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アメリカで狂犬病の野生動物に襲われる事故が多発…一方、日本では法改正の検討も必要ではないか

アメリカ全土に生息するボブキャット
  • アメリカ全土に生息するボブキャット
  • イエネコの倍ほどの大きさがあるという
  • 昨年ニュースにもなったサーバルキャットも特定動物
  • アメリカでは多くの地域でアライグマが生息
  • 世界の狂犬病発生地域と清浄国

アメリカのメディアが伝えたところによると、4月上旬にノースカロライナ州の住民が狂犬病を発症したボブキャットに襲われる事件があった。また、ニュージャージー州ではチワワがアライグマに噛まれてケガを負った。チワワの飼い主にも嚙みついたアライグマは、その後の検査で狂犬病の陽性が判明した。

アメリカ全土に生息する野生の肉食獣

見た目はイエネコに似ているボブキャットだが、時速50キロ近いスピードで走ることのできる俊敏な肉食動物である。ネコ科の「オオヤマネコ(Lynx)」に属する野生の猫で、ネズミやウサギ、リスなどの小動物を食べている。体重15キロ近くまで成長する個体もあり、小鹿などの大きな動物を捕食することもあるという。北米大陸に広く分布し、アメリカ国内だけでもおよそ100万頭が生息していると推測されている。

日本では環境省が「特定動物」に指定し、2020年6月1日より愛玩目的での飼育が禁止された。ちなみに特定動物のネコといえば、昨年6月に静岡県の飼育施設から逃げ出した「サーバルキャット」が記憶に新しい。ボブキャットとは異なる「サーバル(Leptailurus serval)」属ではあるが、サーバルキャットも同様に日本では特定動物に指定されている。

昨年ニュースにもなったサーバルキャットも特定動物昨年ニュースにもなったサーバルキャットも特定動物

自宅前で襲われた夫婦

ノースカロライナ州に暮らす52歳の女性が、このボブキャットに襲われたのは自宅前。20か所以上に傷を負ったが、一緒にいた夫が引き離して無事だったそうだ。この近辺ではボブキャットを見かけることはあるが、通常は人を避けて行動するという。

イエネコの倍ほどの大きさがあるというイエネコの倍ほどの大きさがあるという

夫妻を襲った個体は、捕獲後の検査で狂犬病に感染していたことが確認された。なお、二人は噛まれたケガの手当を受けた後、発症防止のため狂犬病ワクチンの接種を受け現在は回復しているそうだ。

別の州では犬と飼い主が被害

同じ4月の下旬には、ニュージャージー州モンマス郡(Monmouth County)でも狂犬病に関連する咬傷事故が起きた。自宅の裏庭にいたチワワが、侵入してきたアライグマに襲われ前脚を負傷した。動物管理局がこのアライグマを捕獲し検査したところ、狂犬病の陽性が確認されたという。

アメリカでは多くの地域でアライグマが生息アメリカでは多くの地域でアライグマが生息

チワワの飼い主も愛犬を助ける際にアライグマに噛まれたたため、狂犬病の発症を防ぐためにワクチン接種を受けた。また、犬も噛まれた傷の手当とともに狂犬病ワクチンの追加接種(ブースター)を念のため受けたという。幸い、こちらの事故も大事には至らず、飼い主、愛犬ともに回復しているそうだ。

アメリカでは発生が少なくない狂犬病

アメリカの新聞USA Todayによると、狂犬病発生の報告は「1年以上、この地域ではなかった」とのことである。逆に言えば、ボブキャットの事件が起こったノースカロライナ州のバーゴー(Burgaw)という町周辺では、数年前には狂犬病の発症例があったということだろう。

一方のニュージャージー州では、今回の事故があった地域でアライグマが2頭の犬と1匹の猫を襲ったことが最近報告されたという。このモンマス郡では、動物が狂犬病を発症した事例が昨年は22件あったそうだ。

日本は世界でも稀な「清浄国」

このように、アメリカでは現在でも少なからず発生していると言える狂犬病だが、日本では1957年の猫1匹以降、60年以上にわたって国内由来の発症例はない(海外で感染後に日本に帰国・入国したケースを除く)。農林水産省は現在、日本のほかアイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムを狂犬病の発生がない「清浄国(地域)」に指定している。

世界の狂犬病発生地域と清浄国世界の狂犬病発生地域と清浄国

一方、野生動物での発症が認められたアイルランド、スウェーデン、イギリス、ノルウェー、台湾が2012年から13年にかけて除外されており常にアップデートが行われている。

狂犬病予防の大切さ

発症してしまった場合、ほぼ100%死に至る狂犬病を未然に防ぐことが大切なのは言うまでもない。海外の流行地を訪れる場合には、事前のワクチン接種を行うことが推奨される。もし動物に噛まれた場合は、帰国時に空港などの検疫所(健康相談室)に申し出て、できるだけ早期にワクチン接種を行うための手配を行うことが重要だ。

日本では「狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)」(以下、法という)により、犬に年1回の狂犬病予防接種を受けさせることを飼い主に義務付けている。法の定めに関わらず、重大な感染症を予防することは当然の責任である。人間の命はもちろんのこと、愛犬を守るためにも必要なことだ。

アメリカよりも厳しい日本の法律と、ワクチン副反応のリスク

とは言え、年1回のワクチン接種に一切の例外も認められない法には疑問を感じる。詳しくは「狂犬病ワクチンについて考える」シリーズ(参考記事)で紹介しているが、日本ではワクチン接種が健康に悪影響を与えると考えられる状況でも法的な免除は認められない。一方、狂犬病感染の高いリスクが存在すると言えるアメリカでは、健康上の理由があればワクチン接種を免除する地域が増えている(参考記事)。

副反応リスクの最小化と効果的な感染症予防

副反応のリスクを考えれば、狂犬病に限らずワクチン接種の回数はできるだけ少なくするのが愛犬の健康と命を守るために望ましい。以前紹介したように、日本では狂犬病ワクチンの影響が否定できない状況で少なくとも20頭の犬が毎年死亡している。「1年に1回」が決められたのは第二次世界大戦終了直後。その間、獣医療や感染症の研究、薬の開発や動物の免疫に関する研究などは大幅に進んでいるだろう。

免疫レベルを調べる抗体検査や獣医師による健康チェックにより、ワクチン接種を法的に猶予、または免除することはできないのか。70年前に決められた「どんな個体にも1年に1回のワクチン接種」というルーティーンを、再検討しても良い時期に来ているのではないだろうか。

《石川徹》

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