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イギリスの動物愛護事情 vol.11…見た目だけで死刑判決を受ける犬たち

やせ細って保護された雑種の「ダンカン」
  • やせ細って保護された雑種の「ダンカン」
  • 「ピットブルタイプ」は危険な犬種とされる地域が多い(写真はイメージ)
  • 米国では「特定犬種規制法」が廃止される傾向にある(写真はイメージ)
  • 見た目の特徴だけで「危険な犬種」と判断される(写真はイメージ)
  • 放浪していた「ダンカン」はやせ細り感染症にもかかっていたという
  • 「子犬農場」などは英国政府も警告を鳴らす社会問題化している
  • ブルークロスのHP「ペットが人生を変えてくれる。私たちはペットたちの暮らしを変えましょう」

REANIMALでは「イギリスの動物愛護事情」をシリーズで紹介している。前回は、英国政府が発表した「動物福祉のための行動計画(以下、行動計画)」*1と、王立動物虐待防止協会(RSPCA)が発行した「いかなる動物も置き去りにしない(No Animal Left Behind)」と題したレポート(以下、レポート)を4回にわたって紹介した*2。レポートは50近い動物保護団体との協力によって作成されている。政府の行動計画とも方向性は一致しており、イギリスでは動物福祉の向上に各方面が一枚岩となって取り組んでいることがうかがえた。

しかしながら、動物福祉に限らず「理想郷」は存在しない。動物福祉先進国といえる同国だが、違法なキツネ狩りや「ハンティングトロフィー」など、独特な課題も少なくない*3。今回は、行動計画やレポートでは触れられていなかった問題を紹介する。

特定犬種規制法とは

「危険な犬種は存在するか?」と題して6回のシリーズで紹介したように(参考記事)、アメリカには「特定犬種規制法(BSL: Breed Specific Legislation)が存在する。州や地域によって異なるが、「ピットブルタイプ」を中心に特定の犬種を「危険な犬」と指定し、飼育に様々な制限を設けている。飼うことそのものが違法とされる地域もある。

「ピットブルタイプ」は危険な犬種とされる地域が多い(写真はイメージ)「ピットブルタイプ」は危険な犬種とされる地域が多い(写真はイメージ)

だがこのBSL、近年では科学的根拠や正確な統計データに欠けるとされ、効果が疑問視されている。アメリカでは、犬種でひとくくりにしない「犬種非特定規制(筆者訳、Breed Neutral Legislation: BNL)」に移行していると言われる。CDC(疾病予防管理センター)やアメリカ法曹協会、米国獣医師会、アメリカン・ケンネル・クラブ、合衆国司法省など多くの団体がBSLには否定的な立場を取っているそうだ。現在のアメリカでは、危険な「犬種」という考え方は科学的にもモラル的にも否定される傾向にある。

米国では「特定犬種規制法」が廃止される傾向にある(写真はイメージ)米国では「特定犬種規制法」が廃止される傾向にある(写真はイメージ)

イギリスにも存在する「危険な犬に関する法律」

アメリカでは否定され、廃止する州や地域が増えつつあるBSLだが、イギリスでは国の法律として存在する。「Dangerous Dogs Act (= 危険な犬に関する法律)」が1991年に施行され、繁殖、販売、譲渡や口輪とリードを着けずに自宅敷地外に連れ出すことが違法とされる犬種がある。基本的に、そうした犬は飼育自体も禁止されている。

同法の第1条では、「ピットブルテリア」と「土佐犬」が危険な犬種と指定されている。そのほかに、「闘犬のために繁殖された犬種、または、そうした犬種の特徴をもっていると思われる犬」と具体性に欠ける定義がされている。ミックス犬の場合、危険かどうかの判断は警察の「Status Dog Unit(SDU:ステータスドッグ課)*4 」の担当者が行う。両親の犬種、DNA検査、行動履歴などは一切関係なく、外見で判断されるという。

見た目の特徴だけで「危険な犬種」と判断される(写真はイメージ)見た目の特徴だけで「危険な犬種」と判断される(写真はイメージ)

