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【動物に会える映画 vol.15】共に生きる動物たちと出会える物語 3選

『ストレイ 犬が見た世界』© 2020 THIS WAS ARGOS, LLC
  • 『ストレイ 犬が見た世界』© 2020 THIS WAS ARGOS, LLC
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  • 『ストレイ 犬が見た世界』© 2020 THIS WAS ARGOS, LLC
  • 『ツユクサ』©2022「ツユクサ」製作委員会

「動物は、もっとも身近にある自然」とよく言われます。人間は、自分たちが自然との関わりを失わないように、彼らと寄り添おうとするのかもしれません。ともに生きてくれる動物たちの存在に救われながら、時に翻弄されていたりして。そろそろ、私たちは動物とこの世界をシェアしている、という明確な意識改革が必要なのかもしれません。今回は、動物との距離について、ちょっと考えたくなる3作をご紹介します。

『ストレイ 犬が見た世界』

『ストレイ 犬が見た世界』© 2020 THIS WAS ARGOS, LLC『ストレイ 犬が見た世界』© 2020 THIS WAS ARGOS, LLC

1本目は、『ストレイ 犬が見た世界』。2018年から2019年にかけて、イスタンブールとトルコ各地で撮影されたドキュメンタリーです。犬を扱った記録映画は数多くありますが、本作がユニークなのは、ほぼ全編犬目線のローアングルで撮影されているところ。

かつて行政による野犬の大量駆除が行われ、市民からの猛烈な抗議により、野犬の捕獲や殺処分が禁止されたトルコのイスタンブール*。市民が選んだのは、保護して、里親を探してという活動よりも、完全なる共存でした。つまり、誰にも所有されていない自由な犬が街中を闊歩(かっぽ)しているのです。子ども連れが通る繁華街にも犬。夜、バーの前にも犬。多くの人が寛ぐ芝生の広場にも犬。むしろ本作の視点では、犬のいる世界に人間もいる、という感じなのです。

多くの人は、彼らの存在を当たり前に受け止めていて、“他人と行き交う”程度のごく自然なすれ違い方をしています。もちろん、名前を付けて頭をなでたり、ご飯をあげたりする人もいて、それぞれの距離感で接しているのが興味深い部分。中でも印象的なのは、シリアからやってきた難民の子どもたちです。住むところがなく、寝るのは近く取り壊される予定の廃墟。そこで犬たちと寄り添って眠るのです。自分たちも食べるのに困っているにも関わらず、食事の配給があれば野犬と分け合います。まるで、何かにすがるように、野犬が産んだ子犬を求める場面も映し出され、やはり動物は究極の心の拠り所になり得るのだと感じました。

ローアングルで人間社会を見ていると、難民問題をはじめ、人間たちの抱える複雑な問題も浮き彫りに。“Stray”とは、道に迷う、ふらふらするという意味ですが、犬はあくまでも彼の世界を闊歩しています。迷っているのは、人間たちなのかもしれません。犬視点で、新しい世界を見せてくれる作品です。

『ツユクサ』

『ツユクサ』©2022「ツユクサ」製作委員会『ツユクサ』©2022「ツユクサ」製作委員会

『ツユクサ』は、日常に潜む大小の奇跡を描きながら、傷ついた大人たちが再び愛を取り戻していく様を描いた人間ドラマ。小さな海沿いの町で暮らす芙美は、タオル工場の同僚たちと友情を育みながら、穏やかに過ごしています。

ある日、宇宙から飛んできた隕石に車がぶつかるというハプニングが。年の離れた小学生の友人・航平は、1億分の1の確率なのだと興奮気味。それでも、日常は淡々と続いていました。そんな折、篠田という男性と知り合います。ともに一人暮らしの二人は、実は辛い過去を持つ者同士。互いの傷に触れないようにしながらも、おそるおそる距離を縮めていくのですが…。

劇中、芙美の切ない過去がちらりとのぞくワンシーンで、存在感を放っているのが、ブルーのインコ。内緒の恋をしている友人から、インコが「ジュンイチロウさん、愛してる!」と恋人の名を連呼してしまうので、妹夫婦が遊びに来ている間は、預かってほしいと託されるのです。でも、預かった芙美は、酔っ払って別の人の名前を呼び続けてしまい…という具合。その結果、空気を読まない鳥の可愛い習性により、ちょっとした騒動が巻き起こります。

