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犬の避妊・去勢手術に関する最新の発表 vol.4…犬種ごとの傾向 ダックスフント、マルチーズ他

マルチーズ
  • マルチーズ
  • ダックスフント
  • ポメラニアン
  • ヨークシャーテリア
  • 35犬種に関する避妊去勢手術ガイドライン

前回紹介したように、避妊去勢手術(以下、手術)を行わない方が長期的な健康には好ましいと考えられる犬種があり得ることをカリフォルニア大学デービス校の論文は紹介している。

一方、小型犬種の場合は一部の例外を除いて手術が関節疾患とがんの発症リスクを上げるという傾向が見られないそうだ。今回は、そうした小型犬について、日本で飼育頭数の多いものを中心に紹介する。

例外的なシーズー

メスの避妊手術は2歳になるまで待つか、生後6か月以前に行うことを検討するのが安心とのことである。一方、オスの場合は関節疾患とがんの発生に、手術の有無およびそのタイミングによる目立った差は見られなかった。

詳細:サンプル数は432頭(未去勢のオス104、去勢済みのオス112、未避妊のメス77、避妊済みのメス139)。どのグループでも関節疾患は見られなかった。未避妊のメス、未去勢のオスおよび去勢済みのオスでは、がんの発生も見られなかった。

未避妊のメスの3%が乳がんを罹患した。尿失禁と診断されたメスはいなかった。生後6~11ヶ月までに避妊手術を受けたメスの7%、1歳で手術を受けたメスの18%が何らかのがんの診断を受けておりリスクが高いと考えられる。

その他の小型犬種

以下の犬種については、手術の有無やタイミングによる関節疾患やがんの発生リスクに目立った差は見られなかったと報告している。したがって、手術を行うか、そしてタイミングをいつにするかは飼い主と獣医師による判断とされる。

ダックスフント

サンプル数は658頭(未去勢のオス177頭、去勢済みのオス170頭、未避妊のメス99頭、避妊済みのメス212)。4つのグループで関節疾患の発生は見られなかった。未去勢のオスの53%、未避妊のメスの38%がこの犬種に多い背骨の椎間板ヘルニアと診断されたが、手術の有無による明らかな発症率の増加は認められなかった。

未去勢・未避妊のオス・メスにおけるがんの発症率は1%未満で、手術による増加は見られなかった。未避妊のメスで乳がんを発症したのは1%、子宮蓄膿症は4%であった。避妊済みのメスで尿失禁と診断された個体はいなかった。

ダックスフントダックスフント

マルチーズ

サンプル数は272頭(未去勢のオス49、去勢済みのオス72、未避妊のメス65、避妊済みのメス86)。性別および手術の有無に関わらず、関節疾患は報告されなかった。がんについても同様な傾向で、64頭の未去勢のオスのうち1頭ががんと診断され、2歳以降で避妊手術を受けたメス1頭が乳がんを発症した以外は発症例がなかった。子宮蓄膿症、尿失禁ともに症例はなかった。

ポメラニアン

サンプル数は322頭(未去勢のオス84、去勢済みのオス69、未避妊のメス65、避妊済みのメス104)。どのグループでも関節疾患は見られなかった。未去勢・未避妊のグループでがんの発生はなく、避妊・去勢済みのグループにも増加リスクは認められなかった。未避妊のメス1頭が乳がんを罹患し、7%が子宮蓄膿症を発症した。尿失禁症状のあるメスはいなかった。

パグ

サンプル数は383頭(未去勢のオス96、去勢済みのオス106、未避妊のメス63、避妊済みのメス118)。未去勢のオスには見られず、未避妊のメスの2%に見られた関節疾患だが、手術の影響とみられるリスクの増加は報告されていない。がんは未去勢のオスの6%、未避妊のメスの8%が発症しているが、同じく手術によると考えられる顕著な増加は見られなかった。乳がんと尿失禁の発症はなかった。また子宮蓄膿症の発症は未避妊のメスの5%に見られた。

ミニチュアシュナウザー

サンプル数は231頭(未去勢のオス47、去勢済みのオス63、未避妊のメス25、避妊済みのメス96)。どのグループでも関節疾患は見られなかった。未去勢のオスの4%ががんを発症したが、全体として性別と手術の有無による差は見られなかった。乳がんおよび尿失禁を発症したメスは避妊手術の有無の関わらずいなかった。また、4%が子宮蓄膿症に罹患した。

ヨークシャーテリア

サンプル数は685頭(未去勢のオス134、去勢済みのオス178、未避妊のメス144、避妊済みのメス229)。未去勢のオスには関節疾患が見られなかった。また、未避妊のメスの関節疾患罹患率は1%であった。手術による関節疾患の発生に差はなかった。未去勢・未避妊のグループの1%が1つ以上のがんを発症したが、避妊・去勢手術済のグループとの違いは認められなかった。2~8歳の間に避妊手術を行ったメスの1%に乳がんが、未避妊のメスの7%に子宮蓄膿症が見られた。尿失禁と診断されたメスはいなかった。

ヨークシャーテリアヨークシャーテリア

この他の犬種

これまで4回にわたって紹介してきた以外に関しても、調査が行われた犬種に関してはカリフォルニア大学の「ガイドライン」を和訳した別表に記載した。犬種は、以下の通り:オーストラリアンキャトルドッグ、オーストラリアンシェパード、ビーグル、バーニーズマウンテンドッグ、ボーダーコリー、ボストンテリア、ボクサー、ブルドッグ、キャバリアキングチャールズスパニエル、コッカースパニエル、コリー、コーギー(ペンブロークとカーディガン合算)、イングリッシュスプリンガースパニエル、グレートデーン、アイリッシュウルフハウンド、ジャックラッセルテリア、ロットワイラー、セントバーナード、シェットランドシープドッグ、ウエストハイランドホワイトテリア。

35犬種に関する避妊去勢手術ガイドライン35犬種に関する避妊去勢手術ガイドライン

最終的な判断は十分な検討を

このシリーズのvol.1で紹介したように、今回の論文は手術を検討する際の参考情報=「ガイドライン」として提供されている。あくまで今回のデータ収集・分析の結果をまとめたひとつの目安であり、決定的な判断を下しているものでないことには注意を要する。最終的な判断は、飼い主とかかりつけの獣医師との間で十分に検討した上での決定が大切である。

《石川徹》

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