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犬との触れ合いから学ぶ思いやりの気持ち…「こども笑顔のラインプロジェクト」

「こども笑顔のラインプロジェクト」犬との触れ合い体験授業
  • 「こども笑顔のラインプロジェクト」犬との触れ合い体験授業
  • 向かって左が7倍速で動く時計
  • 写真を見せて「この犬は今、どんな気持ちだろう?」と問いかける
  • 側転の得意なダックス
  • ハンドラーの腹筋運動をサポート
  • 「犬の指は何本?」
  • 「人間と手のひらはどう違う?」
  • 家庭犬も色々な体験を通して人間社会での刺激に慣れる

低学年の児童を対象とした、犬との触れ合い体験授業が東京都内の小学校で行われた。「動物を介在した“人の教育”」に取り組んでいる、一般社団法人の「マナーニ」(東京都港区)が主催した。

子供と犬たち双方に学びのある授業

マナーニは2013年から、犬との触れ合いを通して命について考える「こども笑顔のラインプロジェクト」を実施している。その一環として、これまで全国の小学校で実施した体験授業は95校、6692児童にのぼる(2022年3月現在)。

45分間の授業は、犬の温かさや柔らかさに触れながら、相手を知ることの大切さを自ら学ぶように構成されている。「人と犬が共に学び合えることを大切に」としており、参加する犬たちも子供との触れ合いから学習できるよう、東京学芸大学と共同開発したプログラムには、動物に関わる様々な専門家が参画している

「人と犬が共に学び合えることを大切に」した授業「人と犬が共に学び合えることを大切に」した授業

また、同プロジェクトには、チョコレートやペットフードを扱うマースジャパンが2018年から協賛。命の大切さを学ぶことで、ペットを飼うことに対する責任や飼育マナーなどの意識向上に寄与し、ペットのためにより良い共生社会実現に貢献したいとしている。

自ら考える機会

今回は、6月14日と23日に2回ずつの授業が行われ、1、2年生の計4クラスが参加した。初日の4時間目には、30名の2年生を対象とした授業を実施。犬と触れ合う際には、相手の目線で考える大切さを最初に学ぶ。また、人間と犬では体の大きさや寿命に大きな違いがある一方、犬にも人間と同じように感情があることも分かりやすく伝えられた。

体のサイズ比較では違いが直感的に感じられるよう、人間の手をトイプードルから見た場合の巨大な模型などが用意された。また、犬の様々な表情を撮影した写真を使い、「この犬はどんな気持ちだろう?」と喜怒哀楽を考える時間も設けられていた。そのほか、7倍速で動く時計を使って犬の寿命をイメージさせるなど、座学においても自ら感じ、考えることを促す工夫が織り込まれていた。

向かって左が7倍速で動く時計向かって左が7倍速で動く時計

触れ合いから相手の立場に立つことを学ぶ

その後、ミニチュアダックスフント、ビーグル、ゴールデンレトリーバーとバーニーズマウンテンドッグといった、大きさも見た目も違う6頭が会場の体育館に入場。児童からは、「かわいい」「大きい」などと歓声が上がった。

触れ合いの前には、特技の披露を交えて犬たちの紹介が行われた。ジャンプや側転、ハンドラーの腹筋運動サポートなど様々なトリックを見ることができたが、これも犬1頭1頭に個性があることを学ぶための仕掛けだという。

ハンドラーの腹筋運動をサポートハンドラーの腹筋運動をサポート

触れ合いは5名ずつに分かれて行われ、鼻に触ったり脚の指を数えたりしながら人間と犬との違いや共通点を観察。相手をよく知ることが、仲良くなるための第一歩であることの気付きを誘導した。さらに、言葉に頼らないコミュニケーションには、相手の立場に立って気持ちを考えながら関係を構築することが重要だということを、犬たちとの遊びを通して体験していた。

「人間と手のひらはどう違う?」「人間と手のひらはどう違う?」

最後は、心臓の音が聞ける機械(心音拡声器)を使い、児童と犬の心音を聞き比べる。鼓動のパターンやスピードは違うが、人間も犬も同じ “命” だということが実感できたのが児童たちの反応から感じられた。マナーニは、 “触るだけでなく、音を聞いたり、においを嗅いだり、色々な感覚を使って相手を知る” ことも学んでほしいと言う。

人と動物、双方の幸せを創出

この後、体験授業で経験した出来事や感じた気持ちについて振り返り、命についての学びを深めるという。このプログラムでは、「言葉を話さない犬たちとの触れ合いを通じて、相手の気持ちを考える大切さに気付いてほしい」とマナーニは言う。犬種間、および人間と犬との間にある違いを知ることで、「みんな違って、みんないい」と同団体が表現する、個性の素晴らしさも学べる体験授業だろう。

触れ合いを通じて相手を思う気持ちを醸成触れ合いを通じて相手を思う気持ちを醸成

マナーニでプログラム開発主務を務める須崎大氏は、あえて一般家庭で生活しているペットの犬を参加させていると話す。「“プロのセラピー犬”なら、動き回らずじっとしていられます。吠えることもなく、ずっと静かに過ごせるでしょう。でも、普段出会う犬たちは、フレンドリーだったり怖がりだったり、ちょっと興奮することがあったりと様々です。そうした違いを体感してもらうためには、家庭犬との触れ合いが大切です」

マナーニのメンバーと「講師」の犬たちマナーニのメンバーと「講師」の犬たち

こうした場でたくさんの子供たちと触れ合うことで、犬にも学びがあるそうだ。人間にも、当然個性がある。色々な児童と出会うことで、犬たちの対応力も上がるだろう。彼らにとっても、人間社会での生活がストレスの少ないものになるメリットがある。 “human” と “animal” の造語だというマナーニの願いは、「人と動物の双方の幸せを創出すること」だという。

《石川徹》

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