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猫にワクチン接種は必要? ライフスタイルに応じて獣医師と相談を

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世界小動物獣医師会の「ワクチネーションガイドライングループ(VGG)」は、世界的に適応可能な犬と猫の感染症予防用ワクチンに関するガイドラインを発表している。そのガイドラインに基づき、今回は猫のワクチンについて、主な内容を以下にまとめた。

VGGによるガイドラインは、科学的なエビデンスに基づいて2007年に初版が発行され、必要に応じた改訂が継続的に行われている。最新の2015年版をもとに、REANIMALでは犬のワクチンに関する考え方を以前ご紹介した(参照記事)。猫の場合、外部との接触機会などが犬とは大きく異なるため、飼い主のライフスタイルなど生活環境に合わせた判断がより重要になりそうだ。

犬との違い

猫の場合は定期的な散歩は行わず、他の家庭で暮らしている個体との交流もないケースが多いのが、犬と大きく異なる点だろう。完全に室内飼いされていて、外界と接する機会が一切ない場合は、感染症にかかる可能性は限りなくゼロに近いと言える。獣医師によると、成猫の場合では感染症予防のワクチン接種を定期的に行っている飼い主は、一般的に犬の場合よりも少ないのは間違いないそうだ。

ただ、飼い主が外で他の猫に触れたり、新たに猫を迎えたりした場合には、ウイルスや細菌などの病原体に感染するリスクが全くないとは言えない。また、ペットホテルなど、自宅以外の場所に預けるケースでは感染リスクは高くなる。したがって、猫のワクチン接種に関しては、犬の「ノンコアワクチン」と同じように(参照記事)、飼い主のライフスタイルなどを基に獣医師と相談の上判断するのが安心と言えそうだ。

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犬と同様にコアとノンコアワクチンに分類

VGGは、猫の場合もワクチンを3グループに分類している。接種が推奨されている「コアワクチン」、地域ごとの発生状況などに応じて選択する「ノンコアワクチン」、科学的エビデンスが不充分なため現時点では推奨しない「非推奨」である。

■コアワクチン:以下の3種類のウイルスに対応するもの
・猫汎白血球減少症ウイルス:感染力が非常に強い。無症状な場合もあるが、年齢、免疫レベルや基礎疾患などにより激しい下痢や嘔吐、発熱などが急激に悪化して死亡する場合もある
・猫カリシウイルス:複数の型があり、風邪のような症状や口の中に潰瘍をつくるもの、肺炎を引き起こすものなどがある
・猫ヘルペスウイルス1型:くしゃみや咳、鼻みず、発熱など風邪のような症状を見せる「猫ウイルス性鼻気管炎」を発症させる。子猫や年老いた猫など、免疫力が弱い場合には重症化して肺炎を併発することもある

■ノンコアワクチン:日本では、以下の感染症を防御するものなどがある
・猫白血病ウイルス感染症:健康な成猫の場合は感染しても発症しないケースがある一方、子猫の場合は発症から徐々に進行し死亡する場合が多い
・猫免疫不全ウイルス感染症:俗に「猫エイズ」と呼ばれ、下痢や口内炎、発熱などの症状が見られる。免疫力低下によって引き起こされる各種の症状が進行すると、死に至る。ワクチンは、エビデンス不足などにより「非推奨」とされていたが、研究が進んだ結果、2015年の改定でVGGは「ノンコアワクチン」に分類した
・猫クラミジア菌感染症:子猫に多く、結膜炎、多涙、目やになど、主に眼に症状が現れる
・狂犬病:犬と同様、猫も狂犬病に感染する可能性がある

■猫のコアワクチンの特徴
3種類のコアワクチンのうち、猫汎白血球減少症ウイルス用ワクチンは犬のコアワクチンと同様に高度な防御力と長い免疫持続期間をもたらす。したがって、VGGは「3年以下の頻度では接種しない」としている。

一方、猫カリシウイルスおよび猫ヘルペスウイルス1型に対応するワクチンの場合、その防御効果が低く持続期間も短いと言われている。カリシウイルス用ワクチンは、複数の型のウイルスに対応できるよう作られてはいるが、その多様性によりワクチン接種を受けた猫でも感染・発症するケースがあるとのことだ。

ヘルペス用ワクチンは、接種後3年を経過した個体の免疫が、不完全なレベルまで低下していたとの報告もある。したがって予防のためには、「低リスク」(室内で一頭飼いされており、外出せずペットホテル等も利用しない)の猫でも、3年に一度の接種が推奨されている。(なお、欧米では全身症状を引き起こす毒性の強いヘルペスウイルスが報告されているが、この種類に対応できるワクチンは存在しないそうだ。)

一方、定期的にペットホテルを利用したり、室内と屋外を行き来したりする環境で生活をしている猫は感染リスクが高いと考えられる。この様な場合、カリシウイルスおよびヘルペス用ワクチンは1年に一度接種することをVGGは推奨している。なお、これらのワクチンがもたらす免疫レベルは接種後から3ヶ月までが最も高いことが分かっているため、ペットホテルなどに預ける予定がある場合は、タイミングを合わせることで効果的な予防ができるとのことだ。

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その子に合わせた接種プログラムを獣医師と相談

ペットホテルに預けたり他の猫との接触が考えられたりする場合の他、飼い主によってはシャンプーや爪切りなどのお手入れにサロンに預けたり、別荘などに同伴するケースもあるだろう。また、定期的に動物病院に行く必要がある場合なども、感染症に対する予防接種をしておくのが安心だろう。特にサロンや病院などの場合、自分の猫を守ると同時に他の猫に感染させないという配慮からも予防は必要ではないだろうか。

一方で、まったく外出予定がないなど、感染の可能性が低いケースでは副反応(副作用)のリスクを冒してまでワクチン接種をする必要がない場合もあると考えられる。したがって、かかりつけの獣医師と相談の上、飼い主のライフスタイルなどに応じて判断するのが良いと考えられる。

特に子猫の場合、免疫力が充分でないために感染リスクが高い。また発症した場合、重篤化する危険性もある。したがって、安全で効果的なワクチンプログラムを、信頼できる獣医師に組んでもらうことをお勧めする。

また、猫の場合は注射を打った箇所に「猫注射部位肉腫」と呼ばれるしこりができる場合がある。研究は進んでいるが、まだはっきりとした原因がつかめていないそうだ。したがって、ワクチンの種類と接種箇所などについても、充分な説明を受けることをお勧めする。

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《石川徹》

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