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イギリスの動物愛護事情 vol.3…幸せのための「子犬契約書」

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  • 生後8週までは、きょうだいと共に過ごす
  • 「子犬契約書」はウェブサイトからダウンロード可能
  • 「子犬契約書」作成には超党派国会議員グループも参画
  • 子犬は母犬から免疫と社会性を学ぶ

「動物の愛護及び管理に関する法律」(通称:動物愛護法)が昨年改正され、今月、殺傷への罰則強化や虐待に関する獣医師の通報義務化など、その一部が施行された。

REANIMALでは、動物愛護に関する海外の取り組みも紹介している。「ルーシー法」(関連記事)や「ゲット・ユア・ペット・セーフリー」キャンペーン(関連記事)など、イギリスでは官民一体となって動物の福祉を守る動きがある。そうしたものの中から、今回は「子犬契約書」を取り上げる。

政府、政治家と民間が一体となった取り組み

動物の福祉に関しては先進国のイメージが強いイギリスだが、いまだに課題も多いようだ。その中でも何度か紹介した「パピー・ファーム」など、犬や猫の繁殖は日本と同様大きな問題の1つだ。そこで、動物愛護団体や獣医師会、超党派の国会議員連盟、環境省などが「ドッグ・ブリーディング・ステークホルダー・グループ」を2008年に立ち上げ、問題解決に取り組んでいる。

「子犬契約書」作成には超党派国会議員グループも参画

ブリーダーと飼い主の両方が健康・幸福への責任を負う

「繁殖と子犬の購入は、責任ある行為であるべき」という意識を高めるためのツールとして、同グループが製作したのが「パピー・コントラクト(子犬契約書)」だ。一般の飼い主が子犬を購入するにあたって知っておくべき・確認すべき情報を包括的かつ詳細に網羅しており、心身ともに健康な子犬を迎えるための教科書とも言える。一方ブリーダーにとっては、良心的で責任あるケアを行うための指針となると同時に優良ブリーダーであることの証明にもなる。

基本方針は、以下のように定められている。
・すべての犬は、最大限に健康で幸せな生活を送るチャンスをもって生まれてくるべきである
・犬を繁殖するすべての者は、親犬と子犬両方の幸福を守るため、外見よりも健康、幸福および気性を優先させるべきである
・犬たちから恩恵を受けるすべての者は、犬の幸福を守るため共に努力する共同責任を負う
・購入者およびブリーダーは、世話をすることを通して動物の幸福を守る義務を負う
(「About The Puppy Contract」より、編集部が和訳)

子犬契約書は、「情報パック」と「手引書」および「販売購入契約書」から構成され、実に17ページにわたる。その中でも情報パックの充実ぶりに驚かされる。

「子犬契約書」はウェブサイトからダウンロード可能

母犬の遺伝的疾患リスクも明記

イギリスで義務化されているマイクロチップの番号や誕生日といったものだけでなく、子犬と両親犬に関する様々な情報が網羅されている。例えば、母犬についてはワクチンや寄生虫駆除といった基本的な健康管理に加え、初出産時の年齢、これまでの出産回数、帝王切開での出産回数、先天的疾患に対する手術歴なども記入が求められている。これは自然分娩ができない傾向や病気のリスクなど、母犬から遺伝する可能性のある要素を明確化することが狙いだ。

子犬に関して確認すべきこと

子犬に関しては、これまでに病気やけがで獣医師の診察を受けたことがあるかどうかがまず問われる。健康な子犬の場合、販売に供される生後8週までに治療が必要となるケースは稀なため、この情報によって全般的な健康状態を確認することができる。

特に重視されているのが、社会化に関連する項目だ。トイレトレーニングの状況、ブリーダーでの主な飼育場所(犬舎、住居内のリビングルームやキッチンなど)、触れ合った経験のある人や動物(大人、子供、男性、女性、犬、猫、ウサギなど)などのチェック項目がある。ブリーダーには、子犬にとって生活面での幅広い経験が重要なことを周知するとともに、飼い主にはそうした点に注意を払うことを促している。また、ブリーダーを訪れた際には母犬やきょうだい犬と触れ合う様子を観察することも大切としている。

また、犬種ごとに発症しやすい遺伝的疾患をリストアップし、母犬、父犬および子犬について検診またはDNA検査の結果を報告する表も付けられている。さらに「近親交配係数」についても触れられているのは非常に重要だが、これについては別途紹介したい。

続く手引書には、これらのチェック項目について重要な理由やその後の対処法などが分かりやすくまとめられている。ここを読むだけでも、犬の繁殖や子犬の基礎的なトレーニング関する基礎知識が学べる。

子犬契約書の役割

子犬契約書はあくまで参考ツールであり活用するかどうかはブリーダーの判断によるが、ここに明記されたポイントを踏まえた繁殖や犬のケアを行うことで、自身が優良なブリーダーであることを客観的かつ具体的に主張できる。そして、親犬と子犬も健康で幸せな環境で暮らすことにつながり、飼い主は優良なブリーダーを見分けることができるようになる。

需要がなくなればビジネスは成立せず、パピー・ファームや悪質な販売業者は淘汰される。こうした循環をつくるために、官民一体となってイギリスで開発されたのが子犬契約書なのだ。

子犬は母犬から免疫と社会性を学ぶ

《石川徹》

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