2021年の話題の1つに、「ウマ娘」のブレイクがある。スマートフォンなどの携帯端末でプレイする、いわゆる育成ゲームを軸とした「ウマ娘 プリティーダービー」というメディアミックスコンテンツだ。このウマ娘が、意外なところでも活躍した。引退後の「競走馬」を支援する団体が行った元ダービー馬「ナイスネイチャ」のバースデードネーションに、目標金額の10倍を超える3600万円近い募金が集まった。
「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」の改正などによって、少しずつではあるが、動物の命に対する考え方は変化している。しかし、そうした取り組みの多くは愛玩動物に集中している。今後は、実験動物や産業動物たちの命についても議論されるべきだろう。このシリーズでは、競走馬という存在について考えた。
競走馬の引退後、その命を支える活動 vol.1 …毎年5000頭ともいわれる引退馬たちのその後は?
日本では毎年7000頭ほどのサラブレッドが生まれ、そのうち約5000頭が日本中央競馬会(JRA)に登録される。同時に、ほぼ同数の馬たちがJRAの登録を抹消されている。ほとんどの場合、その後の消息は不明だという。そんな馬たちに、幸せな余生を過ごして欲しいと願い30年以上にわたって活動しているのが「引退馬協会」だ。競走馬の引退後、その命を支える活動 vol.2…共同里親制度や乗馬などへの転向で「第二の馬生」を支援
引退馬協会の柱は、1頭の馬をたくさんの人で支える共同里親システムの「フォスターペアレント制度」である。サポートを受ける「フォスターホース」たちも、養われるだけでなく、里親たちが馬に対する知識や理解を深めるための仕事に携わっている。また、引退後に再訓練を行い活躍先を探す「再就職支援」にも力を入れている。競走馬の引退後、その命を支える活動 vol.3 …「生きているだけで誰かの役に立つ」、触れ合いの機会も大切に[インタビュー]
引退馬協会の沼田恭子代表理事に話を聞いた。これまでの活動や経験談などを通し、引退馬支援に抱く思いを紹介しながら、動物福祉についても考えた。牧場経営の事情で馬を業者に引き取ってもらった時、「役に立たない馬がいてもいいんじゃないかな?」と思ったのが協会設立のきっかけだという。競走馬の引退後、その命を支える活動 vol.4 …「いらない」と言われる引退馬に道を見つける難しさ[インタビュー]
地道な活動は30年を超え、現在は様々な形で95頭を見守っている引退馬協会。競走馬として生きてきた馬を乗馬用に訓練するのは難しく、「再就職先」を探すのも簡単ではないそうだ。適切な譲渡先もすぐに見つかるわけではない。ただ、JRAが一部で助成金の交付を始めるなど、少しずつ引退馬に関する意識が変わってきたのを感じるという。競走馬の引退後、その命を支える活動 vol. 5 …多くの人に知ってもらい、新たな活躍の場を[インタビュー
引き続き、できるだけ多くの人に馬のすばらしさに触れてもらう機会を作っていきたいという沼田代表。セラピーホースなど、馬の新しい仕事を見つける活動にも力を入れたいそうだ。「馬は1頭1頭、色々な能力を持っています。そうした貴重な力を持つ馬たちすべてが活かされる道ができればな、と思います」と語る。
引退馬協会が掲げるモットーは、「人と馬のハッピーライフをめざして」。動物だけでなく、人間だけでなく、双方が幸せになれる環境をめざすのが動物福祉の真の向上につながるだろう。引退馬協会の姿勢で特に印象的だったのは、引退馬の行く末に関するネガティブな面を訴えるのではなく、馬の魅力を伝えることに集中する努力である。「魅力を知ってもらうことで、馬たちの行き場が1つでも増えるように」、という考え方は、他の動物福祉向上に向けた取り組みにも大いに参考になるのではないだろうか。