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【“命の商品化”を考える vol.21】 6月1日施行の動物愛護法・数値基準、 「解説書」に見る環境省の姿勢と積み残しの課題

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  • 行政手続きの流れは「処分フロー」として図式化
  • 通達文書のひな型も用意されている
  • 環境省の動物愛護管理室が「環境省相談窓口」として自治体をサポート
  • 環境省は「遺伝疾患等のリスク」についても議論を約束
  • 【“命の商品化”を考える vol.21】  6月1日施行の動物愛護法・数値基準、 「解説書」に見る環境省の姿勢と積み残しの課題

「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月19日法律第39号)」(以下、改正愛護法)に関連して、俗にいう「数値規制」が6月1日に施行される。繁殖業者、競りあっせん業(ペットオークション)やペットショップを含むすべての動物取扱業者には、犬猫の飼育に関して環境省令で定める「基準遵守義務」が課せられる。

数値規制のスムーズな運用のため、環境省では基準の「解説書」作成を進めている。準備の最終段階に入った解説書について、前回は主に事業者向けの「チェックリスト」と「基準の解説」を紹介した。今回は、事業者を指導・監督する立場にある自治体に向けて、違反者に対する「行政指導・行政処分」をまとめたパートを紹介する。また、改正愛護法がより一層動物の福祉向上につながるよう、将来に向けた提言も行う。

自治体による厳格で速やかな対応をサポート

解説書では、事業者が守るべき基準の明確化に加え、自治体が厳格かつ速やかに処分を行うための手続きや対応も分かりやすくまとめられている。違反した場合の「行政指導・行政処分」についてのパートは、主に指導・監督を行う都道府県に向けたものとしている。

行政手続きの流れは「処分フロー」として図式化行政手続きの流れは「処分フロー」として図式化

基準を守らない事業者への「勧告」から始まり、動物取扱業者としての業務停止や登録取り消しに至る手続きの流れが「処分フロー」として図式化されている。「告発状」や「第一種動物取扱業の登録取消しについて」など、通達文書のひな型もステップごとに合計8種類が用意されている。状況に応じたアクションを、自治体が迅速に起こすためのサポートツールになるだろう。

通達文書のひな型も用意されている通達文書のひな型も用意されている

以前から議論されていた環境省の「相談窓口」設置も決定した。事業者の指導について、「円滑な実施を支援するため、勧告、命令、業務の停止、登録の取消し、告発等の事例、手順を蓄積し、自治体へのフィードバックを迅速に行うことで、遵守基準の運用を的確に行う(解説書より)」としている。具体的には、環境省の動物愛護管理室が「環境省相談窓口」として自治体をサポートする。

環境省の動物愛護管理室が「環境省相談窓口」として自治体をサポート環境省の動物愛護管理室が「環境省相談窓口」として自治体をサポート

「悪質な事業者の排除」への期待

法律家の委員からは、行政指導や処分のプロセス、弁明機会の付与やその期間などの一部で再検討や修正の必要性が指摘された。獣医師からは、参考情報に記載されている犬・猫の具体的な品種などに関する提案も上がった。こうした手続き上のポイントや具体例などに関しては、6月1日の環境省令施行までに修正されるだろう。

この解説書は、数値基準を厳格に運用する目的で環境省が作成している。同省・自然環境局の鳥居敏男局長からは、「基準の具体化によって、不適切な事業者に厳格に対処していく」との決意表明があった。改正愛護法とそれに伴う数値規制が、環境省の言う「悪質な事業者の排除(同省資料より)」につながることを期待したい。

残された少なくない課題

一方で、引き続き議論が必要な事項も多く残されている。従業員1人当たりの飼育頭数に関する基準では、「繁殖引退犬を頭数に含まない」とある。犬が繁殖業者にとどまった場合、本当に繁殖から引退させたのか、引退後は適切に終生飼養の義務が果たされているのか、などについて確認する必要がある。しかしながら、現状ではそれを抜け道なく担保する仕組みが見当たらない。また、犬の生涯出産回数上限が6回と決められたのに対し、猫に上限が設けられていないことには疑問が残る。

REANIMALで繰り返し指摘している遺伝的疾患に関しては、一切前進が見られなかった。今回の検討会では、環境省から「これまでも基準として適応されてきたもの(であり、守られている前提)である*」旨の発言があった。解説書にも、「繁殖個体は繁殖の適否について診断を受けていること」とあるが、遺伝的疾患のリスクを含め、獣医師による診断基準についての具体的な定義はない。埼玉県獣医師会が指摘するような、「無秩序な繁殖の結果、日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」(参考記事)という課題には、解消への取り組みがまったく進んでいないと言わざるを得ない。

* 現行の基準:「高齢の動物等を繁殖の用に供し、又は遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと」とされている

さらなる福祉向上と犬猫以外の動物への対策も急務

「犬猫以外の哺乳類、鳥類及び爬虫類に係る基準についても、今後検討を進めるものとする(第57回・中央環境審議会動物愛護部会資料より)」とされたまま、昨年の10月から手つかずの状態である。これについて同省は、今年度から来年度にかけて検討を進める予定だとしている。前述の遺伝的疾患についても、昨年10月には環境省が以下の決意を語っている。今後の議論の中で、この問題についても具体的な基準の明確化に向けた前進を期待したい。

「長い品種改良の歴史の中で、母体の安全のために帝王切開による出産が基本となる犬種や特有の疾患のリスクがある犬種が存在することなどを踏まえ、犬猫の品種の多様性や人の動物への関わり方について、今後、幅広い視点から国民的な議論を進めていくことが必要」

環境省は「遺伝疾患等のリスク」についても議論を約束環境省は「遺伝疾患等のリスク」についても議論を約束

改正愛護法に対する一定の評価と今後に向けた期待

これまで1年以上にわたって改正愛護法とそれに伴う環境省令を見てきたが、環境省による「悪質な事業者の排除」にはある程度のコミットメントが感じられる。“命の商品化”を考える vol.18で紹介したように、環境省令に対しては生体取扱業者などから反発もあるようだ。それに対し、「動物愛護法」の議論に、ペット業者の利害を考慮する必要はないとする意見もある。今回の省令や解説書にも少なからず課題はあるが、行政処分も含む法改正には過措置等もやむを得ないとの判断だろう。あくまで「第一歩」としてではあるが、一定の評価は与えるべきだと考える。

【“命の商品化”を考える vol.21】  6月1日施行の動物愛護法・数値基準、 「解説書」に見る環境省の姿勢と積み残しの課題【“命の商品化”を考える vol.21】 6月1日施行の動物愛護法・数値基準、 「解説書」に見る環境省の姿勢と積み残しの課題

短期間で理想の環境を実現することが難しいのは日本だけではないだろう。これまでに紹介してきたように、動物福祉先進国のイメージがあるイギリスにも独特の課題は存在する。国ごとに、進んでいる点、改善すべき点は様々だが、共通して言えるのはすべての関係者が一体となって努力を続けなければ真の動物福祉は実現できないということだろう。ペットや犬猫に限らず、劣悪な環境で苦しんでいる動物たちが、1日も早く、1頭でも多く救われるために、何をすべきか。政府、ペット業界、そして一般の飼い主が、それぞれの立場で共に前向きに考えることが肝要ではないだろうか。

《石川徹》

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