動物のリアルを伝えるWebメディア

介助犬や元候補犬の“日常”を知る…「キャリアチェンジ犬交流会」開催

介助犬総合訓練センター前で笑顔を見せるキララろキース
  • 介助犬総合訓練センター前で笑顔を見せるキララろキース
  • 顎を指に乗せた姿勢を長くキープできるかを競うゲーム
  • 紅葉を楽しむ松山さんとサスケの写真も紹介された
  • 無防備な姿で寝るサスケに参加者から笑いが漏れる

日本では、2002年に「補助犬法(身体障害者補助犬法)」が施行された。盲導犬と聴導犬、介助犬の3種類は「補助犬」として、病院、飲食店、ホテルやスーパーマーケットなどの施設や交通機関に同伴することが認められている。

目や耳、手足に障害を持つ方々を支えるパートナーとして活躍しているが、「仕事」以外の横顔はあまり知られていない。今回は、「キャリアチェンジ犬」の交流会に参加して、元介助犬候補だった犬たちの幸せそうな姿を垣間見ることができた。また、ゲスト参加した介助犬ユーザーのコメントからは、精神面でのサポートという介助犬の別の側面についても知ることができた。

「キャリアチェンジ犬」とは

介助犬の育成に取り組む日本介助犬協会は、毎年「キャリアチェンジ犬交流会」を開催している。「キャリアチェンジ犬」とは、評価・訓練を受けたが介助犬にはならなかった犬たちのことである。候補犬たちは、生後1歳になるまでボランティア宅で伸び伸びと育てられる。その後は訓練を受けながら数カ月ごとに適性評価を行い、それぞれの犬に合った道に進んでいく。

介助犬への適性があると判断された場合は訓練が続けられるが、その場合も犬の特性に合わせて対応する。最長で2年ほどの訓練を受ける場合もあるが、最終的に介助犬になるのは全体の3割程度にとどまる。あとの7割ほどが、キャリアチェンジ(職務内容の変更)をする。

無理強いされない犬たち

ラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーであれば、全ての犬が介助犬や盲導犬になれるわけではない。犬にも心や個性がある。候補犬1頭1頭の適性を慎重に見極めたうえで、「その子」がハッピーになれる最適な進路を選択することに同協会は心を砕いている。イベントで介助犬の仕事を紹介するデモンストレーションを行う「PR犬」や、病院の小児病棟で子どもに勇気を与える「DI(ドッグ・インターベンション)犬」として活躍する犬もいる。

細心のマッチングを経て一般家庭へ

一般家庭での生活が向いていると判断された犬たちは、「キャリアチェンジ犬」として希望者に譲渡される。その場合も、受け入れる家族と犬の双方が幸せになるよう、相性を考えた「マッチング」を慎重に行う。今回の交流会は、主にこうした犬たちとその家族が参加した。そのほか、介助犬やPR犬としての仕事を終えた「引退犬」や介助犬候補の子犬たちを生むお母さん犬も、それぞれの家族と参加。きょうだいや親子の再会シーンも見られた。

顎を指に乗せた姿勢を長くキープできるかを競うゲーム顎を指に乗せた姿勢を長くキープできるかを競うゲーム

コロナ禍の影響でオンラインでの開催となったため、遠方からの参加もあり24頭とその家族が参加。自己紹介タイムやゲーム、日常のエピソード披露など2時間にわたって盛り上がった。

介助犬のサスケが変えた人生

ゲストとして現役の介助犬、「ちょっとゴールデンが入った、見た目はラブラドール」の「サスケ」(6歳)が岐阜県から参加した。パートナーの松山ゆかりさんは、脚に力を入れることができず、電動車いすを使用している。手の力もあまりないため、ドアの取っ手を掴んで開けることが難しいなどの苦労もあるという。

介助犬を迎えるまでは、ヘルパーと病院に行く以外に外出することは稀だったそうだ。「基本的にはひきこもりでした」と言う松山さんだが、10数年前に先代の介助犬を迎えたのをきっかけに生活が一変した。犬と「ふたり」だけで外出するようになり、半年後には新幹線で旅行に出かけたそうだ。

紅葉を楽しむ松山さんとサスケの写真も紹介された紅葉を楽しむ松山さんとサスケの写真も紹介された

最近は、近くの公園で行われるマルシェで子どもたちと交流するのがサスケにとっても楽しみになっているという。松山さんとサスケは、地元の小学校などで介助犬についての講演を行うなど積極的な啓発活動も行っている。「夫婦喧嘩の仲裁もしてくれます(笑)」とのことで、夫婦にとっても大切な家族の一員のようだ。

無防備な姿で寝るサスケに参加者から笑いが漏れる無防備な姿で寝るサスケに参加者から笑いが漏れる

至れり尽くせりな生活

松山さんは、朝起きるとまずサスケのトイレとご飯の世話をする。それ以外にも、ブラッシング、歯磨き、耳の状態チェックなどのケアを毎日欠かすことはない。月に1回のシャンプーは、トリミングサロンでプロにしてもらえるとのことだ。

「みなさんのワンちゃん(=一般の家庭犬)と変わらない生活なんですよ」と松山さんは言っていた。仰向けで昼寝をする姿の写真を見ると、多くのペットたち同様に至れり尽くせりな生活なのだろう。

短命ではない介助犬

「“働かされてかわいそう”と言われることもありますが、(介助犬たちは)少し色々なことができる犬なんです。それ以外は普通に生活しています。サスケは2代目ですが、先代の介助犬は13歳で今も元気にしています。決して短命なわけでもないんです」。交流会中も、松山さんにじゃれたり、床でのんびりしていたりするサスケの姿を見ると、決して“かわいそう”な生活でないことが理解できる。

情報交換に熱が入る飼い主とのんびり過ごす犬たち

続く懇親タイムでは、日常の健康管理などに関する活発な意見交換が行われた。足腰の衰えを防ぐため、バランスボールに前脚を乗せたトレーニングをさせている家族や、脚に負担がかからないよう体重管理には気を遣っているという飼い主がいた。また、耐荷重100kgの犬用バギーもあるなど、大型犬の飼い主交流会ならではの話題も出た。

そうしたやり取りが行われている間、思い思いの様子でくつろぐ24頭。飼い主にじゃれたり、家族に寄り添って寝たり、中には熟睡してゲームに参加できない犬もいた。参加した全ての犬たちが、ハッピーに暮らしている様子が微笑ましい。

去年と今年はコロナ禍の影響でオンラインでの開催となり、遠方からも参加できるメリットはあったが、来年は犬たちとその家族が直接触れ合えるイベントに戻ることを期待したい。

働く動物たち

10月1日現在、全国で861頭の盲導犬、61頭の聴導犬、57頭の介助犬が活躍している。厚生労働省の指定法人と認められた団体も、盲導犬関連だけで10を超える。警察犬や麻薬探知犬など、その他の使役犬も含めると数えきれない数の犬たちが人間を支えている。

介助犬や盲導犬などに対しては、その仕事が虐待だとする声も聞かれる。全ての犬たちが、日本介助犬協会の犬たちと同じように、理想的な環境で生活しているとは言い切れない。

これまでに取材した使役犬の育成団体では、訓練中から卒業後、引退後も犬たちが大切に扱われていることが理解できた。だが、どんな世界にも例外はある。今後も、人間をサポートしてくれる動物たちに関しては色々な角度から検証していきたい。盲導犬や介助犬だけでなく、麻薬探知犬や動植物検疫犬、警察犬や騎馬隊の馬などについても幅広く事実を探っていく。

《石川徹》

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top