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介助犬の育成・日常について紹介、家族や周囲の人の声から伝わる存在の大きさ…介助犬フェスタ2022

介助犬
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  • 「いぬたちのまいにち」(介助犬フェスタ2022)
  • バーチャル会場(介助犬フェスタ2022)
  • 動物介在療法に携わる「勤務犬」のモリス
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  • 日本介助犬協会 介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長の水上言氏

日本介助犬協会が「介助犬フェスタ2022」を5月22日に開催した。同協会は、手脚にハンデのある方々を支えるパートナーである「介助犬」の育成や、介助犬使用者のトレーニングなどを行っている。全国で57頭しかおらず、まだあまり知られていない介助犬について知ることができる学びの多いイベントだった。当日の様子は、同協会のYouTubeチャンネルで今でも視聴することができる。

介助犬フェスタ2022介助犬フェスタ2022

癒しや気付きなど盛りだくさんの内容

中でも、職員が撮り溜めた素材を編集した「いぬたちのまいにち」と題した動画には、癒しが欲しい時にアクセスするのをお勧めしたい。また、訓練中の犬たちの楽しそうな様子や介助犬ユーザーの生の声からは、新しい気づきや生きていく上で大切なヒントも得られる。メインコンテンツの1つとして毎年行われるデモンストレーションでは、介助犬が日常的に行っている作業を分かりやすく紹介している。

「いぬたちのまいにち」(介助犬フェスタ2022)「いぬたちのまいにち」(介助犬フェスタ2022)

介助犬の基本動作

「主要8動作」*の中から、鍵やコインなど「落とした物を拾う」、緊急連絡が必要な時に携帯電話など「指示した物を持ってくる」、帰宅後に上着や靴下などを脱がせる「脱衣補助」などがライブで披露された。また、水の入ったペットボトルを取って来る “オープン冷蔵庫” では、忘れずに冷蔵庫のドアを閉める様子も見られた。障害によって体温調節が難しい使用者には、冷えた飲み物を渡すという動作にも大きな意味がある。

冷蔵庫のドアを閉める以外にも、介助犬は脱がせた靴下を洗濯かごに入れるなどの連続した動きができる。こうした作業を行っている間、犬たちは尻尾を振りながら、ユーザーの目を見て楽しそうにしている。介助犬にとっては人間が思う“仕事”ではなく、使用者、つまり飼い主もしくはパートナーと一緒に行うゲームに近いことが理解できる。

新しい試み、バーチャル会場も

介助犬の認知向上と理解促進を目指して2011年から始まった介助犬フェスタだが、2020年からはコロナ禍の影響でオンラインでの実施が続いている。リモート開催3年目の今回は、新しい試みが採り入れられた。常に“今より良いものを!” とチャレンジし続ける、同協会スタッフの姿勢が感じられる。

バーチャル会場(介助犬フェスタ2022)バーチャル会場(介助犬フェスタ2022)

インターネット上の広場、「バーチャル会場」にパソコンやスマートフォンから入ると、チャリティーグッズショップやメインステージなど様々なエリアを訪れることができた。当日は「介助犬サポート大使」でフィギュアスケーターの安藤美姫さんや、歌手のジュディ・オングさんも参加。そのほか介助犬の使用者や協会の職員と入場者が、音声による会話や文字によるチャットで気軽に交流できる仕組みだった。

ハイライトは「感謝の集い」

約1時間半にわたって行われたフェスタのハイライトは、実際の介助犬ユーザーとそのパートナーが登場した「感謝の集い」だろう。1頭の介助犬が一人の使用者のパートナーになるまでには、様々なプロセスを経る。候補犬たちはおよそ1年のトレーニングを受けるが、その中から介助犬になるのは約3割といわれる。その他の犬たちは、慎重な検討を重ねた上で最も適した一般家庭に譲渡されたり、広報活動を担う「PR犬」になったりと、それぞれの道に進む。

