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続・犬猫のワクチン接種について vol.2…猫は他の猫との接触機会を考慮した接種を

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前回は、専門家の意見も交えて主に犬のコアワクチンに関する考え方を紹介した。今回は、猫に対するワクチン接種についてまとめる。

猫汎白血球減少症ウイルスは免疫持続が長期にわたる

猫の場合、世界小動物獣医師会(WSAVA)の「ワクチネーション・ガイドライン・グループ(VGG)」では以下の3種類のウイルスから体を守るものがコアワクチンに分類されている:猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)、猫カリシウイルス(FCV)、猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)。

このうち感染力が強く、重症化すると死につながるリスクの高いFPVについては、ワクチン接種で一旦免疫ができれば長期間にわたって病気への防御能力が持続することが分かっている。したがって、VGGは犬と同様に3年以上の間隔を空けて接種することを勧めている。また、抗体検査キットを使用した免疫レベルの確認も可能である。

猫カリシウイルスと猫ヘルペスウイルス用ワクチンは獣医師と相談

一方、FCVとFHVに関しては、ワクチン接種による免疫効果が低く、またその持続期間も短いことが分かっている。また、東京・目黒にある安田獣医科医院の安田英巳獣医師によれば、免疫システムの違いによって抗体検査キットによる防御能力の確認ができないそうだ。

VGGでは、原則として1年に1回の接種を推奨している。同時にペットホテルの利用や屋外に出るなど、他の猫と接触する機会がある場合には、獣医師と相談の上、そのタイミングに合わせた適切なワクチン接種を行うことが猫の健康を守るためには有効と言える。

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抗体検査のしくみ

現在、動物病院で可能なコアワクチンに関連した抗体検査は、血液(血清)中のIgGと呼ばれる抗体を検出することで行われる。犬ジステンパー、犬アデノ、犬パルボおよび猫汎白血球減少症のウイルスには、このIgG抗体が作用して体を感染症から守るため抗体チェックが可能である。

一方、猫カリシウイルス(FCV)には消化管粘膜表面の粘液などに存在する防御機能(「粘膜免疫」)が作用する。猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)に対しては、特定の病原体を攻撃する細胞ができる「細胞免疫」が体を守るしくみとなっており、免疫のシステムが異なる。この2つのウイルスに対してもIgG抗体のチェックは可能だが、「感染防御効果との相関関係が強固ではない」ためVGGも抗体検査キットを推奨していない。

猫伝染性腹膜炎(FIP)用ワクチンは現在「非推奨」

致死率が非常に高い猫伝染性腹膜炎(FIP)は、70~80%の猫が持っているといわれる病原性の低い猫腸コロナウイルス(FCoV)が体内で猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に突然変異を起こして発症すると考えられている。その割合は10%程度と見られているが、罹患した場合の有効な治療方法は現在確立されておらず、ほぼ100%死に至る。現在のところ、VGGはエビデンス不足などの理由からこの病気への効果を謳った経鼻ワクチンを、「非推奨」に分類しており決め手となる予防薬は存在しない。

治療薬の研究も進められており、カリフォルニア大学デービス校を中心とするチームが昨年、研究結果に関する発表を行った。ある物質がウイルスの増殖を抑える作用を持っており、実験ではFIPの治療に効果があったそうだ。今後のさらなる研究に大きな期待がかかる。

一方で、治療効果を謳う外国製の薬を輸入して治療するケースがクラウドファンディングなどで多く見られるが、現在、動物医薬品として認可を受けたFIP治療薬は存在しない。したがって、治療を望む飼い主は充分に知識を得た上で、慎重な判断や対応が必要と思われる。

FCoV陰性を確認する抗体検査でFIPの予防を

現在FIPの診断は、血液中の抗体検査や糞・腹水などから採取した検体の遺伝子検査(いわゆるPCR検査)などを行い、症状と合わせて獣医師が総合的に行う。いずれも検査機関での処理が必要なため、ある程度の時間がかかるとともに正確な診断が難しいそうだ。

安田獣医師によると、猫腸コロナウイルスの抗体チェックが犬のコアワクチンなどと同様、比較的手軽にできる検査キットが間もなく使えるようになるそうだ。このキットはFCoVの抗体レベルをチェックするものであり、FIPを直接診断するものではない。ただし、FIPV(猫伝染性腹膜炎ウイルス)はFCoV(猫腸コロナウイルス)が突然変異したものであると考えられることから、この抗体が無ければFIPの罹患リスクはないと判断できる。

このキットは、FIPそのものの治療にはつながらないが、猫腸コロナウイルスに感染して「いないこと」を比較的手軽に確認できるメリットがある。FCoV「クリーン」が確認できた場合、未確認の猫との接触を避けることで猫腸コロナウイルスへの感染を防げば、猫伝染性腹膜炎の予防にもつなげられると安田獣医師は語る。

FIPに対して効果的なワクチンや治療薬の早期開発・承認が待たれるが、人間の新型コロナウイルス感染症と同様、今のところは感染しないための注意が大切と言える。「病気は飼い主さんも動物も苦労します。FIPに限らず、病気はまず予防が大切です」(安田獣医師)

《石川徹》

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