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【愛犬からの贈り物 vol.2】突然届いた悲しい知らせ…ブリーディングにおける課題

虚弱な平蔵が大人に
  • 虚弱な平蔵が大人に
  • 元気に走り回る大人に成長
  • 首には負担をかけないように生活
  • お姉さん犬の訃報
  • 科学的なブルーディングが行われるサラブレッド
  • 「奇跡の血量18.75%」
  • メンデルの法則に使われたエンドウ豆
  • 健康で優秀な遺伝子を残すためのブリーディング

前回ご紹介したように虚弱な子犬だった平蔵ですが、最近は肩を痛めることなく元気に過ごしています。

同居犬のひめりんごは体力も気の強さも一回り上ですが、果敢に平蔵へ挑むこともあります。3歳といえば人間だと20代ですから、気持ちも体力も一番エネルギーのある時でしょう。

お互いに手加減している様子もあるので、激しいじゃれ合いもある程度は自由にさせています。ただし「環軸椎不安定症」を抱えた首に負担がかかるので、子犬時代に大好きだったおもちゃの引っ張り合いは禁止です。「ふたり」とも目を輝かせながらしっぽを振って楽しそうにしていたので、かわいそうですが命には代えられない…。

頑丈に成長した身体がガラスの首をサポート?

高さのある場所への上り下りやおもちゃを引っ張る遊び、それから、ほかの犬と衝突の危険があるドッグランでの遊びはできなくなりましたが、なかなかヤンチャな男の子に成長しました。最後に肩を痛めてからはもう2年以上。ブレースのおかげもあって、骨や筋肉が正しい形で頑丈に成長してくれたようです。

元気に走り回る大人に成長元気に走り回る大人に成長

ただ、スポーツ選手が靭帯を痛めると別の場所からの移植手術をする場合があるように、靭帯は筋肉や骨とは違い強くすることができないそうです。肩は問題無く過ごしていますが、首の靭帯はいつ壊れるか分からない「ガラス細工」。成長とともに強くなった身体が支えてくれることを祈りながら、首に負担のかからない生活を続けています。

首には負担をかけないように生活首には負担をかけないように生活

お姉さんの訃報と止まらない流れ

そんな中、悲しい知らせが届きました。平蔵のお姉さん犬が亡くなったそうです。お母さんは違いますが、お父さんが同じで平蔵の1日前に生まれたお姉さん。いつまでも赤ちゃんのような童顔と、小さな耳が可愛い天使でした。

お姉さん犬の訃報お姉さん犬の訃報

お姉さんは1歳になる前に首の痛みが出て、数か月間、首にバンデージを巻いて過ごしていました。子犬にとっては大きなストレスだったと思います。それ以降はとても元気な様子だったのですが、ある日突然倒れ意識が戻ることはなかったそうです。

詳しい原因は分かっていないそうですが、首を起因とする何らかのトラブルが考えられるとのこと。お姉さん犬と平蔵、同じお父さんの血を引く「ふたり」が、環軸椎不安定症という同じ疾患をもって生まれてきました。また、その他にも何らかの先天性疾患を持つ血縁犬がいることが分かっています。

そうした情報は平蔵たちの繁殖業者にも伝わっており、繁殖方針を再考する旨の連絡はあったようです。しかし、未だに平蔵とお父さん犬を同じくする新しい「おとうと」や「いもうと」は誕生し続けています。もちろん血の繋がりがあるからといって、必ず同じ病気に罹るというわけではありません。ただし、同じ「リスク」を持った子犬であることには変わりないのです。

遺伝とは?「奇跡の血量18.75%」

犬の遺伝性疾患というと、チワワやトイプードルの飼い主さんの中には失明に至る「進行性網膜委縮症(PRA)」をご存知の方は多いのではないでしょうか。コーギーに頻発する「変性性脊髄症」も知られていると思います。

また、犬種を問わず小型犬にとても多い「膝蓋骨脱臼(パテラ)」やラブラドールなどの大型犬に多い「股関節形成不全」なども遺伝病に含まれます。ちなみに環軸椎不安定症や肩関節不安定症は人間にもあるそうですが、事故などの外傷によるもの以外は、先天的なものだそうです。

話題は少し変わりますが、「ブリーダー」は犬や猫に限らず、またペットに限らず存在しています。ヘビやカメなどの爬虫類、カブトムシやクワガタなどの昆虫、熱帯魚などの魚類など。

その中で、最も科学的にブリーディングを行っている分野の一つが競走馬の世界だと思います。優秀なサラブレッドは、1頭の価格が数千万円から億を超える場合も。ブリーディングは獣医学や遺伝学を考慮しながら慎重に行われているでしょう。

科学的なブルーディングが行われるサラブレッド科学的なブルーディングが行われるサラブレッド

『よくわかる犬の遺伝学』(尾形聡子著・誠文堂新光社)という本によると、サラブレッドのブリーディングにおいては、「奇跡の血量18.75%」という言葉があるそうです。優秀な、つまり速い競走馬の血統を残すことが優先される世界では経験則的ないわれとして、4世代前と3世代前の祖先が同じ場合、その祖先のもっていた優秀な才能をバランスよく受け継ぐ名馬が誕生することが多い。こうして生まれたサラブレッドは計算上、もともとの種馬(=残したい優秀な要素を持った馬)の遺伝子を18.75%受け継いでいます。

ある優秀な競走馬の遺伝子を残すため、その馬の次世代を生み出しても、交配を続けると「血」は薄まります。子(第2世代)は両親のDNAを半分ずつ、つまり50%受け継ぎます。これが、孫(第3世代)では25%、ひ孫(第4世代)では12.5%と世代を経るごとに減少していきます。

そこで、種馬とする優秀な個体を、例えば、父方の「ひいひい」お爺さんと、母方の「ひい」お爺さんとなるような交配(以下の図を参照)を行うと、その馬の玄孫であると同時にひ孫として誕生した馬が好ましい才能を良いバランスで受け継ぐ可能性が高いそうです。

遺伝学の基礎として、理科の時間に「メンデルの法則」を教わったことを覚えている方もいると思います。丸いエンドウ豆と皺のあるエンドウ豆を掛け合わせると、丸と皺のエンドウ豆がだいたい半分ずつできるという話です。つまり、親(第1世代)のDNAが半分ずつ子(第2世代)に伝わり、それぞれの親と同じ形質をもった子供が2分の1の確率で生まれるわけです。

メンデルの法則に使われたエンドウ豆メンデルの法則に使われたエンドウ豆

これは、馬やエンドウ豆といった一つの「種」の中で多様性を拡大することにより、さまざまな環境の中で生き残っていく、もしくは繁栄していくために備えられた自然の摂理です。同時に、多様性の喪失やネガティブな形質の強化および発生につながり得る近親交配は、自然界でも本能的に避けられる傾向があります。

人工的に交配を行う競走馬においては、優秀な遺伝子を残すためのインブリーディング(=血統の濃い交配)が行われています。しかしながら、血の濃さは18.75%が限界だという経験則が「奇跡の血量」です。優秀な遺伝子を残すために近親交配をしたとしても、これを超えると障害が発生しやすくなることが経験から分かっているのです。

健康で優秀な遺伝子を残すためのブリーディング健康で優秀な遺伝子を残すためのブリーディング

では、犬の場合はどうでしょうか? 次回は、犬の繁殖について、平蔵をきっかけに考えることになったペットビジネスの一側面についてご紹介します。

《石川徹》

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