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【アメリカの動物愛護事情 vol.2】デンバー市がピットブルの飼育を禁止する法律を破棄

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  • これまで、生まれた子犬は殺処分か市外への永久追放以外の選択肢が無かった
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アメリカでは、ある犬種の飼育に制限を設ける「特定犬種規制法(BSL:Breed Specific Legislation)」と呼ばれる法律がある。危険なイメージのあるピットブル・タイプの犬を中心に、飼育そのものを違法としたり、大幅な制限をかけたりするものである。

しかしながら、BSLは事故防止に有効でないとの考えが今日のアメリカ社会では主流となっている。犬種でひとくくりにしない「BNL(Breed Neutral Legislation、直訳:犬種中立規制法)」への移行がトレンドとなっていることを、以前REANIMALで紹介した(参考記事)。

コロラド州デンバーでBSLが廃止

11月3日、アメリカ中部にあるコロラド州の州都デンバーで住民投票が行われ、ピットブルの飼育を禁止する条例の廃止が決まった。30年以上にわたり違法とされてきたピットブル・タイプの犬の飼育が、2021年1月より可能となる。飼い主が市への登録を行い、マイクロチップの装着とワクチン接種を徹底させるなど、必要な手続きを踏むことで1家庭につき2頭まで飼育できることになる。

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きちんとした登録と責任ある飼育

とは言え、全く自由に飼育できるわけではなく、責任ある飼い主が愛犬をきちんと管理できることを証明する必要がある。まず飼い主は、デンバー市の施設に犬を持ち込み、専門家からピットブルとして定義されるか否かの判定を受ける。この判定には、30分から45分かかるとされ、1頭あたり25ドル(約2500円)の手数料もかかる。判定の結果、ピットブルでないと認められた場合は公式な書類が発行され、その後の特別な手続きなく飼うことができる。

ちなみにデンバー市の場合、登録や狂犬病ワクチンの接種、不妊去勢手術などはすべての犬種に義務付けられている。また犬と猫を飼育する場合には、1頭あたり15ドルを毎年デンバー市に納める必要がある。

ピットブルと判断された場合、飼い主は許可証の発行申請を行う。これには、市への登録と狂犬病ワクチン接種に加え、マイクロチップの装着と30ドルの手数料が必要となる。毎年の更新が義務付けられるが、3年間まったく問題なく過ごした場合はその後の更新は不要となる。一方、ノーリードでの飼育や排せつ物の不適切な処理、噛みつき事故、過剰な吠えや危険な行動などの問題が発覚した場合、その時点から新たに3年の許可証更新義務が発生することになっている。

「似ている犬」も含めたピットブル・タイプの飼育が違法だった

デンバー市は1989年7月に条例を施行し、アメリカン・ピットブル・テリア、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアとスタッフォードシャー・ブルテリアをピットブル犬種に指定して飼育を違法とした。また、これらの犬種の身体的特徴を多く有する犬もピットブル・タイプと定義され、同様の規制対象とされた。「“危険な犬種”は存在するか? vol.2」で紹介したように、「見た目が似ているだけ」の犬も特定犬種に含んでしまう一例である。

BSL施行以前のピットブルへの経過措置…違反すれば収容と処分

それ以前にピットブルを飼育していた飼い主には、1989年7月までにライセンスを申請し取得すれば許可される措置がとられたが、細かな規定に違反した場合は当局による「即座の収容と処分」が行われると条文に明記されている。飼い主は21歳以上に限定されるとともに、近親者以外への販売や譲渡が禁じられた。さらに、10万ドル以上の保険への加入や不妊・去勢手術、登録番号の入れ墨なども義務付けられた。

子犬は殺処分もしくは市外への永久追放とされていた

子犬が生まれた場合、飼い主は市の施設に持ち込み殺処分させるか、デンバー市外に「永久に」移送しなければならず、いかなる場合も飼い続けることは認められないとされている。

これまで、生まれた子犬は殺処分か市外への永久追放以外の選択肢が無かったこれまで、生まれた子犬は殺処分か市外への永久追放以外の選択肢が無かった

また、住居にあるすべての入り口には「ピット・ブル・ドッグ」と書かれたサインを設けることも強制され、そこに書かれる文字や看板の大きさなども詳細に定義されていた。

これまでは愛護団体のレスキューや単なる通過も規制対象

動物愛護団体などがピットブルを保護した場合も、当局に引き渡す、もしくは殺処分するかデンバー市外に移送するまで、最低限の保有しか認められていなかった。引っ越しなどでピットブルを連れてデンバー市を通過する場合も、市を出る出発時刻が明記された電車のチケットなどの証明を添えて許可証を事前に取得することが求められていた。

人間の安全確保を最大限に担保するという見地からは、いわゆる「抜け道」がなく納得できそうな内容ではある。しかしながら、デンバー市という自治体が「Animal Protection = 動物の保護」に関する条例にこうした規定を設けていたところには違和感がぬぐえない。

デンバー大学による科学的な研究が寄与

こうしたBSLの有効性に対しては、デンバー大学がデータ収集や分析を通して客観的な検証を行ってきた。その効果に疑問を呈していた同大学のケビン・モリス準教授は、今回の決定について以下のように語った。

「犬種にとらわれるのではなく、(飼い主の管理なども含めた)包括的な法規制を採用するのは今やアメリカだけでなく世界的な傾向であり、それが公共の安全につながるのです。また、BSLのような懲罰的な法律よりも、高額でない獣医療やトレーニングなどの提供が安全の確保に大切なことが認識されつつあります。今回の結果は、(地域社会の安全だけでなく)動物福祉の観点からも喜ばしいことです」

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この住民投票の結果に対してデンバー大学がウェブサイトで公開した記事は、リサーチに中心的な役割を果たしたスローン・ハウ氏の印象的なコメントで締めくくられている。

「人間と、そこに暮らす動物および(自然)環境とが、お互いに依存し合ってはじめて健康的な生活を営むことができるのです。そうした認識を持つことが、思いやりのあるコミュニティーをつくり出す基礎となります。特定の人間や動物が不当な扱いのターゲットとされないことが、地域社会全体の健全さと活力につながるのです」

危険をはらんだ日本の将来?

「Black Lives Matter (BLM)」に代表されるように、人種差別やダイバーシティ(多様性)が世界中で論じられている。デンバー大学のコメントのように、人間だけでなく犬種に対する差別にも問題提起がなされるところは、アメリカらしい良い面の表れだろう。

一方、以前紹介したように、我が国では「ヤバい犬」として特定の犬種を批判し、犬種による規制を設けるべきと主張する意見もネット上で見受けられる(参考記事)。こうした思想こそが、ピットブル・タイプの犬種よりも社会的に大きな危険をはらんでいるのではないだろうか。

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《石川徹》

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