見た目だけで死刑判決

これに反対する意見は少なくないようだ。RSPCAと並びイギリスでも特に歴史のある動物保護団体である「ブルークロス」(1887年設立)は、犬が危険な行動をとったかどうかではなく、「見た目だけで自動的に死刑判決を受けている」として疑問を呈している。

ブルークロスのHP「ペットが人生を変えてくれる。私たちはペットたちの暮らしを変えましょう」ブルークロスのHP「ペットが人生を変えてくれる。私たちはペットたちの暮らしを変えましょう」

また、「ピットブルに顕著な攻撃性は認められず」(参考記事)で紹介したように、イギリスの「王立獣医大学(RVC)」は科学的な研究の結果、ピットブルタイプが他の犬種よりも攻撃性があるとする根拠は認められなかったとしている。統計的にも、同法の効果には疑問があるとされている。犬に咬まれて病院で治療を受けた事故(=咬傷事故)件数のデータがある。1991年のDangerous Dogs Act 施行以前と2005年3月から2015年2月までの10年間で比較すると、施行後の方が8割近く多いという。

このように、科学的根拠と統計の両面から、同法の効果に疑問を呈する専門家が存在する。ブルークロスは、年間数千頭が「危険な犬」として殺処分されている現状に対し、「根拠も効果もない法律」の廃止を政府に求めている。

誰かの素晴らしい伴侶になったはずの「ダンカン」

2017年の冬、ブルークロスは町を放浪していた若いミックス犬を保護した。「ダンカン」と名付けられたその犬は、あばら骨がはっきり見えるほどやせ細り、ひどい感染症にもかかっていたそうだ。野犬を保護した場合、保護団体は地元のSDUへの報告義務がある。ダンカンは「危険な犬」として譲渡不可の判断が下され、同団体は殺処分する以外の選択肢がなかったという。

放浪していた「ダンカン」はやせ細り感染症にもかかっていたという放浪していた「ダンカン」はやせ細り感染症にもかかっていたという

「誰かの素晴らしい伴侶になったはずのダンカン」が、その見た目だけで危険と判断され、法律によって安楽死させなければならなかったと同団体は嘆く。

「穏やかな性格で行儀の良かったダンカンは、治療を受けた動物病院で触れ合うすべての人に愛されていました。基本的なコマンドも理解しており、さらに学ぶ意欲も示していました。 (譲渡が許されれば)彼に愛情をかけてくれる新しい家を、私たちは簡単に見つけることができたと思います…」

イギリスにもある「ダークサイド」

社交的で安全なペットになる気質をもっていると保護団体の専門家が判断しても、SDUに危険とみなされた犬は譲渡が禁止される。団体が飼い続けることもできず、行き場はないのだ。今日のイギリスでは、譲渡可能な犬が、その外見だけで安楽死させられているケースがある。動物福祉先進国のイメージが強いイギリスにも、「子犬農場」などの「ダークサイド」が存在することはこれまでも紹介しているが(参考記事)、Dangerous Dogs Actの運用状況には驚かされる。

「子犬農場」などは英国政府も警告を鳴らす社会問題化している「子犬農場」などは英国政府も警告を鳴らす社会問題化している

こうした状況を踏まえ、次回は日本における「特定犬」条例を紹介する。そのうえで、私たち飼い主が、大切な家族である愛犬たちを守るために意識すべきことについて考える。



*1:イギリス政府が動物の福祉と保護に関する行動計画を発表
*2:イギリスの動物愛護事情 vol.8…王立動物虐待防止協会が動物福祉の向上へ40の提言、「どんな動物も置き去りにしない」
*3:イギリスの動物愛護事情 vol.10…王立動物虐待防止協会の提言、 野生動物保護のために包括的な法整備を
*4:Status Dog:かつて「ある種」の人間が、タフなイメージの象徴として攻撃的な犬を飼育していたことから危険そうな外見の犬を総称して「ステータスドッグ」という

《石川徹》

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