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現在の生息数は? トラを滅ぼす人間の行い…寅年特集 vol.2

トラ
  • トラ
  • トラの生息地図(WWF Tiger Alive Initiative ウェブサイトよりWWFジャパンが作成)©WWF Japan
  • トラ© Narayanan Iyer (Naresh) / WWF-International
  • トラ© Hardik Shelat / WWF-International
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前回は、トラがどんな動物なのかをご紹介しました。「百獣の王」ライオンと並ぶ超大型の肉食動物は無敵に思えます。でも、そんなトラたちが実は絶滅の危機に瀕しているのです。今回は、その原因をご紹介します。

生息数は25分の1以下に減少

いくつかの地域では、既にトラの姿が見られなくなっています。20世紀の初めには地球上に約10万頭がいたと言われていますが、今では4000頭を割り込んでいると考えられています。地球上から姿を消してしまうかもしれない生き物として、「IUCN絶滅危惧種レッドリスト*」」に載っています。レッドリストは国際的な自然保護団体である「国際自然保護連合(IUCN)**」が作成しており、絶滅の危機に瀕している野生動物をまとめたものです。スイスに本拠を持つIUCNには、210以上の国および政府機関、1200以上のNGO・先住民族団体に加え、1万7000人以上の専門家がボランティアとして参加しています。日本も1978年に当時の環境庁が加盟しています。

原因は人間…毛皮と「スポーツ」

トラがこんなに減ってしまったのはなぜでしょう? 原因は、私たち人間にあります。かつて、毛皮を衣服や絨毯などに使用するため、トラが乱獲されました。一部先進国の富裕層が、「スポーツ・ハンティング」として遊びで狩猟を行ったこともあります。獲物の頭部をはく製にした壁飾りなどを、「トロフィー」として持ち帰る習慣もありました。

現在、トラの生息域では法律で狩猟が禁じられています。イギリスでは、トラに限らず「トロフィー」の持ち込みが違法とされています。でも、過去にはこうした人間の欲望のために、多くの命が奪われました。

漢方薬の材料

トラは漢方薬の材料としても利用されてきました。骨は体力回復に、オスの生殖器が強壮剤などとして効果があると信じられています。現在はワシントン条約(正式名称「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」)が毛皮や敷物だけでなく、骨粉などトラの体を使った漢方薬などの輸出入も禁じています。一方で、アジアの経済発展によって、漢方薬の需要は高まっているようです。こうした状況から、トラは高価で取引されているとみられています。

環境破壊

もう1つの原因が環境破壊です。トラが住むのは主に森林です。そうした地域で農地開発のための伐採が行われたり、資材として木材の切り出しが行われたりしています。生息地が激減し、この100年で約9割が失われたと言われています。獲物となる動物の減少にもつながり、トラの生活圏は極端に狭くなっているでしょう。

トラの生息地図(WWF Tiger Alive Initiative ウェブサイトよりWWFジャパンが作成)©WWF Japanトラの生息地図(WWF Tiger Alive Initiative ウェブサイトよりWWFジャパンが作成)©WWF Japan

これはもう1つの問題を引き起こします。トラの生活圏だった場所に人間が進出したことで、家畜などが襲われるケースが増えました。地域住民にとって、トラは駆除の対象になったのです。身を守るための行為であり、スポーツや漢方薬のための狩猟とは事情が異なりますが、森林の伐採はトラと人間の双方にとって不幸な状況も生み出しました。

トラ© Narayanan Iyer (Naresh) / WWF-Internationalトラ© Narayanan Iyer (Naresh) / WWF-International

トラの絶滅が私たちに及ぼす影響

トラがいなくなった場合、どんな問題があるでしょう。天敵のトラがいなくなれば、まず獲物になっていたシカなどの動物が増えます。もちろん、草食動物1つ1つの命を考えれば、捕食されないのは喜ばしいことでしょう。

でも、草食動物が増え過ぎてしまうと、今度は植物がなくなります。食べ物が不足して、生き残ったシカの次の世代は飢えて死んでしまうでしょう。小型の草食動物や昆虫も、食べ物と住みかが奪われてしまいます。そしてその影響は、鳥やサルなど色々な生物に波及します。こうして、地域全体の環境が破壊されることが想像できます。

また、植物が不足すれば草食動物が人間の畑を荒らすなど、農業にも悪影響が及ぶでしょう。野生の動植物だけでなく、人間も直接的な被害を受けます。さらに、1つの地域でこうした変化が起これば、その影響は次第に隣接するエリアにも及びます。

トラ© Hardik Shelat / WWF-Internationalトラ© Hardik Shelat / WWF-International

地球規模での視野が必要

近年では、環境問題を世界規模で考えるようになっています。交通や通信の発達により、人間の活動が地域や国にとらわれなくなりました。また、エネルギー問題の解決や大気・海洋汚染、資源の有効活用など自然環境の保全には、国際的な取り組みが欠かせません。地球という大きなシステム単位で考えることが、私たち人間の未来の世代にとっても大切なのです。

次回は、そうした観点に基づいて行われているトラの保護活動***をご紹介します。

* The IUCN Red List of Threatened SpeciesTM
** International Union for Conservation of Nature and Natural Resources
*** 長年トラの保護に取り組んでいるWWF(世界自然保護基金)では、トラを守るためのキャンペーンを行っている

参考:IUCN Red List of Threatened Species、「これを読めばトラ博士?!絶滅危惧種トラの生態や亜種数は?」(WWFジャパン)
《石川徹》

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