにもストレス不応期(ストレスを受けてもグルココルチコイドが上昇せず、嫌悪学習が成立しない時期)が存在することが示唆されている。そのため、同研究の結果は犬の健全な発達のみならず、ヒトの発達についても重要な示唆をもたらすものであるといえる。また、これらの結果は、生物におけるグルココルチコイドの役割についても再考を促すものであるといえるとしている。

同研究成果は、米国行動神経内分泌学会の公式論文誌「Hormones and Behavior」オンライン版に9月15日に掲載された。

《鈴木まゆこ》

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