日本介助犬協会は、介助犬の育成だけでなく肢体不自由者のリハビリテーションを行い、障害者の自立支援に取り組んでいる。介助犬使用者(以下、ユーザー)が社会参加するためには、介助犬や障害者への社会的な理解が進むことも必要となる。
同協会では、「介助犬総合訓練センター」(愛知県)での見学会や「介助犬フェスタ」など、様々なイベントで介助犬と触れ合う機会を設けている。小学校での講演会もそうした活動の一環だ。今回は、同協会の本部がある神奈川県で行われた出張授業を取材した。
新米PR犬の「ナビ」
この日は、ゴールデン・レトリーバーの「ナビ」がデモンストレーションを行う「PR犬」として学校に出向いた。ナビは介助犬としての作業は完璧にこなすものの、少し気弱なところがあるそうだ。そのため、介助犬としてユーザーと社会参加するよりも、社交的な性格を活かして様々なイベントで人と触れ合うPR犬が向いていると判断された。
この日もまだ新米とは思えないリラックスぶりで、張り切ってデモンストレーションを披露した。また、それ以外の時間は尻尾を振りながら、常に撫でてもらう余裕も見せていた。期待のルーキーだ。
小学生もデモンストレーションに参加
デモンストレーションでは、介助犬の「主要8動作*」の中から靴・靴下を脱がす、落とした物を拾う、冷蔵庫から飲み物を取って来る、携帯電話を探して持ってくるといった作業が紹介された。
脱がせた靴下を脱衣かごに入れたり、飲み物を取った後に冷蔵庫の扉を閉めたりする動作には、参加した小学4年生から拍手が沸いた。各クラスの代表5名の生徒も、車いすに座って落とした鍵をナビに拾ってもらう体験をした。「(これなら)安心です」と、笑顔で感想を語っていた。

すべての人に優しい社会をめざして
同協会からは介助犬だけでなく、盲導犬や聴導犬など「働く犬」についての説明があった。DVDを活用したりクイズを織り込んだりと、分かりやすい講義に参加した生徒たちがとても積極的に参加していたのが印象に残った。話は犬に留まらず、障害をもった人に一声かける大切さにも触れられた。

「すべての人に優しい社会になるように願っています。みなさんも、お友だちが困っていたら一声かけることから始めてみてください」。日本介助犬協会が標榜する「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」という姿勢は、このようなところにも表れていた。
介助犬は短命だと言う誤解
生徒からは、「介助犬は早く死んでしまうと聞きましたが本当ですか?」という質問があった。ストレスのために短命だと一部で思われているようだが、そうしたデータは存在しない。協会からは、介助犬として暮らしてもストレスを感じない性格の犬を選び、仕事は遊びのように楽しく生活しているとの説明があった。決して短命ではないことが伝えられ、生徒も納得した様子だった。

介助犬や盲導犬の場合、何世代も前にさかのぼって遺伝性疾患がないことを確認した上で繁殖が行われる。生まれてからは、引退後も定期的な健康診断を受ける。10歳の元気なうちに引退し、愛情あふれる家庭に迎えられるため、一般のペットと変わらない寿命であることが丁寧に説明されていた。
貴重な「学ぶ機会」
この小学校では、4年生が「優しい街」を考える学習の一環として、介助犬講演を毎年行っているそうだ。「本を読んで学べることも多いですが、実際に体験することでその印象が子どもたちの心に強く残ります」と校長は言う。介助犬に会い、実際に触れ合うことで、障害者に対して「自分たちに何ができるのかを、よく考えるきっかけになっている」とのことだ。貴重な「学ぶ機会」として、今後も継続していくそうだ。
日本介助犬協会も、「小学校の講演は、現場に入ると子供たちのキラキラした目を感じることができとても楽しい時間です」とやりがいを語る。また、小学生たちから出る質問は的を射たものが多いとのことで、介助犬や障害者に対する理解を効果的に深めるきっかけになっているようだ。

盲導犬や介助犬の寿命に関する専門家の意見
埼玉県獣医師会は、補助犬が短命であるとの説を否定する正式なコメントを出している。「盲導犬や介助犬は、"仕事のストレスがかかって寿命が短い"と思っている人も多いようですが、大きな誤解の一つです。仕事をストレスと感じない適性のある犬だけが選ばれているので、ストレスによって寿命が縮まるということはありません。(中略)寿命は一般のペットと変わりません」(同医師会HPより)。
また、日本獣医生命科学大学らによる論文(2007年)でも、「盲導犬は酷使されるので寿命が短い、という話を聞くことがあるが、この話は科学的な根拠はない。(中略)家庭犬の平均寿命についての調査に比較して高いことが明らかになった。」とされている。ペットよりも長寿であるという調査結果も存在する。
もちろん、すべての使役犬育成団体やユーザーが理想的な環境を犬たちに提供しているとは限らない。稀ではあるが、補助犬に対する虐待が疑われるケースが報道されたこともある。
少なくともこれまでに取材した各種使役犬の団体では、犬たちがとても大切に扱われていた。動物福祉に限らず、すべてのことには例外が存在する可能性はある。今後も盲導犬や介助犬だけでなく、使役動物たちの福祉について様々な角度から取材を続ける。
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