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愛犬への「混合ワクチン」接種、慎重に考えてみませんか? vol.4 獣医学的な世界標準の考え方

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  • WSAVAのワクチネーションガイドライン
  • 犬・猫用ワクチンの免疫持続期間に関する獣医学論文
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  • 大手製薬メーカーが検証に使用している獣医学論文は米国獣医師会が公表
  • 愛犬たちの健康のために

これまでこのシリーズでは、「コア」に分類されるワクチンの免疫が少なくとも3年は持続するため毎年の接種は基本的に不要なことをご紹介しました。念のため、1年ごとに抗体検査を行って免疫が残っていることを確認すれば安心です。

同時に、確率としてはかなり低いものの、命に関わるケースも含めた副反応(以下、一般的な表現として「副作用」とします)も確実に発生していることについても触れました。最終回の今回は、改めて世界的な専門機関が提唱しているワクチン接種の考え方をご紹介します。

成犬への1年1度のコアワクチン接種は「用法及び用量外」

テレビCMなどで、お薬の「用量・用法は守りましょう」とよく言っていますね。飲み過ぎたら毒になる場合もありますから、これは大切です。ワクチンを含め、動物用のお薬も当然、量と使い方は決められています。

「続・犬猫のワクチン接種について vol.3…子犬・子猫の場合」では、母犬から受け継いだ免疫「移行抗体」のしくみと基礎免疫ができるまで複数回のワクチン接種が必要なことをご紹介しました(参考記事)。その接種方法については、製薬メーカーが発行する「添付文書」にも記載されています。一例ですが、こんな表記です。

「【用法及び用量】液状ワクチンを溶解溶液として、乾燥ワクチンを完全に溶解し、6週齢以上9週齢未満の犬には1mLを3週間隔で3回、9週齢以上12週齢未満の犬には、1mLを3週間隔で2回以上皮下注射する。」

一方、成犬に対する接種方法に関しては記載がありません。「続・犬猫のワクチン接種について」でお話を伺った安田獣医師によれば、(成犬に対する用法・用量の記載が無い場合は)「適応外用法」となり得るとのことでした。「動物医薬品検査所」の副作用情報データベースにも、「用法・用量外」とする事例が多く見られます。

主に小型犬の飼い主1万5000名程度を対象に個人的に行ったアンケートでは、混合ワクチン接種に関してインフォームドコンセントを得ているという回答は1割程度にとどまりました。獣医さんが前回ご紹介した「医療法」上の「その他の医療の担い手」に含まれるかどうかはさておき、飼い主さんへの適切な説明と同意を得ることは獣医療行為としても必要ではないのでしょうか?

エビデンスに基づいた世界的な考え方:ワクチンは不必要に接種すべきではない

世界小動物獣医師会(WSAVA)の「ワクチネーション・ガイドライン・グループ(VGG)」が発表している犬と猫用のワクチン接種に関するガイドラインを、繰り返しご紹介してきました。カナダに本部があるWSAVAは、世界125ヵ国の114の団体が加盟し20万人以上が登録する世界的な獣医学団体です。詳しくはこれまでの記事をご参照頂きたいのですが、そのガイドラインにも「ワクチンは不必要に接種すべきではない」と明記されています。コアワクチンの場合、3年以上の間隔を空けることを前提に毎年の抗体検査で免疫のレベルを確認するのが安心です。免疫が残っている状態での再接種は、副作用のリスクを冒すだけでまったく効果が無いとされています。

WSAVAのワクチネーションガイドラインWSAVAのワクチネーションガイドライン

10年以上免疫が続く場合もある

「欧州愛玩動物獣医師会連合」(=筆者訳:FECAVA)が2016年6月にオーストリアのウィーンで開催した「ユーロ・コングレス」(直訳:欧州会議)においても、ワクチンのDOIに関する様々な論文が紹介されています。引用された論文には全て目を通しましたが、その多くが比較的長期にわたる免疫持続に触れています。

例えば、ジステンパーウイルスとパルボウイルスについてはワクチン接種後のDOIが「少なくとも7年」というものがあります。そのほかにも、ジステンパーとアデノウイルス1型に対する抗体は14年、パルボに対する抗体もワクチン接種10年後に検出されたという研究もありました。また、これらのウイルスに関しては、ワクチン接種によって生涯免疫が続く(終生免疫が獲得できる)としているものもあります。

犬・猫用ワクチンの免疫持続期間に関する獣医学論文犬・猫用ワクチンの免疫持続期間に関する獣医学論文

コアワクチン:個体差もあり、抗体検査での免疫レベル確認が安心

もちろん、身体の大きさや生まれ持った免疫機能などの個体差や、年齢、接種したワクチン製剤などによってDOIは一律ではないと思います。愛犬の健康のためには、抗体検査を行って接種の要否を判断するのが安心です。死につながるリスクのある病気を防ぐ免疫が備わっているかどうかを確認し、抗体が充分にあれば副作用のリスクを冒してまで接種しない。抗体値が充分無い場合は、病気への感染を予防するためにワクチン接種を行う、というシンプルな考え方です。

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ノンコアワクチン:獣医さんと相談

一方、「ノンコアワクチン」が予防するレプトスピラ症やボルデデラ、パラインフルエンザは免疫システムの違いから抗体検査は有効でないそうです。繰り返しになりますが、これらの病気は居住地や環境、飼い主さんのライフスタイルなどによって感染リスクが異なります。ワクチンのDOIもまちまちで、1年に満たない場合もあり、かかりつけの獣医さんと充分に話し合って接種の要否とタイミングを決めるのが安心です。

製薬メーカーによる公式な情報も長期の免疫持続に言及

大手製薬会社が英語で出している混合ワクチンに関する資料には、その製品の「カギとなるメリット」の1つとして「血清学的研究の結果、長期にわたる効果を示した」と書かれています。要するに、ワクチン接種後は抗体が長期間存在したということです。出典とされている論文には次のような記述があります。

「ほとんどの犬において、ワクチンによる(免疫)反応は全ての抗原に対して48ヶ月以上継続した。(中略)この結果から、伝統的な1年間隔での再接種よりも期間を空けた場合でもワクチンは十分な防御をもつと考えられる」(全て筆者訳)としています。(ちょっと遠慮がちな表現になっているのが興味深いところです。)

大手製薬メーカーが検証に使用している獣医学論文は米国獣医師会が公表大手製薬メーカーが検証に使用している獣医学論文は米国獣医師会が公表

これから:引き続き、毎年の抗体検査を行い、陰性になった時に接種を検討

今後も筆者の愛犬「ひめりんご」と「平蔵」は1年に1度の抗体検査を行って混合ワクチン接種の要否を検討します。ただし、ひめりんごの場合は再接種によって重い副作用が予想されます。前回同様だとすると、抗体値が下がるまでは3年の猶予があります。その間、今回の副作用を何が引き起こしたのか、別のワクチン製剤ではどうなのか、などについても勉強していきたいと思います。

人間同様に「免疫記憶」という機能もあると思います。一度ウイルスなどの抗原に接触した細胞の一部が変化し、次に同じ抗原と出会った際は直ちに変化して抗体を作るなど免疫機能を発揮するという仕組みです。今は血液中の抗体レベルで免疫機能の有無を判断していますが、免疫記憶に関する検査が可能かどうかについても、調べてみたいと思っています。

愛犬たちの健康のために愛犬たちの健康のために

この子たちの健康のために。

《石川徹》

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