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社交性の高さと図太さを持った犬たちが、多くの人に前向きな力を…動物介在療法とは vol.2[インタビュー]

日本介助犬協会では、動物介在活動や動物介在療法にも力を入れている
  • 日本介助犬協会では、動物介在活動や動物介在療法にも力を入れている
  • DI犬の候補生としてスウェーデンからやってきたスタンダード・プードルのウィレム。インタビュー中もリラックスした様子
  • 日本介助犬協会の桑原亜矢子 訓練部主任

前回は、病気の治療に犬の力を借りる「動物介在療法」の概要を紹介した。今回は、それを支える仕組みと介在療法に適した犬の性格について、日本介助犬協会の桑原亜矢子・訓練部主任に聞いた。

患者だけでなく周囲の人にも前向きな力を

----:動物介在療法の最も大きな効果は何でしょうか? 前回のお話から、精神的なサポートがメインだと思いますが、犬は人間にどんな力を与えてくれるのでしょう

桑原亜矢子氏(以下、敬称略):どの患者さんも、犬といることで気持ちが明るく前向きになるのをすごく感じます。それに加えて、ご家族など患者さんに関わる方々や医療従事者も巻き込んで楽しく前向きな雰囲気が広がっていくんだと思います。

余命わずかな患者さんに寄り添うこともあります。すべてを諦めていたのに、ミカに会える日はお化粧をしたりお風呂に入ったりするようになった患者さんがいらしたそうです。ミカを抱きしめて、「本当に幸せ」とおっしゃった方もいたそうです。患者さんへの影響は、計り知れない大きさがあると感じます。

----:力をもらえるのは患者さんだけではないのですね。

桑原:(動物介在療法の場合)患者さん1人に対しては1回30分のセッションが基本ですが、その時間以外にも影響が及びます。犬と触れ合うことで、患者さんの看護師さんとの関係性や、お見舞いの方との会話にも前向きな変化が見られます。暗い気持ちになりがちなご家族なども含め、たくさんの方々に楽しい話題や癒しの時間、前向きな力をくれます。

----:現在、日本介助犬協会で動物介在療法にたずさわっている犬は何頭いるのですか?

桑原:「療法専門職」として医療関係者にお渡ししているのは2頭です。ミカが引退したので、聖マリアンナ医科大学病院(以下、聖マリアンナ)の勤務犬は甥にあたる「モリス」が引き継ぎました。「楓の丘こどもと女性のクリニック」(愛知県大府市)では、ラブラドールレトリバーの「ハチ」が去年の10月から「DI犬(= 介入犬、Dog Intervention)」として活動しています。

ほかにも、モリスの兄弟犬「モンティ」に適性がありそうなので、現在、箱根病院(国立病院機構 箱根病院;神奈川県小田原市)で待機しています。新型コロナの関係で一旦ストップしていますが、もともとの計画では彼も今頃は動物介在療法に活躍していたと思います。

----:モリスやハチの勤務日や時間は決まっているのですか?

桑原:病院のニーズに合わせて出勤します。モリスの場合、聖マリアンナに行くのは今のところ週2日です。ハチはハンドラーさんである看護師さんと一緒に出勤しますので、週5日です。患者さんに寄り添う仕事がない時は、職員さんと触れ合ったりしています。

日本介助犬協会と医療機関の現場による共同作業

----:トレーニングを終えて彼らが勤務を始めた後は、日本介助犬協会はどのように関わるのですか? 犬たちの面倒は誰が見ているのでしょうか。

桑原:日本介助犬協会の仕事は、まず犬の適性を見極めて必要な訓練を行うことです。また、依頼があった病院とは、動物介在療法ができる環境があるかどうかを確認したり、ハンドラー候補の方の適性などに関する検討を行ったりします。

犬を生かしながら最大限に守る、ハンドラーの養成も私たちが行います。ミカの場合はお医者さんと看護師さんの2人、モリスには2名の看護師さんがついています。ハチのハンドラーも看護師さんです。犬は貸与という形でハンドラーと共に暮らし、医療機関が日常の世話もします。私たちも引退までずっとフォローし、必要に応じてサポートします。

----:犬の適性と受け入れ側の態勢やニーズなどをマッチングさせるのは、介助犬の場合と同じですね

桑原:そうですね。ただ、医療機関で活躍するためには、病院全体が犬を導入する意義を理解することが大切です。聖マリアンナでは、熱意ある方々が全職員にアンケートを取るなどの活動をしてようやく導入に至りました。私たちも、動物介在活動で定期的に訪問して犬の効果を見ていただいたり、勉強会などでお話させていただいたりすることで環境づくりのお手伝いをします。

必要なのは、マイペースさと線の太さ

----:幅広い可能性をもつ動物介在療法ですが、ミカの様に誰にでもフレンドリーな性格であれば大丈夫でしょうか?

桑原:いつでも、どこでも、誰と一緒でもリラックスできる線の太さが重要です。人が好きな犬は少なくありません。でも、初対面の誰にでも撫でられたいとか一緒に遊びたいなど、積極的にかかわりを持ちたいという子は、実はそんなに多くないのです。ミカのような社交性の高さはもちろん必要です。

でもそれだけではなく、例えば、病院のベッドに寝ている患者さんの隣で、30分間ずっとリラックスしていられる性質が求められます。指示があれば短時間じっとしていられる犬はいますが、長時間付き合える犬はあまりいません。さらにこの間、犬自身が心からリラックスしてのんびりその場を楽しめていないと、患者さんにはそれが伝わります。

また、図太さも求められます。大学病院の場合は刺激が多いので、それに反応しないことも重要です。ですから、初対面の誰とでも親しくできる社交性の高さと、常にリラックスして楽しめる図太さ、この両方を備えた犬が動物介在療法には必要なのです。

----:リラックスして楽しめる性格といった意味では、やはり介助犬と似たところはありそうですね。

桑原:介助犬も社会参加する犬なので、人は好きですし、どこでもリラックスして寝られるようなマイペースな性格という面では同じですね。ただ、介助犬よりも、さらにマイペースかも知れません(笑)。介助犬は、使用者がお願いしたことをやってくれるように育成します。頼まれたことをやると「褒められてうれしい」という子たちです。

一方、動物介在介「活動」では、私たちが指示するのではなく、その子自身が望んでとる行動を待ちます。「ここに来て、お座りして。撫でられるまでじっとしてて」というスタイルでは犬がリラックスできません。自らの意思で、ある程度自由に動いてくれるような、マイペースで自分を持っていることが必要ですね。

----:そのマイペースぶりが、「結果として」人間が癒されることになるものを持っている犬でないと動物介在療法は難しいわけですね。

桑原:そうです。介助犬の場合は、「何をして欲しい?」と尋ねるようなところがあります。そこが大きな違いといえますね。


ミカのように稀な適性をもった犬、それを見つけて育成する日本介助犬協会、そして治療の一環に組み込んで迎える現場の医療従事者。桑原さんが、「計り知れない大きさがある」と語る犬たちの力を引き出しているのは、三者それぞれの努力と密接な協力関係のようだ。

次回は、犬たちのさらなる可能性を引き出す活動について紹介する。

桑原亜矢子:社会福祉法人 日本介助犬協会・訓練部主任
真に動物に寄り添える仕事に出会えず、一時、会社員として生活。TVで観たセラピー犬をきっかけに介助犬の存在を知り、当時数名で運営していたNPO法人(現、日本介助犬協会)にボランティアとして参加。その後、会社員を辞め職員に。老後は、キャンピングカーで犬と旅して暮らしたいと語る愛犬家。

《石川徹》

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