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犬の「混合ワクチン」は年に1回で大丈夫? vol.2…副作用のリスクと安全な接種

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  • 筆者の愛犬たち

前回は、混合ワクチンのメリットと免疫持続期間(DOI)についてご紹介した。世界小動物獣医師会の「ワクチネーションガイドライングループ(VGG)」が発行しているガイドラインでは、混合ワクチン(コアワクチン)の効果は「最低3年」としている。

要するに、ジステンパーウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(2型)のワクチン接種は3年に一度で充分なのだ。ご紹介した通り、ワクチン接種、特にコアワクチンは死につながる病気の発症を防ぐという非常に大きなメリットがある。一方で、副反応(= 副作用)のリスクも否定できない。したがって、病気予防の効果を超えて必要以上に接種することは避けるべきではないだろうか?

副作用の例

平成24年の発表と少し古いデータであはるが、日本小動物獣医学会がこの副反応に関する調査を行っている。情報が正確に得られた1万620例のうち、1.25%(133件)で副反応が見られたとのことである。そのうち、元気または食欲の消失が117例、発熱が66例、アナフラキシー症状が1例。さらに、死亡例も1件報告されている。

このほかのリスクとして、痒みやじんましん、顔が腫れる「ムーンフェイス」などのアレルギー反応や、嘔吐、下痢なども挙げられている。重大なアナフラキシー症状の発生率は高くはないようであり、その他の症状は一過性とされてはいる。しかし、逆に言えば重篤な症状のリスクがゼロではない。また、軽微なものであっても身体的、精神的なストレスにつながる副作用は避けた方が安全なのは言うまでもない。

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抗体検査による過剰接種の防止

VGGは、「ワクチン接種を繰り返すことによって、個々の動物に“より高度の”免疫を誘導することは絶対に不可能」と明言している。つまり、免疫が機能している状態でさらにワクチン接種を行っても、病気の予防効果はまったく変わらないのである。では、愛犬が充分に抗体を持っているかどうかを知ることができるのか?

現在では、コアワクチンに分類されている3種類のウイルスに関して、免疫レベルを比較的簡単に調べることが可能である。少量の血液を採取して検査キットでチェックすることで、愛犬が持っている抗体=免疫のレベルが判明するため、ワクチン接種の必要性を正確に判断できる。結果を知らせてもらえるまでの時間は動物病院により異なるが、検査自体はごく短時間で終了する。

もちろん、抗体が充分でない場合にはワクチン接種が必要となり、追加費用がかかる。したがって、飼い主それぞれの判断による選択とはなるが、大切な家族の安全と効果的な健康管理には惜しくない投資ではないだろうか。なお、VGGは、「獣医師は製造業者の推奨事項からの逸脱(「適応外使用」)について飼い主から(書面で)インフォームドコンセントを得ることにより、ワクチンをガイドライン(つまり現在の科学的見解)に沿った方法で使用することができる」としている。つまり、ワクチン接種の頻度は獣医師と相談の上、飼い主が愛犬にとってベストな選択をすることができるのである。

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参考:ノンコアワクチン

ノンコアワクチンの場合、VGGは地理的要因やライフスタイルによるリスクに基づいて使用を判断すべきと推奨している。関連する疾患は、日本国内でも生活環境やライフスタイルによって罹患の可能性に違いがあるため、一概には言えない。

例えば、レプトスピラ感染症は、もともと亜熱帯地方に多い病気であり、日本では西日本地域で発生が報告されている一方、甲信越・東北地方ではほとんど発生していない。関東でもごく少数で、神奈川県では過去10年で3件が報告されているのみだそうだ。

250を超える種類の多い病原菌で、犬に関しても7種類が家畜伝染病予防法の届出伝染病に指定されている。しかし、どの地域でどの型が流行しているかの情報が不足しているとともに、混合ワクチンが対応していない3種類の型による発症が多いという報告もある。ワクチンは、予防する菌やウイルスとワクチンの型が一致しなければ効果はないため、レプトスピラワクチンにはあまり期待できないと言う獣医師もいる。(人間でも、インフルエンザA型のワクチンはB型に効果がないのと同様。)

また、いわゆる「ケンネルコフ」の原因の一つであるボルデテラ菌は、犬の咳や唾液などによる飛沫感染で拡大する。したがって、多くの犬が集まる場所や不衛生な飼育環境を避ける生活をしている場合、感染のリスクは低いと考えられる。

ノンコアワクチンの場合は、この様な要素を踏まえ、かかりつけの獣医師と相談の上で判断するのが安心だろう。なお、ノンコアワクチンはDOIが短いものが多く、継続的に効果を得るには年1回など高い頻度の接種が必要とされている。

具体例のご紹介

筆者は、5歳のミックス犬(チワワ×トイプードル、未避妊・メス)および3歳のトイプードル(未去勢・オス)と暮らしている。この2頭も年に一度、獣医師による抗体検査を行っている。

トイプードルは、過去2回(2年)のチェックで3つのウイルスすべてに充分な抗体を持っていることが判明したため、「お散歩デビュー」以降は一度も混合ワクチンを打っていない。ミックス犬の方は、2年前の抗体検査でジステンパーの抗体値が不足(アデノウイルスとパルボウイルスは陽性)していたため、混合ワクチン接種を行った。昨年のチェックでは3種類ともに陽性となり、注射は不要だった。

また、ノンコアワクチンについては、獣医師と相談の上、居住地域や住環境、およびライフスタイルなどから不要と判断している。これまでのところ、関連する健康上の問題は生じておらず、2頭とも元気で暮らしている。

筆者の愛犬たち筆者の愛犬たち

《石川徹》

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