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【“命の商品化”を考える vol.14】「改善の意思のない業者の排除」に向けた環境省の意志と今後の課題

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前回紹介したように、10月7日に環境省が「中央環境審議会動物愛護部会」(第57回)を開催した。そこでは、犬や猫が繁殖・販売業者などにおいて劣悪な環境下で飼育されるのを防止するための具体的な基準、いわゆる「数値規制」案の答申が行われた。

動物福祉の観点からは前進した印象を受けた環境省案だが、ペット関連の業界団体である一般社団法人全国ペット協会からは多くの質問や疑問が述べられた。

全国ペット協会からの強い不満

全国ペット協会を代表して出席した委員からは、「長くなります」と前置きがあった上で多くの質問や要望、反対意見が出された。

まず、繁殖犬の場合は15頭、繁殖猫の場合は25匹などとされた従業員1人当たりの飼育頭数上限や最低3時間と規定された運動時間のほか、ケージサイズなどに関する計算根拠が不明確との疑問が投げかけられた。その上で、数値規制案作成の過程において「(業者に関する)実態調査が圧倒的に不足している」との強い不満も表明された。さらに、数値規制によって発生するであろう、行き場の無くなる膨大な数の繁殖犬・猫への対応についても問われた。

また、環境省が数値規制を中心とする省令策定の目的としているのは、「悪質な事業者を排除するために、事業者に対して自治体がレッドカードを出しやすい明確な基準とする」(第7回検討会の環境省資料より)ことが明言されている。これに対しても、そうした「悪質な事業者」をこれまで「放置していた」環境省の責任を問う発言があった。

環境省の意志

現状への責任については、反省すべき部分は環境省にもあるとの真摯なコメントが聞かれた。その上で、それが今回の法改正につながっており、同省としては実効性のある具体的な基準の設定と自治体へのサポートを通して悪質な事業者の排除に努めていく旨の説明があった。これを契機に状況改善を行うという、強い意志が感じられた。

各数値の根拠に関しては、「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」からの詳細な提案や2月の検討会で行われた「関係団体ヒアリング」で出された具体案、国内外の文献調査や海外のベンチマーキングなど充分な検討を重ねた結果であるとされた。また実態調査についても、依頼に応じた業者には立ち入りや聞き取りを含め可能な限り実施したことも伝えられた。

7月に開催された第6回の検討会では、複数の犬・猫の繁殖業者の現地調査と、第二種動物取扱業者である譲渡団体とのウェブ会議(新型コロナウイルスの影響と思われる)で得られた情報や課題などについて正式に報告されている。

「行き場の無くなる犬猫」に関しては、経過措置を設ける等の対策が必要なことは認識しており、各方面の意見も踏まえて環境整備に努力していくとのことだった。

改善の意思のない業者を排除

今回の省令は、不適切な管理を続けるだけでなく、自治体からの指摘を受けても改善の意思のない業者を対象としたものである。「少ない数でない」(環境省コメントより)そうした業者の指導には、各自治体が非常に苦労している現状が一部の委員からも指摘された。改善に向けた「自治体の取組の支援の充実」(環境省資料より)を図るため、「(省令を)速やかに勧告、命令、取消し、罰則適用が行えるものにする」と同時に、「自治体の迅速な対応を支える相談窓口を設置する」(同)方針を環境省は明確にしている。

難しい経過措置策定に向けたかじ取り

部会では今後、ペット業界の現状を踏まえた経過措置も検討していく方針である。愛護法に限らず、法改正においては通常のプロセスであると言えるだろう。優良な事業者も含めたペット業界の現実的な実情も考慮する必要はあるだろう。また全国ペット協会は、業界全体とその家族を含めるとおよそ60万人の「死活問題」と主張する。

ただ、「少なくない」と環境省も認める劣悪な環境下で生きることを余儀なくされている動物たちが現在、存在している。そうした動物たちを救うための改善策である数値規制は、来年6月の施行と同時に始める必要はあるだろう。また、これまで長年にわたり自主規制を主張しながら、改善が進んでいない業界体質に対する批判も環境省や一部の委員から聞かれた。

2006年の愛護法改正(2005年6月公布、翌2006年6月施行)では、「現行の届出制を登録制に移行し、悪質な業者について登録及び更新の拒否、登録の取消し及び業務停止の命令措置を設ける」とされ、適切な飼養を強く求めている。さらに2012年の改正(2011年9月公布、2012年9月施行)では、引退繁殖犬猫等の終生飼養や健康管理のための獣医師との連携などが義務化されている。このように段階を踏んで進めてきたにもかかわらず、環境改善が行われていないための数値規制であることを強調する委員もいた。

そうしたこれまでの経緯や、そもそも「動物の健康及び安全を保持する」愛護法の趣旨と、ペット業界の現状をどうバランスさせるか、現実的にはかなり難しいかじ取りが要求されるだろう。年明けには公布が予定されている環境省令だが、来年6月の施行までにはまだ課題もあり、環境省の手腕を注意深く見守りたい。

REANIMALでは今後も、この数値規制を含む愛護法の動きについて紹介していく。

《石川徹》

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