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ピットブルに顕著な攻撃性は認められず…英・王立獣医大学が発表

スタッフォードシャー・ブル・テリア(イメージ)
  • スタッフォードシャー・ブル・テリア(イメージ)
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REANIMALでは、「危険な犬種は存在するか?」と題し犬種を指定して飼育規制を設けるべきか否かについて6回にわたって論じた(記事一覧)。

アメリカではそうした「特定犬種規制法」から、犬種でひとくくりにせず、飼い主の行動も含めた個々の状況を基に規制を加える「犬種非特定」の法律に移行していることを解説。また、日本で発生したピットブルや土佐犬などによる咬傷事故は、飼い主の管理に問題がありそうだということも紹介した。

ピットブルを獣医学的に検証

今回、「スタッフォードシャー・ブル・テリア*」を獣医学的に他犬種と比較した最新の研究結果が発表された。アメリカでは一般的に「ピットブルタイプ」に分類され特定犬種規制法の対象になりがちなこのテリアは、イギリスでも一般に攻撃的なイメージがあるそうだ。しかしながら、科学的な研究の結果、他の犬種と比較して明らかな攻撃性は認められなかったとしている。

王立獣医大学の論文

論文を掲載したのは「Canine Medicine and Genetics(直訳:犬の医学と遺伝学)」ジャーナル。イギリスの「王立獣医大学(Royal Veterinary College: RVC)」が6月22日に提出した研究結果が、9月7日に承認され9月23日にオンライン公開された。

ピットブルを他の犬種と獣医学的に比較

RVCは「The Veterinary Companion Animal Surveillance System(直訳:獣医学的伴侶動物監視システム)」、通称「VetCompass Programme (ベット・コンパス・プログラム)」というシステムでペットとして飼育されている動物の健康管理を改善するための情報収集を行っている。そのデータベースから2016年の飼い犬に関する全データを抽出し、スタッフォードシャー・ブル・テリアをそれ以外の犬種と比較、起こりやすい症状・病気とそうでないものを分析した。

対象は2万頭を超える

対象となった犬は、スタッフォードシャー・ブル・テリアが1304頭とそれ以外の犬種2万1029頭(ラブラドールレトリーバー、ジャックラッセルテリア、シーズー、コッカ―スパニエルおよびミックス犬)の合計2万2333頭。その2つのグループを、アトピー性皮膚炎やアレルギー、心雑音、関節疾患など36の疾患・病的症状について比較した。

調査項目には、具体的な病名だけでなく嘔吐や歩行障害などの症状も含まれる。この研究は同犬種のネガティブなイメージが正しいものかどうかを検証する目的もあり、「攻撃的(aggressive)」という項目も獣学的診断(症状)として他犬種と比較している。

顕著な攻撃性は認められず

スタッフォードシャー・ブル・テリアは、他の犬種と比べると発作性疾患に関しては2倍以上、アトピー性皮膚炎や皮膚の腫瘤(にきびや嚢胞、水疱、軟性線維腫などの「できもの」)といった皮膚疾患も2倍近くの頻度で発症した。一方で罹りにくい病気として顕著だったのが、膝蓋骨脱臼(通称パテラ)だった。パテラと言えばトイプードルやチワワなど、日本で人気の小型犬ではある種「デフォルト」の様になっている病気だが、ピットブルでは非常に稀なようだ。

「攻撃性」に関しては、その他の犬種と比較して診断された割合が1.09倍で、統計的な有意差は認められないとしている。また、行動障害(原文ではbehaviour disorder)については、他犬種よりも診断される割合は低かったことも報告されている。

きめ細かい健康管理を可能に

この研究により、スタッフォードシャー・ブル・テリアが罹りやすい病気が明らかになり、健康診断や日々のケアなど、より適切な健康管理が可能となる。同犬種の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)向上には、大きなメリットをもたらす意義のある研究と言えるだろう。

イメージによる「スタッフィー」の不遇

イギリスでは同犬種の人気が高く、一次診療受診頭数(=かかりつけの病院を受診した数)では「イギリスとアメリカの愛犬事情」で紹介した「不動の一番人気」ラブラドールに次いで2番目に多いそうだ。愛好家からは、「スタッフィー」の愛称で親しまれている。その一方で、「攻撃的」というイメージから、保護犬となった場合の引き取り手が極端に少なく、この犬種の福祉低下につながっている。

しかしながら、RVCによると同犬種の攻撃性を論じた文書や論文の多くが20年以上前の物であるとともに、リサーチの設計方法にも疑問があるようだ。今回の研究は、スタッフィーの疾患傾向を獣医学的に検証する目的で行われた過去最大規模の調査であり、分析方法も誤差を排し正確性を担保するよう綿密に設計されている。イメージではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づいた分析では、「顕著な攻撃性は見られない」という結果となった。

Pitbull Lives Also Matter

「“危険な犬種”は存在するか?vol.3」で紹介したように、アメリカでは犬種による決めつけが否定されている。今回イギリスでRVCという権威ある組織から発表された獣医学的検証も、「ピットブルタイプ」の生まれながらの攻撃性の高さを否定している。

犬が関係する事故はアメリカやイギリスに限らず日本を含む各国で発生しており、状況によっては、何らかの対策を講じる必要はあるだろう。ただし、それは「犬種」を指定しての飼育禁止や茨城県の「特定犬制度」(「“危険な犬種”は存在するか? vol.4」で紹介)のように、檻の中で飼うことの強制ではないと考える。

今、世界中で人種を始めとする様々な差別に反対する声がこれまでになく強く上がっている。「Black Lives Matter」に関するニュースが大きく報道されているが、ピットブルの「犬権」も他の生き物や犬種と同様、尊重されるべきではないだろうか。

* スタッフォードシャー・ブル・テリア
RVCによれば、「責任ある管理と適切な環境下においては、家庭のペットに適する」としており、英国KC(ケンネルクラブ)犬種解説にも「知性が高く、子供に対して特に愛情を注ぐ」犬種とされている。

『最新犬種図鑑』(インターズー/監修・ジャパンケンネルクラブ)より抜粋
闘犬用にブルドッグとスムース・フォックス・テリアやホワイト・イングリッシュ・テリアを交配して作られたといわれ、犬種作出から300年は経過していると思われる。(中略)1835年に闘犬による競技が廃止されて人気が離散し、ウェールズやスタッフォードシャーの愛好家により細々と飼育されるのみだった。その時代にマンチェスター・テリアがかけ合わされ軽いタイプに改良された。100年後の1935年にクラブが設立され、人気犬種となった。ブル・テリアの先祖である。

《石川徹》

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