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命を生み出す行為「ブリーディング」を考える vol.2 …イギリスにおける「犬種標準」と犬の健康

一般的なシェパード(画像はイメージ)
  • 一般的なシェパード(画像はイメージ)
  • トレンドとなっていた背中の傾斜(画像はイメージ)
  • RSPCAは王立動物虐待防止協会の略称
  • ペキニーズの「ブリードウォッチ」のカテゴリー3に分類(画像はイメージ)
  • 猟犬を伴なったハンティング(画像はイメージ)
  • ローデシアンリッジバック
  • 「マール」カラーのシェルティ

前回、イギリスの関係者が同国内におけるブリーディングには「依然として課題が多い」と語ったことについて触れた。今回は、その課題と世界的な「犬種標準」について紹介する。

100年以上続くドッグショーが批判の的に

前回紹介した「Crufts(クラフツ)」は、100年以上の歴史を誇るイギリスのドッグコンテストである。2016年には、このクラフツがイギリス国内で批判にさらされた。

一般的なシェパード(画像はイメージです)

「犬種の中のベスト(Best of Breed)」に選ばれたメスのジャーマンシェパード(以下、シェパード)が、極端なブリーディングによって身体的な障害を負っている可能性が指摘されたのだ。近年、シェパードは首から尾に向けて背中が傾斜する体型が好まれているらしい。優勝した3歳のシェパードは、この傾斜があまりにも極端で後肢を正常に動かすことができず、歩き方に異常をきたしているとのコメントが相次いだそうだ。

トレンドとなっていた背中の傾斜(画像はイメージで本文との関係は無い)

王立動物虐待防止協会も懸念を表明

「ブリーディングによる遺伝的な原因により、背中と脚に問題を抱えているように見える。(中略)また、(歩行時に)前脚と後ろ脚の動きが均等でなく明らかにふらつきが見られる」と、イギリスの大衆紙「デイリーメール」が当時伝えている。一般には高級紙に分類される「インディペンデント」も、「自由に動くことが出来ない状態(の犬)がベストに選ばれたことは非常に衝撃的」とする王立動物虐待防止協会(RSPCA)のコメントを紹介している。

RSPCAはさらに、「クラフツに出場した多くの犬が(ブリーディングによる)極端な身体的形状によって健康状態に問題を抱えている様子を見せていた」とも語っている。「トイグループ」で優勝したペキニーズも呼吸器系の問題により息をするのにも苦労していたとして、ブリーディングの犬種標準規定およびドッグショーにおける判定基準を「緊急に見直す必要がある」と強い懸念を表明したとされている。(同年3月14日付け「インディペンデント」)

RSPCAは王立動物虐待防止協会の略称

数々の受賞歴を誇るシェパードの映像を削除

このシェパードは、ほかにもイギリスの畜犬団体「ザ・ケネルクラブ(The Kennel Club)」が関係するドッグショーで7つの賞を受けており、クラフツにおける優勝は例外的な出来事でなかったことが判明している。飼い主によれば、当該犬は獣医師によるチェックも複数回受けており、健康上の問題は指摘されていなかったそうだ。しかしながら専門家を含む多くの批判を受けたザ・ケネルクラブは、公式YouTubeチャンネルから当該犬の動画を削除するとともに、シェパードの健康を改善するための施策について検討するとしたという。

適正な繁殖と審査のための「ブリ―ド・ウオッチ」

同クラブには、「ブリード・ウオッチ(直訳:犬種監視)」というシステムがある。これは、シェパードに限らず犬の健康を害すような極端な身体的形状をもたらすブリーディングを防止するためのガイドラインである。ブリーダーやドッグショーの審査員などに向けて犬種ごとの懸念点をまとめており、必要に応じて改訂が行われているそうだ。

現在は、シェパードのほかパグやブルドッグ、ペキニーズなど9犬種が健康上の問題を抱える傾向にあるとして、最も注意を要する「カテゴリー3」に分類されている。詳細は割愛するが、これらの犬種に関しては鼻および鼻孔、口および歯、皮膚と皺、目、体重および身体の状態、尻尾、脚とその動きに関する注意事項が記載されている。ザ・ケネルクラブはこの騒ぎ以降、より一層こうしたポイントに注意するよう審査員の知識と意識の向上も図っているようだ。

ペキニーズの「ブリードウォッチ」のカテゴリー3に分類(画像はイメージで本文との関係は無い)

「犬種標準」 vs 犬の健康

犬に遺伝的疾患が多く発生しているのはイギリスや日本に限らない。『純血種という病』*という本ではニューヨーク在住のジャーナリスト、マイケル・ブランド―氏が警鐘を鳴らしている。

「疑問の余地はもうまったく残されていない。長年疑われていたとおり、犬種の特徴が際立つようなブリーディングが、犬たちに様々な苦痛を与えていることは、数々の研究の結果から明らかだ。」

こうした状況を考えると、ブリーダーからしばしば聞かれる「犬種を守る」ということの意義についても改めて検討すべきではないかと感じる。歴史的には「ガンドッグ(Gun Dog) = 猟犬」や牧羊犬など生活上の必要性から「創られ」てきた犬種も多い。現在も警察犬や災害救助犬、身体障碍者補助犬など必要な所で働く様々な「使役犬」が存在する。一方で、現代社会において一般の飼い主が家族の一員として共に暮らす場合、そうした特別に強化された能力は基本的に不要となる。

猟犬を伴なったハンティング(画像はイメージで本文との関係は無い)

「犬種標準」:疾患のリスクを抱える一方で健康体でも「標準」外は殺処分

特に、FCI(世界畜犬連盟)やザ・ケネルクラブなど世界中の畜犬団体が定める「犬種標準」については、犬の福祉の観点から見直す必要を感じる。人間が決めた「標準」の定義には、身体の大きさや体型などだけでなく、目や耳、頭蓋骨などの「形」を含め単純な「見た目」に関しても非常に細かく定められている。

例えば「ローデシアン・リッジバック」**という犬種は、被毛の一部が盛り上がったラインが背中にあることが絶対条件とされている。これを「リッジ」と呼び、英語で「尾根」や「(細長い)隆起部」などを意味する。BBCのドキュメンタリーでは、リッジを持たずに生まれた健康な子犬がブリーダーによって殺処分される場合があることも報じられていた。一部の人間が作った「標準」に合わないというだけの理由で、である。

ローデシアンリッジバック

逆に遺伝的疾患のリスクが明らかでも「標準」と認められているケースがある。例えばダックスフントやシェットランド・シープドッグなどいくつかの犬種に見られる、グレーもしくはレッドに大理石模様に似た濃淡がある毛色である。

「マール」カラーのシェルティ

次回は生まれつきの疾患に繋がり得る遺伝子変異がありながら、「標準」と認められている「マール」と呼ばれる色について紹介するとともに、日本における繁殖の問題について触れる。

* 『純血種という病』:原題 "A Matter of Breeding" (2019) Michael Brandow; 夏目大(翻訳)、白揚社

** ローデシアン・リッジバック:「…この犬種の特徴は背中のリッジであり、これは被毛が逆方向に伸びることによって形成される。リッジはこの犬種の紋章である。リッジは明瞭でなくてはならず、左右対称で、尻に向かって先細りになる。肩のちょうど後ろから始まり、寛骨の辺りまで続いていく。リッジは2つのクラウンを有し、同一で正反対に位置する。クラウンの下端はリッジ全体の長さの3分の1以上に伸びてはならない。リッジの平均的な幅は5cmである。」(一般社団法人ジャパンケネルクラブHPより)

(※犬の画像はイメージであり、本記事との関係性はありません)

《石川徹》

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