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【“命の商品化”を考える vol.18】 動物愛護法の「数値規制」、経過措置への疑問と今後への期待

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  • 第1種動物取扱業の場合
  • 第2種動物取扱業の場合

前回は、2019年6月に公布された「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律」に関連して設けられた「飼養管理基準」について、そのポイントを紹介した。今回は、環境省令として公布された俗に言う「数値規制」について、その評価と今後の課題について考える。

多くの項目に設けられた猶予措置

前回紹介したように、数値規制が4月1日に公布され今年の6月1日に施行される。しかし、一部の項目には1年から最大4年の猶予期間が設けられた。

ケージや運動スペースのサイズおよび1日3時間以上の運動を確保することに関しては、遵守義務の施行が2022年6月からとされた。丸1年の延期である。

メスの交配年齢および出産回数の上限に関する規制も1年後ろ倒しされ、同じく2022年6月からの適用となった。この理由として、(令和3年6月からは)「マイクロチップの装着が義務化され、年齢の確認及び台帳による繁殖回数の確認に対する実効性を担保できる」(同資料)ためとある。しかしながら、省令の適用猶予とマイクロチップによる実効性の担保との間の関連性は不明だ。

従業員1人当たりが世話をする犬・猫の頭数上限規制は、段階的に導入されることになった。第一種動物取扱業者への完全な適用は2024年6月と、当初の予定から3年延長された形である。

第1種動物取扱業の場合

第二種動物取扱業者については、さらに1年後の2025年6月に完全適用となっている。つまり、今年の6月に数値規制が施行されるタイミングでは、一切の規制は課せられない。

第2種動物取扱業の場合

猶予措置は、事業者の事情と繁殖犬・猫への配慮とされる

この決定について環境省は、ペット業者の現状とそこで飼育されている犬猫の事情、両面に配慮したものと説明する。

飼育スペースに関する基準遵守義務の延長については、「ケージの更新等に一定の準備期間が必要」(同省資料より)な業者側の事情を経過措置の理由の1つとしている。また、飼育頭数上限や繁殖に関する経過措置は、ペット業者の事情だけを考慮しての判断ではないとする。同省によると、「基準の適用に伴う遺棄、殺処分、不適正飼養等を生じさせないよう、繁殖を引退した犬猫や保護犬猫の譲渡が促進される環境づくりを進める」ための期間が必要とある。

譲渡の促進、具体策については言及されず

つまり、数値規制により引退させることが必要となる繁殖犬・猫に対する配慮が、猶予期間を設けた理由としている。動物愛護に関する法律ではあるが、ペット業界の実情も踏まえた包括的な判断が必要という考え方が読み取れる。「行き場のなくなる犬猫たち」に適切な対応が必要なのは言うまでもない。ただし、数値規制の長期にわたる経過措置が設けられた一方で、「譲渡が促進される環境づくりを進める」ことに関しては、具体的な施策に関する言及が一切ないのが気がかりだ。

猶予措置に関する指摘と生体取扱業者の反発

より広い飼育場所の確保や新しいケージへの入れ替え、繁殖引退犬・猫への対応準備など、ある程度の時間が必要なのは事実だろう。一方で、こうした数値規制は「この1年、2年で始まったことではなく」(環境省・中央環境審議会動物愛護部会臨時委員・打越綾子成城大学法学部教授)、準備期間を理由に適用が遅れることには疑問の声も多い。少なくとも2012年以降たびたび数値規制に関する議論が行われており、「そのたびに自主努力、自主規制というふうに業界側が発言なさるのを信じようということで、ここまで来た」としている(同氏)。

これまでペット業者における飼育環境の改善が進まなかった現実に関しては、昨年10月に開催された「中央環境審議会動物愛護部会」で指導が不充分であったと環境省が責任の一部を認める発言をしている。そして、その反省が今回の数値規制につながったと同省は説明しているのだが…。

これまでは、「自治体がレッドカードを出しやすい明確な基準」(環境省資料より)の不在により、不適切な飼養を行う事業者に対して動物愛護の精神に沿った指導が十分にできなかったとのことだ。今回公布された飼養管理基準は「自治体がチェックしやすい統一的な考え方」(同)を明確化しており、「悪質な事業者を排除するため」(同)の具体的なツールとして作成された。

過去の問題は認めつつ、事業者の現状も踏まえて実効的な改善につなげていこうとするのが環境省の姿勢のようだ。これに対し、犬猫の競り斡旋業者団体である「ペットパーク流通協会」は全国商工団体連合会*の機関紙「全国商工新聞」で不満の意を表明し闘う姿勢を見せている。「上限規制、厳しすぎる」として、経過措置期間の3年間で「厳しい飼養管理規制の問題点を指摘し、省令の改善を求めたい」としている。

効果的に推進するため、その他の対策も準備

6月1日の施行に向けて、環境省では「基準の解説書(仮称)」を作成する。そこには、数値基準を満たす状態と満たさない状態に関する具体例などが分かりやすくまとめられるそうだ。例えば、犬種によって体のサイズが大幅に異なる犬については、代表的な品種ごとに飼育スペースを明確に規定するとしている。この解説書は、劣悪な環境で動物を飼育する事業者を指導・監督する自治体職員をサポートするツールとして活用される。

さらに、環境省には自治体向けの相談窓口が設置されるという。悪質な事業者に対する行政処分等に関するノウハウを提供することで、動物愛護の効果的な取り組みを推進していくとしている。法律面だけでなく、こうしたサポート体制の重要性にも言及されているのは評価できるだろう。  

この環境省令を考える最終回の次回は、より長期的な視点から動物愛護法の将来について積み残しとなっている課題について触れる。   

* 全国商工団体連合会:自営業者やフリーランス、小規模事業者などによる全国連合組織。略称は「全商連」

《石川徹》

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