一方、介助犬となった犬たちには、使用者の生活環境や障害に応じた必要なサポート動作、そして何よりも性格に配慮したベストなマッチングが行われる。共に生活するまでには、愛知県にある日本介助犬協会の総合訓練センターに泊まり込み、約2週間の合同訓練を受ける。2021年には、こうした道のりの末に4組のペアが認定された。

人の優しさを引き出す介助犬

感謝の集いでは、まず4名の使用者から介助犬の育成を支えるすべての人々に感謝の言葉が伝えられた。その後の自己紹介では、それぞれ異なる介助犬との生活が語られた。共通していたのは、物を取って来るなどの “仕事” 以上に大きな介助犬の力だ。使用者ごとに障害の種類は異なり、皆さん性格も違う。介助犬も個性は様々だ。ペアとしての向き合い方もそれぞれだが、使用者が生きる上で、介助犬という存在がかけがえのないものであることは共通していることが理解できた。

車いすで生活している男性は、「一瞬の事故でたくさんのことを失いました。でも、介助犬と共に新鮮で喜びにあふれた日々を重ねるうち、失ったものを1つずつ取り戻していることを実感しています」と笑顔を見せる。また、犬が柔らかい雰囲気をつくり出してくれるため、人と打ち解けやすくなるそうだ。

夫人は「介助犬を通して、人の優しさにも触れています」と言う。家族にとっての精神的な支えであり、社会や人との懸け橋にもなっているという介助犬に、「一緒に笑って過ごす時間をありがとう」とメッセージを送った。

人生に希望をもたらす犬という存在

大阪府在住の女性は、難病のために一時、寝たきりの生活になってしまったそうだ。「このまま天井だけを見て暮らしたくない」と介助犬を迎えることを決意。犬のサポートにより精神的にも活動的になり、アロマテラピーの資格を取得したり、大学で講演を行ったり忙しい日々を過ごしているという。この女性とは10年以上の付き合いだという理学療法士は、「病気や障害に負けず、介助犬と共に(この女性が) “自分らしく”生きる姿」から、自身も人生における勇気や希望をもらっていると話した。

犬がいることで困難に立ち向かえる力

介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長の水上言(みずかみこと)氏は、犬たちが人間に与えてくれる力の大きさを常に感じるという。重い病気にかかったり、障害を負ったりすると、社会との間に隔たりを感じることもあるだろう。そんな時も、介助犬は新たな目標をもったり、夢に挑戦したりするエネルギーを与えているそうだ。

日本介助犬協会 介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長の水上言氏日本介助犬協会 介助犬総合訓練センター長 兼 訓練部長の水上言氏

介助犬の育成のほか、同協会は “笑顔や意欲を引き出す” 「犬による介入(DI: ドッグインターベンション)」活動を行っている。病院やリハビリテーションセンター、児童相談所などで犬との触れ合いを楽しむ「動物介在活動」、犬の力を病気治療に生かす「動物介在療法」、虐待を受けた子どもに司法関係者などが聞き取りを行う際の「付添犬」育成など、その取り組みは幅広い。

水上氏は、「犬がいることで困難に立ち向かえる力」を、これからも様々な形で引き出していきたいと語る。

“人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして”

介助犬フェスタではそのほか、聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県)で動物介在療法に携わる「勤務犬」の3代目育成プロジェクトや「身体障害者補助犬法」を分かりやすく解説した動画も上映された。その一方で、訓練センターで行われた「運動会」では、犬たちが協会職員と楽しくゲームに興じる様子を見ることもできた。

介助犬フェスタ2022介助犬フェスタ2022

こうしたコンテンツの企画から動画の制作、当日の運営なども含め、介助犬フェスタは基本的に職員の手作りで行われている。「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」という日本介助犬協会の願いが具現化されたような、学びと温かさに溢れた介助犬フェスタだった。

* 介助犬の「主要8動作」:落とした物を拾う、指示した物を持ってくる、緊急連絡手段の確保、ドアの開閉、衣服の脱衣補助、車いすの牽引、起立・歩行介助、スイッチ操作
《石川徹》

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