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「1頭の犬がこんなにもたくさんの人を笑顔にする、という発見があった」…動物介在療法とは vol.3 [インタビュー]

日本介助犬協会の桑原亜矢子 訓練部主任
  • 日本介助犬協会の桑原亜矢子 訓練部主任
  • 日本介助犬協会の桑原亜矢子 訓練部主任
  • 日本介助犬協会の桑原亜矢子 訓練部主任
  • 日本介助犬協会では、動物介在活動や動物介在療法にも力を入れている

これまで2回にわたり、犬の力を病気の治療に生かす「動物介在療法」について紹介した。最終回の今回は、この仕事のやりがいと今後の展望について、日本介助犬協会の桑原亜矢子・訓練部主任に聞いた。

犬たちの力に触れ、引き出すことができる仕事

----:動物介在療法を通して、犬たちが多くの人に前向きなエネルギーを与えてくれることを知りました。そんな力を持った犬たちが、「楽しみながらリラックスして」活躍する場がもっと増えるといいですね。

桑原亜矢子氏(以下敬称略):適性を持った犬は多くないですし、受け入れる医療機関も体制を整える必要があります。ですから、「次から次へ」というわけには行きません。でも、ミカをきっかけに楓の丘こどもと女性のクリニックや箱根病院とも提携することができました。また、川崎市の多摩病院や千葉リハビリテーションセンターとも、動物介在活動に取り組んでいます。今後、広がっていく可能性はあると思います。

----:そんな犬たちの育成、やりがいのあるお仕事ですね。

桑原:私たちは適性がある犬を見つけて訓練し、要請があれば医療従事者の方にハンドラー教育をするまでが仕事です。その犬と実際に医療の現場で働くのは病院のスタッフです。動物介在療法を取り入れれば、当然、仕事は増えると思います。それでも患者さんたちの気持ちに寄り添おうと思う方々がいらっしゃる病院は、本当にすごいなと思います。

----:とても意義のあるお仕事だと思いますが、ご苦労も多いのではないですか?

桑原:もともと動物に関わる仕事がしたいと思っていましたので、大変だと感じたことはありませんが…。しいて言えば、お話ししたような事情で、すべてのご依頼に応じることができないところでしょうか。ご縁があれば、すべてお応えしたいんですけど…。

----:では、一番やりがいを感じるのはどんな時ですか?

桑原:犬と触れ合う方々の笑顔にひかれて、今の仕事を始めました。介助犬はもちろん素晴らしいですが、「1頭の犬がこんなにたくさんの人を笑顔にするんだ!」というのは動物介在活動や動物介在療法に関わったからこその発見です。だから、「どんな時」というよりも、そこに関わっていられることがすごくありがたいです。

----:動物介在活動、動物介在療法そのものがやりがいというわけですね。

桑原:犬という存在は、本当に様々な形で人の心に癒しや力をくれます。聖マリアンナは、患者さんの最期に、ご家族がお見送りをする時まで犬を寄り添わせることもあります。寂しい気持ちはもちろんあると思いますが、ご家族は笑顔でお見送りすることもあるそうです。

犬の力を借りて、患者さんだけでなく周囲の方々にも、できるだけ良い形の思い出を残してあげたいという(病院の)思いの強さを感じます。特にお子さんにとっては、肉親や知人の最期の光景はその後の記憶に大きな影響を与えるそうです。犬たちの力に触れ、それを引き出すことができる仕事に巡り合えて幸せです。

「付添犬」という新たな取り組みも

----:今後、さらに犬たちの力を生かす取り組みもあると聞きました。

桑原:今年から「付添犬」の取り組みも始めました。虐待などにあったお子さんが、司法関係者や医療従事者による聞き取りを受ける際に犬が付き添います。被害者であるお子さんにとって、事情聴取の場で証言するというのは精神的な負担が大きいと思います。話をすることで、さらにトラウマを受けることがないよう、犬が近くで精神的にサポートします。

----:犬は私たち人間に、本当に色々な面で力を与えてくれますね。

桑原:「犬が寄り添うことで勇気づけられて証言できた」、というところに力を感じます。でも、それだけでなく、その子どものこれからの人生にも付添犬の記憶は良い形で残っていくと思います。たった1回、短時間でも、犬はたくさんの人生に良い形で関わることができる可能性があると感じます。

私たちも、ミカに出会っていなかったら動物介在活動や動物介在療法にここまで関わっていなかったと思います。また、聖マリアンナ医科大学病院の皆さんの熱い思いがなければ実現しませんでした。そうしたご縁に恵まれたことにも感謝したいです。これからも、たくさんの笑顔をプレゼントしてくれる犬たちと一緒に生活していきたいと思います。

それぞれの個性を尊重し、「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」

「1頭の犬がたくさんの人を笑顔にする」と桑原さんが言うように、動物たちは多くの人生に計り知れない力を与えてくれる。犬に限らず動物と暮らす一般の飼い主も、思い当たる経験は少なくないだろう。癒しを求めて動物を家族に迎えるケースは、世界中で増えているという。

色々な力を与えられている私たち人間には、当然、動物たちの幸せを守る責任がある。日本介助犬協会では、候補犬それぞれの個性が最も生かせる道を慎重に見極めて進路を決めている。もちろん介助犬になる犬はいるが、それ以外にも「PR犬」としてイベントでのデモンストレーションなどに活躍する犬もいる。付添犬になるケースもあれば、発達障害のお子さんのパートナーとして家庭で過ごす犬もいるそうだ。

いずれの場合も、まず、1頭1頭が幸せな「犬生」を送れる道を考える。その上で、人間の幸せにも繋がるようなマッチングを慎重に行っているそうだ。「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」と語る日本介助犬協会の姿勢は、そんなところにも表れているのだろう。私たち一般の飼い主も、日々、色々なものを与えてくれている動物たちそれぞれに、最も適した生活を提供できているかどうか、改めて考えてみたい。

桑原亜矢子:社会福祉法人 日本介助犬協会・訓練部主任
真に動物に寄り添える仕事に出会えず、一時、会社員として生活。TVで観たセラピー犬をきっかけに介助犬の存在を知り、当時数名で運営していたNPO法人(現、日本介助犬協会)にボランティアとして参加。その後、会社員を辞め職員に。老後は、キャンピングカーで犬と旅して暮らしたいと語る愛犬家。

《石川徹》

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