辛い過去と絡んだエピソードにしては、かなり微笑ましいこのシーン。辛い傷を背負った人生だって、悲劇だけに彩られているわけじゃない。本作は制作者の大きな愛が詰まった人生賛歌なのだと感じられる、素敵な場面の一つでした。そして動物は、どんな人生にも寄り添ってくれる素晴らしいパートナーなのだと、つくづく感じたのでした。

『ねこ物件』

『ねこ物件』©2022「ねこ物件」製作委員会『ねこ物件』©2022「ねこ物件」製作委員会

最後は、映画ではありませんが、4月からスタートするドラマをご紹介します。猫好きにはたまらない、その名も『ねこ物件』。亡き祖父と猫2匹とともに暮らした民家で、シェアハウス「★★(二星)ハイツ」を運営することになった二星優斗が主人公です。生活のために部屋を貸し出すことにしたものの、彼は人付き合いが苦手。そこで共生のための七箇条を定め、それに同意できる人だけを募集することに。とはいえ、最終的に入居者を決めるのは猫たちなのですが。なぜなら、「犬は飼えるけれど、猫の場合は、猫が人間を飼うから」だそう。確かに、私の知り合いにも猫がご主人様という人間が数人いますので、納得です。

そんなハイツには次々に、入居希望者がやって来るのですが、猫審査を無事に通過するのは、なかなか難しそう。合格するのはいったいどんな人たちなのか、そして一体何が決め手になるのかも見所です。

毎回、入居者面談の過程で、優斗は祖父から教えられた「猫にまつわる心得」を思い出します。そして、「猫を嫌う人には気をつけろ」「猫は同意のない変化を嫌う」といった祖父直伝の心得は、人と接する上で大切にすべきことでもあると気づきます。「猫だったらどうするか」「猫はどうしてそうするのか」と問うたびに、相手を理解する努力の大切さや、「違い」に敬意を払うことの意味、それを経てこそ共存できるのだという社会の真理を、学んでいく優斗。彼の変化を見ていると、生き物としてしなやかに生きるために、猫から学ぶところは多いのだと感じました。

ご存じの通り、猫付き物件は現実にも存在しています。借り手の付かない物件のオーナーと動物保護団体が協力して、保護猫と暮らす部屋を貸し出したところ、常に満室に。そんな話も耳にしました。きっと、今まで猫と暮らしたかったけれど、環境が整わなかったという入居者もいることでしょう。皆でつくる理想の住まい、いいですよね。皆がハッピーになれる「★★ハイツ」のような住まいは、今後どんどん増えてくのかもしれません。

動物との共生について、あらためて考えるきっかけをくれた3作。今、家で動物と暮らしていなくても、私たちは動物とともに、この地球に生きている。そんなことを改めて思い出させてくれる作品でもあるのです。

■『ストレイ 犬が見た世界』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開中
配給:トランスフォーマー
© 2020 THIS WAS ARGOS, LLC


■『ツユクサ』
4月29日(金・祝)全国公開
配給:東京テアトル
©2022「ツユクサ」製作委員会


■オリジナルドラマ『ねこ物件』
2022年4月よりテレビ神奈川、TOKYO MX、BS11ほかにて順次放送スタート
©2022「ねこ物件」製作委員会


*編集部注:トルコでは2004年に「動物保護法」が可決され、路上で生活する犬猫に対して必要な治療を施したり避妊・去勢手術を行うことが地方自治体に義務付けられた。ワクチン接種が行われた犬の耳にはタグが、避妊・去勢手術が行われた猫の耳にはV字型にカットした小さな印がつけられ、 その後元いた場所に返されることになっている。 2021年7月には「動物の権利法(Animal Rights Law)」が可決され、動物たちはモノや商品ではなく「生きている存在」で「権利」を有するものとして扱われることになった。Hürriyet Daily Newsは動物に対する虐待行為には懲役刑が課されると報じている。
《牧口じゅん》

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