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新型コロナウイルスの動物への感染について…現時点でエビデンスはなし、冷静な対応を

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日本でも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染者拡大が続く中、海外でペットがこのウイルスに感染したとのニュースが時おり聞かれる。犬や猫などのペットと暮らす家庭では、不安が募っているだろう。

以下に、世界で正式に報告されているケースをご紹介する。新しいウイルスのため、今後考え方が変化することは充分に考えられるが、信ぴょう性の高い最新情報を得ることで、冷静で理性的な対応をしたい。

現在の状況と飼い主がとるべき対応

「アメリカ疾病予防管理センター(CDC)」によると、今のところペットが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症したという報告はない。また、ペットがこの病気の人間への感染を媒介するというエビデンスも見つかっていない。したがって、アメリカ獣医師会や日本獣医師会などは、これまで通りのペットとの生活を推奨している。

これまでREANIMALでも報じてきたように、以下の点に注意して過ごすことをお勧めする。

・飼い主に新型コロナウイルス感染症の症状がなければ、散歩、エサやり、遊びなど通常と同じ生活で問題ない。ペットと触れ合う前後の手洗いの徹底や、ペットの身体や食器、寝具、おもちゃなどを清潔に保つなど、一般的な衛生面には注意を払う

・念のため、COVID-19を発症した飼い主は、ペットとの接触を控えることを勧める。世話をする人間がいない場合、および介助犬など接触が避けられないケースにおいては、人間はマスクを着用し、食べ物を分け与えたりキスやハグをしたりするのは慎むとともに、接触前後の手洗いを徹底する

・飼い主の入院や、自宅で自主隔離しなければならなくなった場合に備え、最低2週間分の食事(エサ)とペット用常備薬など、ペットのための防災キットを用意しておくことを勧める

・飼い主の感染によりペットを預ける場合は、東京都獣医師会のガイドラインを参考に、第三者への感染防止に注意を払う(参考記事は⇒こちら

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動物から新型コロナウイルスが検出されたケース

香港では、3月30日までに27頭の犬と15匹の猫を新型コロナウイルスに感染した飼い主宅から隔離し検査を行った。そのうち、2頭の犬と1匹の猫から新型コロナウイルスの陽性反応が見られたが、どのケースも呼吸器系疾患は見られていない。

1.ポメラニアン
新型コロナウイルス感染症を発症した飼い主宅から、ポメラニアンを隔離。2月26日に採取した検体のPCR検査を行ったところ、「弱い陽性」反応が出た。2月28日、3月2日、5日、9日のテストでも陽性反応が出た。この間、病気の症状は見られなかったが、血液検査でも同ウイルスに対する抗体が確認された。

3月12日と13日の検査で陰性が確認されたため、14日に家族のもとに返された。この3日後に亡くなったが、17歳と高齢であり、既往症もあったことから新型コロナウイルス感染症以外による死亡と考えられている。

飼い主とポメラニアンから検出されたウイルスの遺伝子配列が非常に似ているため、このケースでは飼い主からの感染が考えられる。ただし、同様に隔離された同居犬からは、ウイルスが検出されていない。

2.ジャーマンシェパード
飼い主が新型コロナウイルス感染症を発症したジャーマンシェパードから、3月18日にウイルスが検出された。19日、20日の検査でも陽性反応が見られたが、21日以降は10日連続で陰性が確認された。また、この犬から採取した血液サンプルからも、新型コロナウイルスに対応する抗体が検出された。

この間、この犬に新型コロナウイルス感染症と考えられる症状は見られなかった。また、同居のミックス犬からは、一度も陽性反応が検出されなかった。

3.猫
3月30日、飼い主が新型コロナウイルス感染症を発症した猫の検体が、陽性反応を示した。4月1日に行われた検査でも陽性だったが、この猫に病気の症状は見られなかった。

