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遺伝病の撲滅に向けた犬・猫の遺伝子検査 vol.3…今後の課題と飼い主ができること

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このシリーズでは2回にわたって犬と猫の遺伝的疾患リスクを発見するための遺伝子(DNA)検査について触れた。日本では子犬・子猫のすべてに検査を行うペットショップがある一方、明確に反対の立場をとる競りあっせん業者があり、ペット業界の姿勢が一枚岩でないことが分かる。

最終回となる今回は、遺伝子検査によって生じると考えられる社会的なリスクと、その上で、私たち一般の飼い主ができることについて考えたい。

遺伝子検査で異常が見つかった子犬・子猫

遺伝子検査の結果、異常が見つかった子犬や子猫の場合の扱いはどうなるのだろう。AHBでは、命に関わらないものに限定されるが、遺伝病発症の可能性を説明した上で条件面等の折り合いが付けば販売することもあるという。例えば、最終的には失明に至る「進行性網膜萎縮症(PRA)」は、因子を持っていても、ダックスフントの場合実際に発症するのは10%前後と言われているそうだ。

また、「キャリア」の場合、通常は生涯を通じて発症しないため、繁殖を行わず、ペットとして暮らす上では問題はないと考えられる。

「命の選別」につながるリスクは存在する

ブリーダーに戻す場合は、繁殖に使用しないことと終生飼養することを指導しているそうだ。事情によってはAHBで不妊去勢手術を行う場合もあるという。とはいえ、現実的にはそうした子犬・子猫の「その後」については繁殖業者の良心に任せる以外なく、ここで「命の選別」につながる可能性を完全に否定することはできないだろう。

今後の課題:終生飼養義務の徹底

遺伝子性疾患のリスクが見つかった子犬・子猫の処遇については、愛護法が既に繁殖業者などに課している「終生飼養義務」の徹底を含め、多角的な角度からの検証・対策が必要だろう。アニコムも、「遺伝性疾患の原因遺伝子を持っているどうぶつ達が置き去りになってしまう」ことへは懸念を表明している。そのうえで、終生飼養の仕組みも含めた包括的な研究を行っているとのことだ(アニコム先進医療研究所株式会社のHPより)。

遺伝病のない未来に向けて

遺伝子検査の目的は、まず、遺伝病が次の世代に受け継がれてしまうこと防止することにある。完全なる撲滅には何世代にもわたる交配が必要であり、短期間での実現は難しいと考えられるが、少しずつ効果は表れていることは統計資料からもうかがえる。「"命の商品化"を考える」シリーズでも紹介した柴犬のGM1ガングリオシドーシスの「アフェクテッド」は、ゼロと改善している。「キャリア」も1%見つかっているが、これらの個体を繁殖から外すことで「さくらちゃん」達のような不幸な事例を繰り返すことはないだろう。

今後はペット業界全体が遺伝子疾患に真摯に取り組み、希望する飼い主に限定することなく全ての子犬・子猫に遺伝子検査を行うことを望みたい。また、子犬・子猫の全頭検査を既に実現しているAHBには、繁殖に使用される成犬や成猫への検査をさらに徹底して欲しい。

「置き去りにしない」ための「終生飼養義務」の周知徹底

不幸にして「キャリア」であることが判明した場合も、病気によっては発症を抑えたり、症状を和らげたりなどの対処を行うことで、犬・猫の負担を軽減することが可能な場合もあるだろう。「命の選別」につながることを懸念する業者は、遺伝子検査に反対するよりも、既に法律が課している終生飼養義務を繁殖業者に徹底させることに力を注いではどうだろうか。

ペット業界だけでなく、私たち飼い主も含めた一人ひとりの意識に関わる問題ではあるが、「置き去りにしない」環境を整える努力が必要なのは間違いない。ただ、それが遺伝子検査を否定する理由にはならないのではないだろうか。遺伝病の的確な発見・防止は、短期的にはもちろん、長期的な視点からも動物福祉を守るために必要なものだろう。また、最終的にはそれがペット業界自体の繁栄にもつながるとは、考えられないだろうか。

飼い主のできること:正しい姿勢を見極める目

では、私たち一般の飼い主は何ができるのか。まずは、「見る目を養う」ことだろう。犬や猫を新たに家族として迎える場合、様々な選択肢がある。友人・知人宅で生まれた子犬・子猫を譲り受ける場合もあるだろう。一般には、ペットショップやブリーダーと称する繁殖業者から購入するケースが多いだろう。

「素人が自家繁殖をすべきでない」、「ペットショップからは買うべきでない」、「ブリーダーから直接迎えるべき」など、色々な考え方があるが、画一的に決められるものではないと思う。前述のように、「ブリーダー」と呼ばれる繁殖事業者の中にも遺伝的疾患のリスクを承知で繁殖を続ける業者や「命を産みだす」行為に必要な知識をもたない業者は少なからず存在する。一方で、繁殖を事業として営んではいない家庭でも、遺伝学や獣医学の知識と命への敬意をもって動物と接している人たちもいる。

遺伝子検査への姿勢が事業者によって大きく異なるように、一口で「ペットショップ」と言っても、その姿勢も本当に様々である。大切なのは、そして私たち飼い主がまずできるのは、家族となる子犬や子猫を「どこの誰」から迎えるべきか、それを正確に見極める目を持つことではないだろうか。

最終的には飼い主がペットの幸・不幸のほとんどを決定することに間違いはない。できるだけ多くの情報に触れ、バランスの取れた検証を行って、正しいものを選別し正確な判断を下すことが、ペットの一生を左右する第一歩となり得ることを肝に銘じたい。

《石川徹》

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