動物のリアルを伝えるWebメディア

続・犬猫のワクチン接種について vol.1…犬のコアワクチン、「1年に1回」の必要はない

イメージ
  • イメージ
  • イメージ
  • 安田獣医科医院(東京都目黒区)の安田英巳獣医師
  • イメージ

以前REANIMALで紹介したように、世界小動物獣医師会(WSAVA)の「ワクチネーション・ガイドライン・グループ(VGG)」は、エビデンス(科学的根拠)に基づいて犬と猫用のワクチン接種に関するガイドラインを作成し、「ワクチンは不必要に接種すべきではない」としている。

そのガイドラインによると、犬に「コアワクチン」を接種する場合は「3年以上の間隔を空ける」とされている。それ以外の「ノンコア」ワクチンについては、居住地域やライフスタイルなどに合わせ、かかりつけの獣医師と相談することを勧めている。詳細は7月の記事にまとめた(シリーズvol.1)が、今回は専門家の意見も踏まえ改めて紹介する。

コアワクチンとノンコアワクチン

コアワクチンとは致死性の高い病気を引き起こすウイルスから守るためのもので、犬の場合はジステンパー、アデノウイルスおよびパルボウイルスによる感染症を予防するものである。これらのワクチンは居住地や飼い主のライフスタイルに関わらず、世界中で全ての犬への接種が推奨されている。ノンコアワクチンは、それ以外の比較的軽い病気に関連するものと考えて良いだろう。

そもそもワクチンとは?

人間やその他の動物向けと同様、ワクチンには毒性を弱めた生きたウイルスから作る「生ワクチン」や毒性を完全に無くした「不活化ワクチン」などのタイプがある。いずれの場合も、ウイルスに対する抗体(IgG抗体)を予め体内に作り、病気から身体を守る免疫を備えることで病気を予防する。犬のコアワクチンに関しては、1回の接種で基本的には3年以上抗体のレベル(抗体価)が持続することが分かっている。

東京・目黒にある安田獣医科医院の安田英巳獣医師によれば7~8年は十分な抗体価が持続するケースもあり、終生免疫がつくこともあるそうだ。ただし、いずれにしても血液中の抗体価はワクチン接種後の時間の経過と共に下がっていく。そのスピードには個体差があるため、コアワクチン再接種の要否を判断するためには獣医師による診断が必要である。

イメージイメージ

抗体検査による免疫力の確認が可能

前回のシリーズvol.2で紹介したように、犬のコアワクチンが防御する3種類のウイルスに対する抗体が体内に充分にあるかどうかは比較的手軽な検査で確認可能だ。ワクチン接種後、その効果が充分に出ているか否かを検査で確認し再接種の要否を判断できる。安田獣医師は、「例えば肝臓に問題が生じて薬を飲んだとします。その後は、検査で薬の効果を確認してから、それ以降の治療方針を判断するでしょう。抗体検査も医療行為としては同じ考え方です」と説明する。

年間1200頭から数頭へ

安田医院では現在、年1回の定期健康診断の一環として抗体検査を実施しているそうだ。以前、同医院では年間約1200頭(成犬)にコアワクチンを含む「混合ワクチン」接種を行っていたが、現在は「2頭いるかいないか」(安田獣医師)とのことである。過去には「とにかく1年に1回打っていれば病気を防げる」(同)と続けてきた混合ワクチン接種だが、2004年に抗体チェックキットの存在を知って考えを変えたそうだ。

十分な抗体があれば予防注射は不要

体内に抗体があれば、ワクチン接種で体内に入れたウイルスは免疫反応によって無効になってしまう。また、「いくら頑張ってもテストで100点を越えられないように」(安田獣医師)、免疫もある程度以上に強化されることはない。「ワクチン接種を繰り返すことによって、個々の動物に“より高度の”免疫を誘導することは絶対に不可能」とVGGも明言しているように、免疫が機能している状態でさらにワクチン接種を行っても病気の予防効果はまったく変わらないのである。

現在のコアワクチンに関する世界標準はシンプルで、「抗体が充分になければ打つ、あれば打たない」という考えだそうだ。また以前に紹介したように、稀ではあるがコアワクチンに限らず予防注射には副作用が生じるリスクもある。したがって、不要なリスクや愛犬のストレスを避けるためにも、ワクチン接種は抗体検査を行った上で必要かそうでないかの判断をするのが安心と言える。

世間の認識を変えていくのは獣医師の役目

とはいえ、ホテル、トリミングサロンやドッグランなどの施設では、「最低〇種以上の混合ワクチン」を1年以内に接種している証明書を求められるケースが多い。そうした相談が患者(飼い主)から入った場合、安田医院では直接電話などでの説明を行っているそうだ。

「1年以内の混合ワクチン接種証明が要求される施設は多いですが、過去、その考えを作ったのは獣医師です。ですから、現状を変えていくのも獣医師の役目です。一方で、『毎年打つもの』と動物病院等で言われてきたため、ドッグランなどの運営者だけでなく飼い主さんも多くがそう信じています。社会の考えを変えていくのは獣医師の仕事ですが、同時に、飼い主さんからも獣医師に(抗体検査を)要望していって欲しいと思います」(安田獣医師)

安田獣医科医院(東京都目黒区)の安田英巳獣医師安田獣医科医院(東京都目黒区)の安田英巳獣医師

「ノンコアワクチン」はケースバイケースで

なお、「ノンコアワクチン」については、以前vol.2で紹介したようにケースバイケースでの判断が望ましい。例えばレプトスピラ感染症は居住地や飼い主のライフスタイルなどにより、罹患するリスクや感染しやすい菌の種類が異なる。また、ノンコアワクチンは免疫持続期間も短いため、かかりつけの獣医師との相談の上、必要に応じた種類の予防接種を適切なタイミングで行うことが愛犬の健康を守るために重要となる。

《石川徹》

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top