ベルギーでは、3月18日に嘔吐と下痢の症状がある猫の吐しゃ物と便から新型コロナウイルスの陽性反応が出たことが発表された。ただし、このケースでは飼い主や猫、ウイルスなどに関する詳しい情報が得られておらず、関係性は明らかになっていない。なお、この猫は発症の9日後に完治したとのことである。

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研究機関で行われたテスト

アメリカの2つの企業ラボが、アメリカ、韓国、カナダおよびヨーロッパから入手した数千頭分の犬および猫の検体をテストした。これらの検体は、新型コロナウイルスの検査用に採取したものではないため、同ウイルス陽性者との接触に関する情報は得られていないが、全ての検体は陰性だった。

ニューヨークの動物園

4月3日に、4歳のマレートラ(メス)から採取した検体に陽性反応が見られた。「ブロンクス動物園」は3月中旬から閉鎖されているが、3月27日に乾いた咳などの症状が最初のトラに見られ、ほかにもマレートラ1頭、アムールトラ2頭、ライオン3頭に同様の呼吸器疾患症状が見られた。

当時は症状がなかった飼育員より感染した可能性が考えられていた。なお、これ以外の動物(マレートラ、アムールトラ、ユキヒョウ、チーター、ウンピョウ、アムールヒョウ、ピューマなど)には症状が見られていない。また、病気の症状を見せた動物たちも回復しているとのことである。

論文

1.フランス
感染者と濃厚接触のあった犬12頭と猫9頭にPCR検査と抗体検査を実施したが、すべて陰性を示したとしている。これは、正式発表前の論文を掲載する専門家向けウェブサイト(「bioRixv」)に4月6日にアップロードされた。

検査を受けた21匹の犬と猫は、フランスにある大学の獣医学部に通う学生たちと近い環境で、ペットとして生活していたそうである。この学生20名のうち、2名は新型コロナウイルス陽性が判明し、他の11名にも発熱、咳、嗅覚障害など新型コロナウイルス感染症の症状が見られているとのことである。

2.ドイツ「連邦動物疾病調査センター」
動物の鼻を通して新型コロナウイルスを感染させる実験を行っている。4月2日に発表された経過報告によると、フルーツコウモリとフェレットには新型コロナウイルスに感染する可能性が見られたが、豚とニワトリには変化が見られなかったとしている。実験の最終結果は5月初旬に発表される見込みとしている。

3.アメリカの学術雑誌「サイエンス」
4月8日に掲載された中国の論文によると、実験の結果、フェレットと猫に新型コロナウイルスへの感染が認められたそうだ。また、犬、豚、ニワトリおよびカモは感染しづらいとしている。

しかしながら、この論文は組織培養した高濃度のウイルスを鼻または喉へ直接触れさせて実験した結果をまとめたものであり、通常とはまったく異なる感染環境で行われている。また、実験に使用した動物の数(サンプル数)およびデータも非常に限られており、一般の環境下でのペット同士の感染や、人とペット間の感染に関する結論を導くことはできないと考えられる。

4.中国・武漢の論文
4月3日に武漢の研究機関から「bioRixv」にアップロードされた論文は、新型コロナウイルスのパンデミック発生後に102匹の猫から採取した血液のうち、15匹のサンプルから新型コロナウイルスの抗体が発見されたとしている。

ただし、このケースでは陰性を示した87匹のデータ(新型コロナウイルス感染症患者との同居の有無など)が得られていない。また、より詳細な抗体検査においては殆ど反応が見られなかったことなどから、猫同士や、猫から人間への感染力評価は時期尚早と思われる。

飼い主に求められる行動

この様に、世界全体を見ても動物が新型コロナウイルスに感染したと考えられる事例は限られており、ペットと人間との間での感染についてのエビデンス(科学的根拠)も見つかっていない。したがって、ペットの飼い主は噂に惑わされず、正確な情報に基づいて理性的に行動することが、大切な「家族」の安全につながる。

REANIMALでは、今後も動物の新型コロナウイルス感染に関する最新情報をお伝えしていく。

《石川徹》

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