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イギリスの動物愛護事情 vol.12…危険なのは犬でなく飼い主

見た目だけで殺処分された雑種のダンカン
  • 見た目だけで殺処分された雑種のダンカン
  • 茨城と佐賀で秋田犬を飼う場合、檻に入れる義務があるのだが…
  • 犬の命と人間の安全、両方をを守るために必要なことは?(写真はイメージ)
  • 孤独な収容によってトラウマを抱えるケースも(写真はイメージ)
  • 愛犬たちの幸せは飼い主次第

前回、イギリスではその見た目だけで殺処分されてしまう犬がいることを紹介した。ミックス犬「ダンカン」のエピソードは、動物福祉先進国のイメージからはかけ離れたものだった。今回は日本の事情についてまとめるとともに、私たち飼い主が心にとめておきたいことを紹介する。

日本における特定犬種規制法

アメリカとイギリスの「特定犬種規制法(BSL)」の現状を紹介したが、日本には同じような規制があるだろうか。「“危険な犬種”は存在するか?」のvol.4で触れたように、一部の犬種を「特定犬*」として規制する条例を設けている自治体がある。県単位で導入しているのは、茨城県と佐賀県である。

秋田犬やセントバーナードは檻に入れる義務

茨城県は、「放たれていた大型犬による重大な事故が発生したことから、昭和54年から特定犬制度を導入しました」(茨城県動物指導センター)としている。秋田犬やセントバーナードなど8犬種を、「咬み付き事故を起こしやすい犬や重大な事故になる可能性がある犬」と指定している。また、前回紹介したイギリスの「Dangerous Dogs Act (= 危険な犬に関する法律)」同様、「県知事が指定した犬」というあいまいな定義も加えられている。それらの犬種は、上下四方が囲まれて十分な強度をもった「檻」の中で飼育することを義務付けている。

行政側の根拠を示す責任と飼い主の義務

佐賀県の場合、同様の義務が課せられるのは10犬種に及ぶ。しかしながら、両自治体ともに「咬み付き事故を起こしやすい犬」として特定に至った検討プロセスやデータ、県知事が指定する際の基準などは示されていない。どちらの条例にも罰則規定はないが、遵守義務を課す以上、明確な根が提示されるべきである。イギリスやアメリカのように押収されたり殺処分されたりすることは考えにくいが、飼い主も、行政から何らかの命令があった場合は従うことが法律で要求されることになる。

茨城と佐賀で秋田犬を飼う場合、檻に入れる義務があるのだが…茨城と佐賀で秋田犬を飼う場合、檻に入れる義務があるのだが…

外見だけで判断することはできない

犬種や外見のみで判断する現在のBSLは、市民を守る役割を果たしていない。それは、前回紹介したイギリスの咬傷事故件数や王立獣医大学(RVC)の研究結果、アメリカCDC(疾病予防管理センター)や合衆国司法省などの判断から分かる。イギリスの動物愛護団体「ブルークロス」は、問題は管理する側の人間にあると訴える。

「禁止されている種類の犬が、他の犬種よりも高い攻撃性をもっていることを示す根拠はないのです。一方、(犬種に限らず)間違ったしつけや酷い扱いを受ければどんな犬でも攻撃的になる可能性はあります。外見だけで判断することはできません」として、犬による咬傷事故の防止には、管理する飼い主の教育が必要だと主張する。

危険な飼い主への教育が、社会の安全と犬の命を守る

ブルークロスは、慎重な繁殖、早期の社会化、トレーニングの重要性など、飼い主の責任に関する教育に力を注ぐことの重要性を訴えている。同時に、犬を無責任に飼育したり違法な目的に利用したりする者の取り締まりを強化することこそが、問題解決につながるとしている。そのうえで、Dangerous Dog Actを真に意味のある法律とするため、まずはピットブルテリア、土佐犬および「闘犬の特徴をもっていると見られる犬」を定めた同法・第1条の廃止を求めている。

これは、アメリカで公益性をもつ複数の団体によって犬種を特定するBSLが否定され、非特定のBNLへと移行している状況と同じ考え方だろう。以前も触れたように、咬傷事故防止に必要なのは犬種でひとくくりにする法規制ではなく、飼い主に対する教育と規制だろう。犬の命と尊厳を守るためだけでなく、人間の安全を守るためにも、危険な犬種ではなく危険な「飼い主」への対策が行われるべきではないだろうか。

犬の命と人間の安全、両方をを守るために必要なことは?(写真はイメージ)犬の命と人間の安全、両方をを守るために必要なことは?(写真はイメージ)

家族の一員である愛犬が当局に奪われ、壊れていく

イギリスでは、飼い主のいるペットの犬であっても、違法な種類であると疑われた場合は当局によって押収されるそうだ。飼い主は裁判所に訴え、返還を申請することができる。主張が認められれば犬は返されるが、口輪の着用などその後の生活には一定の制限がかけられる。

また審議中、犬は人や他の犬との交流がない犬舎に収容される。精神的なトラウマから飼い主との関係性にも問題が生じてしまい、結局、安楽死させられるケースもあるという。ブルークロスは、こうした不幸なケースについても警鐘を鳴らす。

「犬舎での生活や人間との交流がない環境では、とても大きなストレスを抱えます。法律によって、押収した犬はそのような環境で生活しなくてはなりません。審議のプロセスは数週間から数年に及ぶ場合もあります。その間に犬の行動が悪化し、以前はなかった問題行動につながるのです」

孤独な収容によってトラウマを抱えるケースも(写真はイメージ)孤独な収容によってトラウマを抱えるケースも(写真はイメージ)

なお、イギリスで闘犬が行われていたのは事実だが、1835年には違法とされている。1991年以降、同法に基づいて殺された犬の大半は、ペットとして迎えられ暮らしていた犬である。「犬たちは、愛する家族との幸せな家庭で楽しむべき犬生を送ることができたはずです。しかし、見た目の問題で殺されてしまったのです。このような不当なことは終わらせなければなりません」(ブルークロス)

飼い主の適切な管理と行政への注視が愛犬を守る

これは遠いイギリスでの出来事であり、飼育されている犬種の傾向からも日本で同様の状態になることは考えにくい。だが、「特定犬」条例が全国的な法律にならない保証はない。犬たちに対する規制が、何らかの形で強化される可能性も否定できない。

大切な家族の一員である愛犬が、明確なエビデンスなく行動制限されたり奪われたりすることがないよう、行政の動きを注視することも責任ある飼い主の役目ではないだろうか。もちろん、愛犬が危険な行動をとらないよう管理に細心の注意を払うことも大切なのは言うまでもない。トイプードルやチワワなどの小型犬でも、急な飛び出しで事故を誘発し他人に大けがを負わせることはあり得る。日々の散歩でも、適切にリードを使うなど周りに迷惑をかけない責任ある行動が必要だ。

愛犬たちの幸せは飼い主次第愛犬たちの幸せは飼い主次第

「この子たち」の「犬生」は、すべて私たち飼い主にかかっていることを常に意識したい。



* 茨城県:秋田、紀州、土佐、シェパード、ドーベルマン、グレートデーン、セントバーナード、スタッフォードシャーブルテリアの8犬種。佐賀県はこれにアラスカンマラミュートとマスチフを加えた10犬種
《石川徹》

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