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狂犬病ワクチンについて考える vol.2…効果的な接種のために重要な抗体検査

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  • 抗体が病原菌を退治
  • ワクチンが免疫機能のスイッチを入れる
  • 世界小動物獣医師会によるワクチンガイドライン(https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese.pdf)
  • 「猶予証明」では狂犬病接種済証は発行されない

前回は、死亡率がほぼ100%という狂犬病の恐ろしさと、予防の大切さについてご紹介しました。そうした点は十分に認識した上で、この特集では接種の頻度を下げられないのかについて検証します。

すべてのワクチンに起こり得る怖い副反応のリスクをできるだけ避けながら、効果的な予防はできないのでしょうか? 他の「コアワクチン」で可能な「抗体検査」による接種回避は不可能なのか、ワクチンの効果は今でも1年で切れてしまうのか。焦点を当てるのはこの2点。

2回目の今回は、免疫とワクチンによる予防の仕組みを解説します。

免疫:身体に侵入した病原菌を退治

まず、免疫のしくみについて簡単にご紹介します。最近は新型コロナウイルス感染症に関連して「抗体」という言葉を聞くことが多いと思います。抗体は病気になるのを防いだり病気を治したりする機能、つまり「免疫」のもとになるものの1つです。

ウイルスや細菌などの「病原体」が体の中に侵入し、増殖すると病気になります。すると、その病原体をやっつける物質が作られます。これが抗体で、その働きによって病原体を退治してしまうと病気が治る、というのが免疫のプロセスです(免疫には抗体が働くもの以外もありますが、それらについては別途触れます)。

抗体が病原菌を退治抗体が病原菌を退治

ワクチンの働き:事前に抗体を作って病気に備える

ワクチンは、この抗体をあらかじめ体の中に作っておくことで病原体と接触しても病気にかからないようにするものです。薬の中にはウイルスや細菌を加工したものが入っており、注射などで体に入れると免疫機能のスイッチが入り抗体が作られます。実際にそのウイルスや細菌が体に入ってきた場合、あらかじめスタンバイしていた抗体がすぐに病原体を攻撃して発症を防ぐという仕組みです。

ワクチンが免疫機能のスイッチを入れるワクチンが免疫機能のスイッチを入れる

抗体検査:効果的に病気から守るための手段

これまで何度かご紹介してきましたが、いわゆる「混合ワクチン」に含まれるコアワクチンについては抗体検査で再接種した方が良いかどうかの判断ができます。ジステンパーウイルス、パルボウイルス、アデノウイルスは感染力が強いとともに病気になると命に関わる場合があるため、確実な予防が必要です。これらのウイルスを退治する抗体が体内にあるかどうかは、わずかな採血だけで簡単に調べることが出来ます。機械的に「1年に1回」と決めるのではなく、「抗体があれば注射を打たなくても大丈夫。抗体がなければ打った方が安心」という論理的な判断ができます。

また、体内に抗体がある状態でワクチン接種を行っても全く意味がないことも、世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインなどを通して繰り返しご紹介してきました。したがって、抗体検査はワクチン接種の頻度を下げて副反応のリスクを減らすだけでなく、期待する効果がきちんと発揮されるかどうかを見極めるためにも役立ちます。混合ワクチンについては法律で決められた義務はないので、打つか打たないかは100%飼い主さんとかかりつけの獣医さん次第です。

世界小動物獣医師会によるワクチンガイドライン世界小動物獣医師会によるワクチンガイドライン(https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese.pdf)

では、同じウイルス性の感染症である狂犬病の場合、抗体検査による判断はできないのでしょうか? また、コアワクチンは、注射後「最低3年」は効果が持続するとされています。狂犬病ワクチンの場合、この期間は1年のままなのでしょうか?

法的には、いかなる事情でも免除されない狂犬病ワクチンの接種

狂犬病予防法第5条には以下の記述があります。

「犬の所有者は、その犬について、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年1回受けさせなければならない」

犬には1年に1回、狂犬病ワクチンを受けさせることが飼い主の義務です。そしてこの第5条には猶予や免除に関する条項は存在しません。つまり、法律上はいかなる理由があっても狂犬病の予防注射は1年に1回打たなければならないのです。抗体検査についての記載もありません。

ただ、獣医さんが健康上接種すべきでないと判断した場合、「猶予証明書」を書いてくれる場合があります。原本を保健所に提出しますが、当然、「狂犬病予防注射済票(毎年色が変わる小さなプレート)」は発行されません。

「猶予証明」では狂犬病接種済証は発行されない「猶予証明」では狂犬病接種済証は発行されない

狂犬病予防法の規定にないため、この証明書に法的な根拠はありません。また、1年以内の「狂犬病予防注射済証」の提示が求められるトリミングサロンやドッグランなどには受け入れてもらえないこともあると思います。とはいえ、接種を見送ったのが健康上の理由であることを獣医さんに証明してもらい、書類を役所に提出しておくことは飼い主の責任として重要です。

次回は、狂犬病ワクチンについても抗体検査の有効性を主張し、接種の判断は検査結果によるべきと主張する獣医師がいるアメリカの状況をご紹介します。

《石川徹》

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