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犬と猫の食事について vol.2…良いレシピやフードを選ぶ場合の注意点[インタビュー]

獣医師/ペット栄養管理士の岩切裕布氏
  • 獣医師/ペット栄養管理士の岩切裕布氏
  • 獣医師/ペット栄養管理士の岩切裕布氏
  • 岩切氏の愛犬・空ちゃん
  • 作る楽しみもある手作り食
  • わき目もふらず完食

前回は、犬と猫のご飯を手作りする場合、エビデンス(科学的根拠)に基づいたレシピが重要であることについて、岩切裕布獣医師に話を聞いた。今回は、一般的なペットフードや手作り食のレシピを選ぶ場合の注意すべきポイントについて聞いた。

入手が難しい「信頼できるレシピ」

----:話はDC one dishさんから離れてしまいますが、一般論として、良いレシピを見分けるコツはありますか?

岩切裕布氏(以下敬称略):ある獣医師が、世の中に公開されている200を超える(手作り食)レシピをすべて調査した際の報告があります。その結果、総合栄養食*の基準を満たしたものは1つもなかったことが、2017年に学会で発表されています。私たちも書籍やインターネットにあるレシピを100種類ほど分析・計算しました。やはり総合栄養食の基準を満たすものはありませんでした。

毎日の主食として与える物として信頼できるレシピは、基本的には無料で手に入らないと考えた方が良いでしょう。ただ、年に数回、何らかのイベントの日に食べさせるというのであれば、大きな問題はないことが多いと思います。

----:ひな祭りのワンちゃん用ちらし寿司とか、バースデーケーキといったイメージですね?

岩切:そうですね。もし確認するポイントを挙げるとすれば、それぞれの食材がグラム数まで細かく表記されているか。それと、どんな栄養組成なのかの2点が重要です。犬猫の栄養基準には、世界中で使用されているものとして「AAFCO(アフコ)**」があります。また、日本のペットフード公正取引協議会がAAFCOの1997年版に基づいて定めた総合栄養食の基準もあります。いずれにしても、きちんとエビデンスのある栄養基準に基づいているかを確認することが大切です。

ペットフードの品質はユーザーへの対応に現れる

----:完璧に手作りするのは難しいという飼い主さんも多いと思います。市販のドッグフードやキャットフードについてはどうお考えですか?

岩切:率直に言って、適当に作る手作り食よりも基準に沿って作られた市販のフードの方が、間違いなく栄養価の面では良いです。それは今後も変わらないと思います。私も、「適当に手作りするくらいなら、市販のご飯を食べてね」と言います。

----:では市販のフードを選ぶ場合は、どんなところに気をつけたら良いでしょうか?

岩切:気になるフードのメーカーに問い合わせをしてみてください。私は療法食メーカーに勤めていたこともありましたが、実際に中に入ってみないと、どんなことが行われているかは分かりません。でも、消費者には知る権利があります。お客様である特権をいかし、是非、疑問に感じることを直接聞いてみてください。

----:どんな点について確認するのが良いでしょうか?

岩切:疑問に思ったことは何でも聞いて良いと思います。例えば、その会社に獣医師が所属しているか、その獣医師は飼い主さんからの相談に乗ってくれるのか、原材料にどんな物が使われているのか、その産地を確認することができるか、工場見学ができるかなど。すべてに満足いく回答が得られるケースはあまりないとは思いますが、その時の受け答えは間違いなく参考になります。誠心誠意対応してくれるか、適当な受け答えをしないか、というところから見えてくるものはあるはずです。

どのフードを選ぶべきか迷った時には、かかりつけの獣医さんに相談するのが安心だと思います。同時に、いくつかのメーカーへの問い合わせは絶対に行った方がいいと思います。繰り返しになりますが、消費者として知る権利があります。是非、問い合わせをしてみてください。

----:会社としての姿勢が分かれば、製品開発を含め事業の方向性というか、安心して付き合えるメーカーかどうかの判断材料にはなりそうですね。これはペットフードに限らずほとんどの商品に言えると思うので、思い当たる飼い主さんも多いかも知れません。

岩切:そう思います。

食事については一度じっくり考えて、あとは楽しく

----:とても参考になりました。最後に、一般の飼い主さんにアドバイスをいただけますか?

岩切:一言で言うなら、一緒に暮らすことを楽しみましょう! ペット業界って、流行りがすごくあるんです。食にまつわるものはもちろんですが、用品も、飼い方も、それから犬種も。

もちろん流行りの中から良いものが生まれることもあるので、それは良いことです。でも、それだけでなく、そもそも「その子」と暮らすうえで何が本質的に大事なのかを考えることが大切だと思います。その子その子で違いますから。そして、無理強いはせず、求めすぎず、一緒に暮らすことを楽しむのが良いのではないでしょうか。

うちの子、できることは「お座り」と「マテ」だけなんです。「獣医さんちの犬はすごくしっかりしてるだろう」と思われることがありますが…(笑)他人に迷惑をかけず、人といるのが楽しい、ということを分かってくれて、健康なら良いと思っています。

----:でも、食事については少し突き詰めるのも大切ですね。

岩切:食事は、健康に害を及ぼすこともあれば健康になることもあります。「何となく」ではなく、調べてみたり、立ち止まったりして、一度じっくり考えてみることをおすすめします。

わき目もふらず完食わき目もふらず完食

----:肉体的な部分はもちろん、精神的な健康にも食は重要ですよね。美味しい、美味しくないというのもきっとあると思います。毎日のことなので、よく考えてみるのは大切ですね。

ちなみに、飼い主として愛犬の「空ちゃん」と接するにあたってはどんなことに気を付けていますか?

岩切:犬は言葉で説明できないので、変化には気付けるようにしています。「その子その子」に関して、日々の情報を一番たくさん持っているのは飼い主です。どんな獣医師よりも、ペットの変化を敏感に感じ取れるのが飼い主です。何かあった時に気付ける、というのが大切ではないでしょうか。そうすれば、獣医さんに相談すべきなのか、何かを改善すべきなのかなど、対処もすぐにできるので安心です。

岩切氏の愛犬・空ちゃん岩切氏の愛犬・空ちゃん


2回にわたるインタビューを通じて、食を慎重に考えることの大切さを改めて認識した。ルーティーンとして深く考えることを忘れがちな日々の食事だが、肉体面だけでなく精神面においてもその重要性は私たち人間と変わらないだろう。ただ違うのは、犬や猫たちの食事管理はほぼ100%飼い主次第。手作り食、ペットフードのどちらを選んでも、飼い主による慎重な判断が動物たちの幸・不幸を左右することになるのではないだろうか。 

最後に聞いたDC one dishとしての将来の方向性に関して、岩切獣医師のコメントがとても印象的だった。

「現在のペットフード業界は、何が良いのかが分からない製品がたくさんあります。“数を打てば当たるだろう”という商売の仕方や流れを変えていきたい」と熱く語ってくれた。

岩切裕布(いわきり ゆう):獣医師/ペット栄養管理士、yourmother合同会社 代表

2011年に麻布大学獣医学部獣医学科を卒業。都内および神奈川県内の動物病院で臨床医として勤務。臨床医時代からペットの食に関しては課題を感じ、外資系大手療法食メーカーに勤務。在職中にDC one dishを立ち上げ、今年3周年を迎えた。

* 総合栄養食:必要な栄養基準を満たした毎日の主食で、他には水だけで健康を維持することができる

** AAFCO: 米国飼料検査官協会(The Association of American Feed Control Officials)の略。同団体のペットフードに関する栄養基準は世界でスタンダードとされている

《石川徹》

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