動物のリアルを伝えるWebメディア

狂犬病ワクチンについて考える vol.1…予防の大切さとワクチンには必ずあるリスク

イメージ(本文との関係はありません)
  • イメージ(本文との関係はありません)
  • 狂犬病の発生状況

世界中に甚大な被害を及ぼしている新型コロナウイルス感染症。沈静化の兆しがありませんが、国によってはワクチン接種が始まり希望も見えてきましたね。全く新しいワクチンなので、その有効性や副反応*については様々な意見や懸念が聞かれます。基本的に100%安全なワクチンはないので、リスクはつきものでしょう。

犬用のいわゆる「混合ワクチン」について、これまでリスクの最小化と効果の最大化を図る最新の考え方をご紹介してきました。今回の特集では、狂犬病ワクチンの必要性とリスクについて考えてみました(8回を予定)。

ワクチンには必ずあるリスク

さて、新しい人間用ワクチンだけでなく、リスクがあるのは動物用ワクチンも同じです。筆者の愛犬が、いわゆる「混合ワクチン」を注射してワクチンアレルギーで苦しんだことを以前ご紹介しました(以下リンクご参照)。副反応には元気や食欲が無くなるものから、発熱、痒み、じんましん、顔が腫れるなどのアレルギー反応や嘔吐、下痢などの症状があります。最悪の場合、アナフィラキシー症状から死に至ることも実際にあります。

愛犬への「混合ワクチン」接種、慎重に考えてみませんか? vol.1…これまでのまとめ

愛犬への「混合ワクチン」接種、慎重に考えてみませんか? vol.2… 事件発生!

愛犬への「混合ワクチン」接種、慎重に考えてみませんか?vol.3…起きたら怖い副作用

「日本小動物獣医学会」が過去に行った臨床調査では、混合ワクチンによる副反応の発生率は1.25%だったそうです(参照記事)。

低い確率ではありますが、「家族」の身に起こった場合はその数字に意味がないことを実感しました。対策については「愛犬への『混合ワクチン』接種、慎重に考えてみませんか?」にまとめましたので、愛犬家のみなさんの参考になればと思います(参照記事)。

同じように、狂犬病ワクチンでも副反応は起きています。農林水産省管轄の「動物医薬品検査所」が公開しているデータを見ると、狂犬病ワクチンが関連しているとみられる状況で毎年20頭前後の犬が死亡しています(参照記事)。同検査所に確認したところ、この数字は獣医さんまたは製薬会社からの報告のみとのことでした。また、「薬機法」(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)では、軽い症状の場合は報告義務がありません。したがって、実際の副反応件数はこれよりもかなり多いと思われます。

ワクチンは「必要な時に必要なものを」:リスクの最小化と効果の最大化

大切な愛犬の健康や命を病気から守ってくれるワクチンですが、このように確実にリスクもあります。これまで何度もご紹介してきたように、混合ワクチンに含まれる「コアワクチン」は毎年「抗体検査」を行って接種の要否を決めるのが安全かつ確実です。「ノンコアワクチン」の場合は、ワクチンの効果が持続する期間(免疫持続期間:DOI)や病気に感染するリスクが病気ごとに異なります。居住地域や飼い主さんのライフスタイルなどを踏まえ、かかりつけの獣医さんと相談して接種の要否とタイミングを決めるのが安心です。詳しくは、こちらのリンク集をご参照ください。

狂犬病予防は人間と愛犬の命を守るために重要

一方、狂犬病ワクチンは「狂犬病予防法(正式名称:狂犬病予防法・昭和二十五年法律第二百四十七号)」で1年に1回の接種が義務付けられています。動物から人間にうつる「人畜共通感染症」の狂犬病は、発症してしまうと死亡率がほぼ100%という恐ろしい病気です。狂犬病予防法は、まず人間の命を守るために制定されたものです。もちろん、愛犬の感染予防にも大切です。

日本では1950年にこの法律が施行された結果、国内で人間が感染・死亡したのは1956年の1人が最後です(海外で感染後に日本に帰国・入国したケースを除く)。この年に6頭の犬も犠牲になりましたが、翌年の猫1匹以降、日本での感染はありません(参照記事)。現在、日本以外で狂犬病の撲滅に成功したとされている「清浄国」はイギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどごく少数で、狂犬病予防法の大きな功績と言えるでしょう。

狂犬病の発生状況狂犬病の発生状況

60年以上国内での感染例がない日本も予防接種が必要なわけ

日本では60年以上感染例がありませんが、WHO(世界保健機構)の推計では今でも毎年6万人以上が世界中で狂犬病のために亡くなっています。日本獣医師会によれば、2008年の中国における感染症による死亡原因の第2位が狂犬病だったそうです。そうした国々からウイルスが侵入してくることを完全に防止することはできないため、日本も100%安全とは言い切れません。

また、一般にワクチン接種率70%がウイルスのまん延を防止できる目安とされています。新型コロナウイルス感染症に関連して、時々聞かれる「集団免疫」というものです。現在の日本における狂犬病ワクチン接種率は、無登録の犬を含めると約4割と日本獣医師会は推定しています。

したがって、例えば海外で狂犬病ウイルスに感染した犬が船に紛れ込んで上陸した場合、日本は十分に防御できる状態にないと言えます。今年が「36万年に1度」に当たらない保証はありません。(これについては、最終回でご紹介します。)また最近では、自然災害でペットと同行避難するケースも増えています。家族だけでなく、地域の安全を守るためにも狂犬病のワクチン接種は大切です。もちろん、愛犬を感染から守ることにつながるのは言うまでもありません。

本当に「1年に1回」のワクチン接種は必要なのか?

とはいえ、副反応のリスクを考えると狂犬病に限らずワクチン接種の回数はできるだけ少なくするのが愛犬の健康と命を守るために望ましいのは事実です。「1年に1回」が決められたのは第二次世界大戦終了直後の今から70年前。その間、獣医療や感染症の研究、薬の開発などは大幅に進んでいるはずです。

愛犬たちの狂犬病に対する免疫力チェックには、他のコアワクチンで有効な抗体検査はできないのでしょうか? ワクチンのDOIは、今も1年のまま変わっていないのでしょうか? このシリーズでは、今後7回にわたってこの2点を中心にエビデンス(科学的根拠)を基に改めて考えてみます。次回は、まず免疫とワクチンの仕組みについてご紹介します。

* 副反応:ワクチン接種に伴う免疫の付与以外の反応。薬剤の場合は、投与した化学物質による期待される作用以外の作用を意味する「副作用」という用語を用いるが、ワクチンについては生体の反応を促すものであることから、「副反応」という用語が用いられる(国立成育医療研究センターHPより)

《石川徹》

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top