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【“命の商品化”を考える vol.17】 動物愛護法の「数値規制」が正式決定…現状改善への一歩となるか

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  • 犬・猫の飼育スペースに関する数値基準

「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(以下、改正愛護法)」が2019年6月に公布された。改正愛護法には「基準遵守義務」が第21条*として追加され、業者が劣悪な環境で動物を取り扱うことを防止する基準が定められることになった。

「できる限り具体的なものでなければならない」とされた「飼養管理基準」は、環境省が主催する「中央環境審議会動物愛護部会」や「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」において獣医師や法律家などの専門家による検討が行われてきた。俗に「数値規制」と呼ばれるこの飼養管理基準を定めた環境省令が、4月1日に環境大臣より公布された。以前は2月中旬の発表が予定されており、何らかの調整に2か月近い時間を要したことがうかがえる。REANIMALでは、昨年の4月から議論の進捗を紹介してきたが、一旦、決着したことになる。

基本的には来年6月1日より施行となるこの数値規制について、今回は3回にわたって紹介する。初回は、公布された飼養管理基準のポイントを端的にまとめた。

省令の対象は犬猫を取り扱う事業者全般

対象となるのは「犬猫を取り扱う事業者全般」とされた。具体的には、ペットショップなどの販売業者や繁殖業者、保管業(ペットホテル等)、訓練業、ペットカフェなど展示・貸し出し業、競りあっせん業(オークション)などである。また、これら営利目的の「第一種動物取扱業者」だけでなく、保護・譲渡団体など非営利の「第二種動物取扱業者」にも適用される。

今年の6月1日施行、一部に猶予期間も

この数値規制は今年の6月1日に施行されるが、現在事業を営んでいる事業者には一部の項目に猶予期間が設けられた。ケージサイズなど犬・猫の生活スペースに関する規制適用は1年延期され、2022年6月からとされた。また、メスの交配年齢および出産回数の上限も2022年6月からの適用となった。さらに、従業員1人が世話をする犬・猫の頭数上限規制は、3~4年をかけて段階的に導入されることになった。

内容はこれまでの議論から大きな変更なし

基準の内容そのものは、これまで紹介してきたものから大きな変更はない。

1-1.飼育スペース:運動場を別に設ける場合のケージサイズは以下の通り
・犬:縦は体長の2倍、横は体長の1.5倍、高さは体高の2倍
・猫:縦は体長の2倍、横は体長の1.5倍、高さは体高の3倍で2段以上の構造とする

複数飼育の場合は縦・横のサイズに頭数を掛けて1頭あたりの床面積を確保する。高さは最も体高の高い個体の2倍とする。また、下記に規定されたサイズの運動スペース内で1日3時間以上、自由に運動できる状態におくことも義務化される。

1-2. 飼育スペース:ケージと運動場が一体化されている場合、スペースのサイズは以下の通り
・犬:床面積はケージの床面積の6倍を最小とし、2頭まで飼育が可能。3頭目以降は、1頭あたりケージの床面積の3倍にあたるスペースを追加する。高さはケージと同様に体高の2倍とする
・猫:床面積はケージの床面積の2倍、高さは体高の4倍で3段以上の構造とする。複数飼育の場合、1匹あたりのケージ床面積と同等の床面積を追加する。

犬・猫の飼育スペースに関する数値基準

なお、繁殖時に親子以外の個体を同居させること、金網を床材として使用することも禁止される。さらに、犬や猫のけがにつながる錆や割れ、破れ等の破損がない状態に保つことも義務化される。

2. 従業員1人が世話をする頭数の上限
・犬:繁殖犬15頭/人、販売犬20頭/人
・猫:繁殖猫25匹/人、販売猫30匹/人
親と同居の子犬・子猫や繁殖から引退した個体は頭数に含まない

3. そのほかの環境・健康管理
・飼育施設に温度計と湿度計を備え付け、動物の健康に支障が生じないよう環境を管理する
・臭気により飼育環境および周辺の生活環境を損なうことのないよう清潔を保つ
・自然光または照明によって季節変化に応じた光環境を維持する
・年1回以上、獣医師による健康診断を受けさせ、診断書を5年間保管する
・長時間展示する場合、休息できる設備に自由に移動できる状態を維持するか、6時間ごとに展示を行わない時間を設ける
・輸送後2日以上、状態を目視観察する(下痢、嘔吐、四肢の麻痺等外形上明らかなものに限る)

4. 繁殖
・犬:生涯出産回数は6回まで、交配時年齢は6歳以下とする。ただし、7歳に達した時点で出産回数が6回未満であることを証明できる場合は7歳まで交配可能
・猫:交配時年齢は6歳以下。ただし、7歳に達した時点で出産回数が10回未満であることを証明できる場合は7歳まで交配可能
・雌雄とも繁殖の適否に関して獣医師による診断を受け、不適な個体による繁殖は行わない
・帝王切開は獣医師が行い、出生証明書と母体の状態および今後の繁殖の適否に関する診断書の交付を受け5年間保存する

5. その他
・動物の健康や安全が損なわれる恐れがある状態を禁止する: 糞尿の被毛への固着、体表を覆うほどの毛玉、異常に伸びた爪など
・清潔な飲用水を常時確保する
・散歩や遊具を用いた活動など人間と触れ合う機会を毎日設ける

一定の評価と今後の課題

以上が公布された数値規制の主なポイントである。環境省は「劣悪な業者を排除する」ためと、この省令の目的を繰り返し説明している。最低限の取り決めとの印象は強いが、第一歩として具体的な基準ができたことは評価できるだろう。

一方で、動物福祉向上のためにはまだまだ改善点も多いとの意見も聞かれる。次回は、猶予措置を含め、この環境省令に関する評価と今後の課題について考察する。

* 改正愛護法第21条:「第一種動物取扱業者は、動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため、その取り扱う動物の管理の方法等に関し環境省令で定める基準を遵守しなければならない。(中略)基準は、できる限り具体的なものでなければならない。」

《石川徹》

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