REANIMALではこれまで、「介助犬」について様々な角度から紹介し、手脚にハンデのある人をサポートする介助犬が果たす役割や育成の方法、病気の治療に犬の力を借りる「動物介在活動」や「動物介在療法」などについて、日本介助犬協会の専門家に話を聞いてきた。介助犬の活躍分野は幅広く、様々な形で私たち人間の生活に力を与えてくれている。
その一方で、その存在は十分に知られているとは言えない。同じ「補助犬」である盲導犬と比べると日本における介助犬の歴史は短く、第1号が誕生したのは1996年のこと。その後、「身体障害者補助犬法(平成十四年法律第四十九号、以下、法という)」が施行され、盲導犬、聴導犬と共に介助犬に法的な取り決めが成立したのは2002年に入ってからだ。
日本介助犬協会は、介助犬の育成や使用者のリハビリテーションに携わると同時に、介助犬の存在とその社会的な意義に対する認知向上のための活動にも取り組んでいる。愛知県長久手市の「介助犬総合訓練センター ~シンシアの丘~」では、一般向けの見学会を定期的に開催。その他にも日本各地でのデモンストレーションイベントや講演など、年間300件を超える広報活動を実施しているそうだ。(※現在、新型コロナウイルスの影響でオンラインでの開催や延期などの場合がある。詳細は同協会のウェブサイトを参照のこと)
今回は、日本介助犬協会 管理部広報グループの後藤優花 副主任に話を聞いた。
「決めたら突き進む」姿勢で夢見た仕事へ
----:まず、日本介助犬協会で働こうと思ったのはなぜですか?
後藤優花 副主任(以下、敬称略):実は、きっかけは盲導犬なんです。小学校高学年の頃、盲導犬に興味をもったのが最初です。介助犬は今でもあまり知られていませんが、当時はもっと認知されておらず、聞いたこともありませんでした。
私は体を動かすのが好きで、本を読むのが苦手なんです。でも、なぜか盲導犬の本だけはすごく集中して読めたのを覚えています。犬と人、両方がハッピーになる関係性に心を打たれて「私は絶対この世界に入るぞ!」と決めたんです。
----:きっかけは盲導犬なのですね。でも、犬とお仕事をされているわけですから、基本的な思いは小学生時代から変わっていないのですね。
後藤:はい。私は決めたら突き進むタイプで(笑)、 小学生ではありましたが、「どうしたら最短でそこにたどり着けるか」を考えて今に至るという感じです。
----:というと、中学卒業後すぐに動物関係の勉強を始めたのですか?
後藤:まず、人に関する勉強が大切だと思いました。福祉科がある高校に通って、人間の身体や福祉について学びました。卒業後に、犬を訓練する専門学校に入学しました。
楽しそうな犬たちとキラキラしていた先輩を見て決意
----:すごく計画的ですね! そんな中、盲導犬ではなく介助犬とはどこで出会ったのでしょうか。
後藤:通っていた専門学校が日本介助犬協会の法人会員なんです。私が愛知県出身という縁もあり、愛知県長久手市のシンシアの丘に実習に行くチャンスがありました。そこで見た光景で、「この協会に入る」と決めたんです。
----:「この協会」と思った光景はどんなものだったんですか?
後藤:犬たちが本当に楽しそうに訓練を受けていたのが印象的でした。それから、そこで犬に接している人たちもすごくキラキラして見えたんです。当時から研修生の制度があったので、試験を受けて、1年間研修生として犬や人、福祉について勉強して職員になりました。
----:小学生の頃に感動した「犬と人、両方がハッピーになる関係性」を目の当たりにしたわけですね。今は犬を訓練するお仕事でなく広報ご担当ですが、希望されたのですか?
後藤:元々は訓練に興味があったのですが、研修生時代、お休みの日に広報イベントのお手伝いに出かけることがありました。現場では、(介助犬が)まだまだ知られていないことを実感し広報にも興味を持ちました。一般社会を見てみても、同伴拒否は少なくないですし…。
介助犬をもっと知ってもらい、誰もが生活しやすい社会を目指す
----:介助犬を含む「補助犬」は、交通機関や公共施設、民間の商業施設や飲食店などに同伴できることが法で認められていますが、入店拒否などもあるんですね
後藤:はい。ただそれも、知られていないことが原因だと思います。悪意を持って入店を断る方はあまりいないはずです。「じゃあ、そこを伝えていく仕事をしよう」と思い、職員になってからはずっと広報の仕事をしています。
----:広報ご担当として、具体的にはどんなお仕事をされているのですか?
後藤:一言でいえば、介助犬を知ってもらうための活動です。イベントに出たり講演を行ったりして、介助犬について一般の方に知っていただく取り組みをしています。企業さん相手には、障害をお持ちの方や介助犬ユーザーさんの受け入れ対応などについてお話をすることもあります。
そうした活動を通して、介助犬ユーザーさんが生活しやすい社会を作っていくというのが1番の目的です。ユーザーさんが生活しやすい社会は、障がい者の方が生活しやすい社会です。障がい者の方が生活しやすい社会というのは、きっと誰もが生活しやすい社会だと思います。ですから、自分も含めて誰にでも関係のあることではないでしょうか。
また、介助犬育成事業の資金調達のために募金活動をしたり、支援のお願いにうかがったりするのも、私の役目です。できるだけ直接訪問し顔を合わせて、関係づくりに努めています。それから、InstagramやTwitter、YouTubeチャンネルなどを通した情報発信も行っています。
介助犬と共に広報活動に携わることで、誰もが生活しやすい社会づくりに貢献したいと後藤さんは語る。インタビュー中、力強いエネルギーを感じるとともに、優しい明るさがにじみ出ていたのがとても印象的だった。学生時代に訓練センターで彼女が見た先輩たちの「キラキラ」した姿というのも、そんな明るさを伴った力強さだったのだろうと想像できる。
次回は、そんなエネルギッシュな後藤さんにとってのやりがいや苦労、将来の夢などについて聞く。