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ホワイトタイガーが鹿肉をガリガリ!「屠体給餌」ってなに?…東武動物公園

においチェックするカーラ
  • においチェックするカーラ
  • ホワイトタイガーの屠体給餌(東武動物公園)
  • ホワイトタイガーのカーラ
  • ホワイトタイガーのシュガー
  • 東武動物公園 ネコ科他担当 北濱健太氏
  • 屋久鹿の屠体。頭や内臓が処理され、冷凍して届けられる
  • カーラの登場
  • カーラ

「屠体(とたい)給餌」という給餌方法をご存じだろうか。近年、この屠体給餌を行う動物園が増えている。埼玉県の東武動物公園ではネコ科の動物に実施しているという。今回、休園日を利用してホワイトタイガーの屠体給餌を行うというので、取材することにした。

屠体給餌とは、簡単に言えば動物の肉をそのまま与える食事方法だ。食べやすく刻んだり、他の食べ物と混ぜたりしない。野生下では、捕まえた獲物をその場で食べるわけで、これと同様な食事を飼育下でも(できるだけ)再現しようというものだ。

屠体給餌の目的と意味

東武動物公園では、2021年より屠体給餌を始めたという。一般に屠体給餌を実施するのには、2つの理由がある。一つは、増えた野生動物による農作物被害の対策。もう一つは肉食動物たちの健康管理、QOLの向上のためだ。

ホワイトタイガーの屠体給餌(東武動物公園)ホワイトタイガーの屠体給餌(東武動物公園)

捕食動物の絶滅・減少(屋久島には屋久鹿を捕食する動物がいない)と生活圏の減少によって、シカやイノシシの農作物への被害が深刻な問題となっている。農林水産省の報告では被害額は161億円にも達し、今も増え続けている。個体数が多い動物は駆除対象となっているが、その最終処分も課題だ。ジビエ肉(食肉)による消費に加え、屠体給餌も注目されている。

自然の肉もタンパク質、脂肪、ミネラルなどのバランスに優れた栄養食だ。毛皮や骨のついた肉は飼育下の動物たちの本能を呼び覚まし、ストレスを発散させる効果が期待できる。動物園の食事は栄養バランス、カロリー管理がされている。食べやすく刻んだりもするが、半面、動物たちにとっては刺激が少なく、食事へのモチベーションが下がることもある。

与えられるのは屋久鹿

東武動物公園に屠体給餌用の鹿肉を提供しているのは、屋久鹿ジビエ王国というジビエ肉を扱う専門事業者だ。同園が屠体給餌について考え始めたとき、偶然にもこの会社から提供のオファーがあったそうだ。相談すると、動物園の事情に理解を示し、屠体給餌用の処理も対応可能との返事を得た。すぐに協力をお願いすることになったという。

動物園側の希望は、屠体は骨格(頭骨以外)、毛皮、四肢、蹄などはそのままであること。ただし、血抜きされ頭と内臓が取り除かれ冷凍された状態とのことだ。血抜きや内臓除去は腐敗防止のため。頭はあまり食べるところがないという。

動物に与える前に殺菌のための加熱処理が行われる。同園 飼育係 ネコ科他担当の北濱健太氏によれば、これは「野生下ではその環境で生活する動物を捕食しますが、飼育下で異なる生息域・環境の動物の生肉を与えるとお腹を壊したり感染症の危険があります。内臓除去と殺菌処理は、過去にそういった事例が確認されているから」だという。

加熱処理は、高温(72度)だと1分くらいで殺菌消毒できるが、肉に火が通ってしまい堅くなったり新鮮さが損なわれてしまう。そのため、同園では「63度くらいの温度でゆっくり3~4時間かけて下処理を行う」(北濱氏)そうだ。これで赤身を残したまま殺菌もできる。

警戒しながら食べる様子は野生の姿さながら

取材日には1頭の屋久鹿の屠体が用意され、2頭のホワイトタイガー、カーラとシュガーに半分ずつ与えられた。

ホワイトタイガーのカーラホワイトタイガーのカーラ

鹿肉は展示スペースにそのまま置かれる。この状態で獣舎の扉が開けられるとトラが出てきて食事タイムとなる。最初はカーラの番だ。さっそく鹿肉の存在に気付き、駆け寄ってにおいチェックをする。だが、カメラの存在を気にしてか、一瞬警戒するそぶりを見せた。

しかし、すぐに肉をくわえて走り出した。お気に入りの場所に持っていって食べるためのようだ。すぐにかじりつくかと思ったが、最初は舌をつかって肉を舐め始めた。舐めるといってもネコ科の大型獣の舌なので、肉をしっかり削ぎ落している。しだいに骨ごとかじりだすようになった。最後は「ガリガリ」音をたてながら骨ごと鹿肉を堪能していた。

もう1頭のシュガーは、バックヤードのケージの中での食事となった。展示もそうだが、ほぼ単独で行動するトラは個別の展示や食事となるそうだ。食事の場所のせいか、性格のせいかシュガーの方が、食べながら何度も周囲を確認するため顔を上げたりしていた。ときおり口を開けて威嚇するような表情さえ見せていた。北濱氏によれば、特別な餌なので、誰かに盗られないか気にしているのだそうだ。

ホワイトタイガーのシュガーホワイトタイガーのシュガー

屠体給餌の効果

2頭とも肉を加えて走り回ったり、ジャンプしたりしてはしゃいでいるのがわかる。それだけ、嬉しい食事、食事に興奮しているということだ。

カーラカーラ

「普段の食事は5分くらいで終わってしまうが、屠体給餌だと1時間くらいかけてじっくり食事を楽しんでいます。骨もほとんど残らず、細かい毛皮の切れ端と蹄を残すくらいです」(北濱氏)

口をあけてまわりを警戒するシュガー口をあけてまわりを警戒するシュガー

ただ、ジビエ肉がふんだんに手に入るわけではなく、同園では月1回が屠体給餌の目安だそうだ。それも一度に全部のトラやライオンたちの分があるわけでもない。だが、野生下では毎日狩りが成功するわけではないので、数か月ごとの頻度もやむを得ないだろう。

ネコ科の大型猛獣たちは楽しみにしており、喜んでいるのがわかるほど、屠体給餌の効果は高いという。人間もトラも、食事の時間が楽しめるというのは健康で長生きするのための秘訣であることは変わりないようだ。

《中尾真二》

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