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【“命の商品化”を考える vol.20】 動物愛護法の「数値基準」が6月1日から施行へ… 「解説書」を環境省が作成

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  • 環境省が作成中の数値基準に関する解説書
  • 「共通事項」と「個別事項」に分けるなど、使いやすさに工夫が見られる
  • ケージ等のサイズは細かく規定されている
  • 体長・体高の測り方も図で示されている
  • 昼の長さに関するデータも提供し適切な管理を求める

5月17日、環境省が第9回「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会(以下、検討会)」を開催した。この会議は、取扱業者による動物の適切な飼育・管理方法について、科学的知な見地から検討するものである。獣医療や畜産、法律などの分野から専門家が委員として参加している。

改正愛護法に基づき事業者に課せられる「基準順守義務」

「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月19日法律第39号)」(以下、改正愛護法)が2019年に成立し、昨年6月1日から愛護動物への虐待が厳罰化された。今年の6月には、生後8週を経過しない子犬の販売を禁止する「8週齢規制」が施行される(一部の例外あり)。また、改正愛護法には第21条に「基準遵守義務」が追加された。繁殖業者、競りあっせん業(ペットオークション)やペットショップを含むすべての動物取扱業者には、犬猫の飼育に関して環境省が省令で定める基準を守る義務が課せられる。

6月1日の施行に向けて、環境省が「解説書」を作成

俗に「数値規制」とよばれるこの環境省令も、8週齢規制とあわせて今年の6月1日から施行される。ケージサイズ、従業員1人あたりの飼育頭数上限や繁殖回数など、7分野にわたる詳細については、これまでに紹介してきた(詳細は「“命の商品化”を考える」シリーズを参照)ように、すでに決定している。今回の検討会では、数値規制のスムーズな運用のために環境省が作成中の解説書について、最終的な議論が行われた。

動物取扱業者と指導・監督を行う自治体、両方に向けた情報集

「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針(案)~守るべき基準のポイント~」と題した解説書は、「“命の商品化”を考える vol.18」で触れたように、守るべき数値や違反となる状態等を具体的に分かりやすくまとめている。また、劣悪な環境で動物を飼育する事業者を指導・監督する立場となる、自治体職員をサポートするツールとしても活用される。

環境省が作成中の数値基準に関する解説書環境省が作成中の数値基準に関する解説書

内容としては、数値規制で決められた以下の分野に関して1) チェックリスト、2) 基準の解説、3) 違反した場合の行政指導・行政処分といった3項目で主に構成されている。

1. 飼養施設・設備(ケージ等):サイズや構造など
2. 従業員数:1人が世話をする頭数の上限
3. 環境管理:温度・湿度、臭気、清潔さや光環境など
4. 疾病管理:けがや病気の予防、健康診断など
5. 展示・輸送:展示中の休息時間と輸送後の経過観察など
6. 繁殖:出産回数や出産年齢の上限、帝王切開、繁殖に適・不適の判断など
7. その他:被毛や爪などの状態、給水、1日3時間以上の運動、人との触れ合いの実施など

「共通事項」と「個別事項」に分けるなど、使いやすさに工夫が見られる「共通事項」と「個別事項」に分けるなど、使いやすさに工夫が見られる

簡潔で分かりやすいチェックリスト

「チェックリスト」は、それぞれの項目について基準を満たしていることを事業者自身が確認できるよう、簡潔にリスト化されている。これはまた、自治体による立ち入り調査の際も事業者の基準順守状態を確認するツールとして活用される。全事業者(繁殖や販売、ペットホテルなどの預かり業など)に当てはまる「共通事項」と、事業内容に応じて確認が必要な「個別事項」に分けられており、分かりやすさに配慮した構成となっている。

具体性を重視した基準の解説

「基準の解説」では、基準を満たす/満たさない状態について項目ごとに具体例が示されている。

ケージ等のサイズは細かく規定されているケージ等のサイズは細かく規定されている

例えばケージ等の大きさについては、動物の体長・体高ごとに最低限のサイズが一覧表になっている。また、体長・体高の測り方も図で示しており、個々の犬・猫に関して飼養スペースが十分か否かを客観的に判断することが可能だ。

体長・体高の測り方も図で示されている体長・体高の測り方も図で示されている

従業員数に関しては、週40時間勤務を1名とカウントすることが明記されている。パートタイム従業員の場合、1週間の総勤務時間を40で割った数字が人数とされる(例:20時間/週の場合は0.5人として計算)。なお、ペットショップ等で「接客のみに従事している販売員は、動物の飼養又は保管に従事する従業者には含めない」とも記されている。業者には毎月記録を残すことが求められており、動物のケアに携わる人数を確実に確保することが必要となる。

そのほか、照明を用いて昼夜の季節変化を人為的に変更してはならない旨の記載がある。雌猫は、日照時間が延びることで発情する特性がある。これを利用した過剰な出産を防止するため、適切な光の管理を義務付けたものだ。そのための目安として、東京都における「日長時間(昼の長さ)」データも提供されている。そのほか用語の定義、事業者が特に注意すべきポイントなども整理されており、実務において使いやすい解説書といえるだろう。

昼の長さに関するデータも提供し適切な管理を求める昼の長さに関するデータも提供し適切な管理を求める

さらに、それぞれの基準が定められた理由や背景となる考え方についても解説がある。単に数値規制を課すのではなく、事業者が趣旨を理解したうえで適切な飼養環境を整えられるよう配慮されていることは評価したい。

次回は、動物取扱業者を指導・監督することになる自治体の手続きについて、それを支援するための「行政指導・行政処分」のパートを紹介する。さらに、現在の数値規制に残されている少なくない課題と、今後に向けた提案についても触れる。

《石川徹》

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